
XC90から始まった新世代ボルボの、5番目となるV60が上陸を果たした。大ヒットを飛ばした850、そして歴代V70の系譜を受け継ぐこのステーションワゴンは、かつての「エステート=ボルボ」復権と、今後の彼らの電動戦略を担う、極めて重要なモデルなのだ。
「エステートのボルボ」復権を賭けたモデル
ボルボといえばXCシリーズの成功によって、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのSUVヒットメーカーとなったのはご存じの通りだ。
しかしV90に真打ち「D4 AWD」が登場したことで、ボクはボルボがかつて「エステートのボルボ」として一世を風靡したあの 威厳を、今一度強く取り戻すのではないか? と感じた。
フロントに搭載するディーゼルユニットが足回りを落ち着かせたのか、サスペンションそのものが熟成を極めたか、その乗り味は4輪にエアサスを持つXC90にも負けないたおだやかさで乗り手を魅了し、旗艦エステートとしての貫禄を見せつけたのである。
それだけに今回、ようやくV60が日本上陸したことが嬉しくてならない。なぜならこのミドルワゴンこそが、我々でも少し背伸びをすれば手が届く“真の真打ち”だからである。
V60の日本におけるパワーユニットはその頂点に「T8ツインエンジンAWD」を据え、「T6ツインエンジンAWD」、「T5」と続く3種類。FWDモデルである「T5」のみベーシックな「モメンタム」を用意し、残りは全て豪華仕様の「インスクリプション」となる4グレード構成となっている。ちなみに全てのモデルが2.0リッターの排気量を持つ直列4気筒ガソリンエンジンであり、現状はディーゼルユニットの導入が見送られたようである。
そして今回、このV60で最も売れ筋モデルとなるであろうT5インスクリプションに試乗した。タウンスピードで味わうV60のプレステージ性は、嬉しいことに完璧だった。ひとことで言うとその運転感覚は素晴らしく快適だ。 これにはまず、先代モデルに比べて15mm短くなった全幅が効いていると思う。XC系ほどではないが適度に高いアイポイントと合わせ、街中の狭い路地を曲がるような場面でも、車幅をほとんど意識させられないのは見事だ。ちなみに回転半径は5.5mである。
実はこの全幅縮小は日本市場からの要求を聞き入れたもので、デザイナーは縮められたボディ幅に対し現行の伸びやかなデザインを与えることに苦労したという。
しかしフェンダーまで伸ばされたトールハンマーヘッドライトや、リップスポイラーの横長なエアスクープは自然。かつ遠くからこのV60を見たときの存在感はかなり高いから、本当に今のボルボはデザインが乗っている。
さらに縮まった全幅に対して、ホイールベースは125mmも伸ばされその居住性は高まった。そして全高は45mmも低められ1435mmとなり、日本の立体駐車場問題もそつなくクリアしている。
荷室容量にいたっては、430Lから529Lにまで増やされた。それでいて横から見たプロポーションは冗長過ぎず美しい。V90に比べるとリアハッチは垂直気味だが、そこはひとまわり小さなボディを有効に使う手段としてはまっとうな手法である。

ラゲッジスペースは、標準状態で529Lというクラストップレベルの容量を確保。60: 40の分割可倒式リアシートをたためば1441 Lまで拡大可能で、操作も荷室側からできる。床下にも収納スペースが備わり、荷物を動き にくくするパーテーションなどを装備するなど、使い勝手も良好だ。
快適な乗り心地とキビキビとした走りを両立
V60はこの取り回しの良さに加えて、乗り心地も快適だ。適度にソフトながら芯にはコシのあるサスペンションが路面からの入力 を巧みに遮断・減衰。最終的には分厚く張りのあるインスクリプション仕様のレザーシートが、乗り味をほどよく引き締める。このハーモニーはドイツ勢では出せない味わいだろう。
こうした特性からステアリングのゲインは決して高くない。しかしダブルウイッシュボーンを用いたフロントサスの支持剛性が高いため、セオリー通りフロントタイヤに荷重を掛けてやれば、与えた分だけタイヤがグリップを発揮して、リニアな応答性が得られる。
またこのときターボのピックアップが小気味よく初速を付けてくれるため、普段は極めてしっとりおっとりしていても、きっちり走れば走るほど、キビキビとした身のこなしが得られる。
そして高速域への加速は、8速ATのスムーズな変速がターボのトルクを上手に使いこなして速度を乗せてくれる。全開加速に圧倒的な速さはないが、スピードの乗せ方がスムーズだから滑るように走る。このハンドリングと同じく派手すぎずダル過ぎない出力特性が、快適性とともに高級感を高めてくれるのである。
さらに嬉しかったのは、XC60でややガサツに感じたファイバー製リーフサス(リア)の乗り心地が良くなっていたことだ。
空荷状態だとまだ微かにリアメンバーあたりの動きにシブさやぎこちなさが残るものの、可変ダンパーの付かないコンベンショナルダンパーでも、雑味がうまく消されていたのである。
これには45扁平の分厚いエアボリュームを持つコンチネンタル・プレミアムコンタクト6の乗り味もうまく作用していたと思う。
ただ80km/h以上の高速域になると、このバランスが少し狂うのは惜しかった。平らな路面であれば良いのだが、うねった路面でゆっくりと大きな入力が入ると、足回りとタイヤの伸縮周波数が微妙に合わずにバウンシングを繰り返してしまうのだ。そして荒れた路面では、ダンパーの減衰力が鋭く立ち上がって微振動が続く。
どうやらこの足回りの高速時におけるスィートスポットは欧州の高速領域にあるようだ。よって日本の高速道路では、ちょうどコンフォート域とスタビリティ域が切り替わるポイントが常用域となってしまうようである。
もっともこれはV90の快適な乗り味を基軸とした意見であり、年齢に限らずV60を好むような若々しいドライバーであれば、これくらいのバウンスや微振動も問題ないかもしれない。またエステートとして荷物をきっちり詰め込んだ状態なら、サスペンションにも座りが出ると思う。
ただ個人的には空荷でも積載時でも乗り味を均等化して欲しい。今回試乗できなかったオプションの可変ダンパーが、こうした中速域でのバウンシングを減らし、小刻みな振動をうまく減衰してくれることを期待したい。
ゆったり走るという意味では相変わらずACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)へのアクセスが良好なこともボルボの価値を上げている。前車追従機能はウインカー操作にも連動しているし、万一中断してしまってもステアリングスポーク上のボタンを押せば復帰は簡単。今回から「パイロットアシスト」もバージョンアップしたようで、そのステア操作もよりきめ細かくなった。
総じてこのV60、ボルボの狙い通りのステーションワゴンに仕上がったと思う。そのキーワードはずばり「プレミアム&ファミリー」。特に1850mmとなった全幅と1500mmを超えない全高のおかげで、日本では改めてインポートファミリーカーの最右翼に上 がるのではないかと思う。
まだ荒削りな部分もあるが、それすらもスカンジナビアンの気風であれば頷ける気さえする。そう、ボルボは北欧の美しさだけでなく荒々しさも魅力なのである。
木訥にしてハイセンス。物静かながらハイインパクト。ピカピカとしたオッサンくさいウッドパネルではなく、砂浜に流れ着く流木(ドリフトウッド)をイメージしたパネルをインテリアに引いてしまうあたりの大胆さである。
こうしてひいき目に見ることができるのは、近年のボルボが常に目標に向かって挑戦し続けているからだろう。その勢いを、誰もが感じ取っているからだと思う。
Specification
ボルボV60 T5 インスクリプション
車両本体価格(税込):5,990,000円
全長/全幅/全高[mm]:4760/1850/1435
ホイールベース[mm]:2870
トレッド(前/後)[mm]:1600/1600
車両重量[kg]:1700
最小回転半径[m]:5.7
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:B420/直4DOHC16V+ターボ
内径×行程[mm]:82.0×93.2
総排気量[cc]:1968
圧縮比:10.8
最高出力ps(kW)/rpm:254(187)/5500
最大トルクNm(kg-m)/rpm:350(35.7)/1500-4800
燃料タンク容量[L]:55(プレミアム)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:12.9/-
ミッション形式:8速AT
変速比:1)5.250、2)3.029、3)1.950、4)1.457、5)1.221、6)1.000、7)0.809、8)0.673、R)4.015、F)2.955
サスペンション形式:前 Wウィッシュボーン/コイル、後 インテグラル/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/ディスク
タイヤ(ホイール):前235/45R18(8J)、後235/45R18(8J)