コラム

魅惑のBMWレジェンドたち【507 ROADSTER】世界でもっとも美しいロードスター

経営再建のきっかけはプレミアム性と技術力の結晶

アメリカで輸入車事業を展開していたマックス・ホフマンがBMWにエグゼクティブ向けスポーツモデルの開発を提案。それを受け入れて誕生した507は、あのエルヴィス・プレスリーを虜にするほど美しいロードスターだ。

ビー・エム・ダブリュー 507ロードスター(1956-1959)

大戦後の混乱期を過ぎて乗用車の生産を再開したBMWは、経営的には困難な時期に入っていた。その理由はいかにもBMWらしく、「プレミアムであること」に徹していたからだ。1951年、いきなり高級サルーンの501を発表。同クラスのメルセデル・ベンツ220よりもずっと高額で、進化型の502には戦後のドイツでは初となるV型8気筒エンジンを搭載。だが、時代の要求とはかけ離れていたために販売面では成功とは言い難かった。

 

それでもなお、BMWは方向性の修正(別カテゴリーのイセッタを1956年に投入したが)はしなかった。それどころか、アメリカ市場から要求により1956年には優雅なクーペボディを備える503と今回紹介する507を投入したのだ。 この507は、501のフレーム(当時のBMWはモノコック構造ではなかった)とシャシーをベースにホイールベースを355mm短縮。もちろん、アルミニウム製のシリンダーブロックを採用する3168ccのV型8気筒エンジンを搭載していた。デザインは503と同様にドイツ生まれだが、戦前からアメリカで仕事をしていたアルブレヒト・グラーフ・ゲルツが手掛け、ボディはアルミニウム製だった。

 

そのため、最高出力150psを発揮するエンジンと1330kgの車両重量によりパワーウエイトレシオは8.9㎏/psと当時としては高いレベルにあり、最高速度は220km/h(ファイナルレシオによっては190km/h)に達した。

 

 

こうした性能もさることながら、507は「世界でもっとも美しいロードスター」という名声を得た。実際に、息をのむほど優雅なフォルムであり、前後フェンダーの稜線とドアの絞り込みが織りなす雰囲気が妖艶さを醸し出している。また、501では消えていた戦前のBMWモデルを象徴するボディサイドのエアアウトレットを復活させ、その後のBMWにも高性能モデルであることを示すデザイン的アイコンとして受け継がれた。ちなみに、撮影時には外してあったがハードトップを装着した姿もまたクーペとして惚れ惚れする。

 

 

さらに、501から507まで貫いたBMWのプレミアム路線が、経営的な困難を克服する一因となった。507の生産台数は252台にすぎなかったが、BMWの思想と技術力を高く評価したヘルベルト・クアントが大株主に加わることで経営を再建。その意味でも、507はまさに「レジェンド」呼べる存在なのだ。

BMW 507 ROADSTER (MY:1958)

Specification■全長×全幅×全高=4380×1650×1300mm■ホイールベース=2480mm■車両重量=1330kg■乗車定員=2名■エンジン種類/排気量=V型8気筒OHV/3168㏄■最高出力=150ps/5000rpm■最大トルク=24.0kgm/4000rpm■トランスミッション=4速MT■サスペンション(F:R)=ダブルウィッシュボーン:トーションバー■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク

■取材協力=堺市 文化観光局 https://www.city.sakai.lg.jp/
堺市ヒストリックカー・コレクション
「カメラのドイ」の創業者である故・土居君雄氏が、ドイツ工業技術への憧れから収集し世界的に注目を集めた「ドイBMWコレクション」。土居氏の他界後、新婚時代を堺市の浜寺で過ごした佳き思い出から、1993年に妻・満里恵さんのご厚意により堺市に寄贈された。

解説:萩原秀輝 H.Hagihara/フォト:宮門秀行 H.Miyakado
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