
SUV激戦区に現れた
エレガントなレディ
世界的に大流行、並大抵のモデルがデビューしてもそれほどの新鮮味が感じられなくなりつつある感のSUVの世界。そんな中、新たに上陸したカジャー(KADJAR)には、ちょっとばかり「おっ?」と思わされた。いかにも! な感じのスタイリングが多いほかのSUV達とは雰囲気が異なって、大胆な曲線と曲面がうねる、微かに官能の匂いすら感じられるエモーショナルな姿態を見せていたからだ。先に日本に来ている妹分のキャプチャーも美形ではあるけれど、あちらはもっとボーイッシュな爽やかさと若々しさを感じさせるルックス。同じ家系にあって同じエレガンスを躾けられているというのに、姉の方は大人っぽい品格を身につけて女性らしい色香を漂わせている、というような感じだ。
ルノー・カジャーの美点は、まずはその柔らかなルックスにあるといえるだろう。激戦区といえるCセグメントのSUVの中で、その独特なフォルムはかなり印象的だ。3サイズは全長4455mm、全幅1835mm、全高1610mm。妹分のキャプチャーよりひとまわり大きいが、といって扱いに困るほどでもない。その内側の空間も、エクステリア同様に泥臭さとは縁のない雰囲気だ。助手席のセンターコンソール脇にアシストグリップがあることを除けば、上質なサルーンであるかのようにも思える。ダッシュボード周りはシンプルで機能的、けれど少しも四角四面じゃない柔らかな印象。シートは前後ともにたっぷりしたサイズで、座り心地も上々。フロントシートからの視界は良好だし、リアシートも膝周りのゆとりが大きいから、全体的にサルーンより居心地はいいかも知れない。
面白いのはラゲッジルームで、かなりフレキシブルな使い方ができる工夫がなされている。床面がボードによって上下に仕切られていて、もちろん下側にも収納できるのだが、その床面のボードは前後2枚に分かれていて、それぞれの高さを変えたり垂直に立てたりと、アレンジが可能なのだ。例えば前側は上下2段で後ろ側は底の深い1段、その中間にボードを立てて前後を仕切る、といった使い方もできる。ちなみにリアシートは6:4の分割可倒式で、ラゲッジルームの両サイドにあるハンドルでそれぞれを倒すことができ、通常は527リッター、リアシートを倒すと1478リッターという容量なのだが、そのシートのアレンジとボードのアレンジで、かなり多彩な積み込み方ができるのだ。まさしくヴァカンスの国フランスで生まれたクルマ。家族や仲間同士でフル乗車して、街を出て旅を楽しんで街に戻る、という使い方に見事にマッチしている。
そう考えるとスッキリと腑に落ちることがある。カジャーのプラットフォームはルノー日産アライアンスによって生み出されたキャシュカイやエクストレイルと基本を同じくするもので、当然ながら本国には4WDモデルもラインナップされている。が、メインストリームはあくまでもFWDモデル。日本仕様もFWDのみで、砂地や凹凸地で有効な走行モード切り替えシステムも持たされていない。日々の暮らしや休暇の旅ではタフな路面に遭遇する機会は確かに少ないから、そこは割り切って、使いやすさと快適さを重視したクロスオーバーSUVを目指したということなのだろう。
パワートレインは十二分
シャシーも意外にタフ
そうなると扱いやすさに加え、ある程度以上の力強さを持つアシの長いパワートレーンが欲しいところだが、カジャーはルーテシアなどでお馴染みの1.2リッター直4ターボを最高出力131ps/最大トルク205Nmへとチューニングして搭載している。トランスミッションは、メガーヌと同じ7速のデュアルクラッチ式だ。車重はルーテシアより190kg重い1410kgという数値だが、そのエンジンとトランスミッションの組み合わせはカジャーを思いのほか活発に走らせてくれたのだった。
発進直後から豊かなトルクを発揮してくれるエンジンの美味しいところを、マネージメントのかなり賢いトランスミッションが常に拾い続けてるような印象で、街中のみならず高速道路やワインディングロードも含め、力不足でじれったい想いをするようなことはなかった。高回転まで引っ張って走ることもできるが、低中速域で充分に満足できる車速の上がり具合を見せてくれるから、さほど回そうという気にならない。街中での相棒や休日のロングドライブのためのクルーザーとして考えたら、適切なセットアップだと思う。
足腰はどうかといえば、高速道路ではフラットライドを味わわせてくれて、とても気持ちよかった。ワインディングロードでは足が綺麗に伸び縮みして路面を粘り強く掴み続け、SUVとしては適度にシャープでスポーティともいえるハンドリングを楽しむことができた。砂利道を走ってみても足元は乱れず、予想より遙かに快適だった。サスペンションの動きそのものはかなり良好で、しっかりとルノーらしいのだ。が、タウンスピードで路面の荒れた箇所を通過するときに、その荒れ具合をわりと正直に身体へと伝えてくるところがある。日本仕様のカジャーは19インチのホイールと225/45サイズの扁平タイヤを履いていて、それが理由なのだろうと思われる。あるいは試乗したクルマが走行距離400kmでアタリがついてない状態だったから、それが理由なのかも知れない。本国には用意のある17インチ仕様や、もっと距離を走った状態であらためて試してみたいな、と感じたのが正直なところだ。というのは重箱の隅にある問題で、快適なのか快適じゃないのかと問われたら概ね快適だったと素直に答えられる部類ではあるけれど、フレンチらしい乗り味をハッキリと持っているクルマなだけに、そこをもっと追求してみたいという気持ちが湧いてきたのだ。
ちなみにオフローダーではないことを承知の上で、握り拳ぐらいの石がゴロゴロ転がっている凸凹道にも、おそるおそる侵入してみた。それこそ普通の日常生活の中ではまず出逢うことのない路面だが、最低地上高200mm、アプローチアングル18度、デパーチャーアングル28度という下回りが、足首をくじきそうで歩きたくはないようなその道を、あっさり何事もなくクリアさせてくれた。これくらいの逞しさがあれば、大抵のアクティヴィティには悠々と応えてくれるだろう。
フレンチ風の長いヴァカンスに出られる身分ではないけれど、このクルマでちょっとした旅に出てみたいな、と思った。
充実の安全装備
直感操作ができる「R-Link2」システム
【Specification】ルノー・カジャー・インテンス■全長×全幅×全高=4455×1835×1610mm■ホイールベース=2645mm■車両重量=1410kg■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1197cc■最高出力=131ps(96kW)/5500rpm■最大トルク=205Nm(20.9kgm)/2000rpm■トランスミッション=7速DCT■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク■タイヤサイズ(F:R)=225/45R19:225/45R19■車両本体価格=3,470,000円※■ルノー・ジャポン:http://www.renault.jp/
※ブランナクレ・メタリックのボディカラーは21,600円高