国内試乗

試乗インプレ【フェラーリ・ポルトフィーノ】グランドツーリングの 新境地を開拓するオープンスポーツ

パワフルなエンジンに質感の高い乗り心地

前後ダブルウイッシュボーンのサスペンションは、短いストロークの中でしっかりとした減衰力を発揮して、引き締まっていながらも質の高い乗り心地を実現している。路面の継ぎ目を通過する時などの鋭い入力に対しては、やや華奢な感じもなくはないが、快適性は期待以上と言っていい。

20インチホイールには、前245/35、後285/35サイズのピレリPゼロが組み合わされる。ブレーキディスクはカーボンセラミック製だ。

エンジンのパワフルさも気分を昂揚させる。V型8気筒3.9リッターツインターボエンジンは、カリフォルニアTに積まれていたものの改良版で、最高出力は600ps、最大トルクは760Nmを発生する。実際のところ低回転域ではレスポンスがやや緩慢で、トランスアクスルレイアウトとされた7速F1-DCTも、ダイレクトな変速感と引き換えに、ややギクシャクとした感触を伝えることもあるが、アクセルを踏み込んでいくと回転上昇は俄然スムーズになるから、ついペースが上がってしまう。

600ps/760Nmを発生する3.9L V8ターボ ユニットは、先代のカリフォルニアTより40ps の出力アップを実現。0→100km/h加速3.5 秒、最高速度320km/h以上を誇る。

エキゾーストサウンドはかなり低音寄り。特に低速域ではバリバリという破裂音が響くが、これも回していけば、さすがにソプラノにはならないもののずいぶんと澄んだ音を聞かせてくれるようになる。とは言え、期待値からすればもう少し、ヌケのいい音が欲しいのは事実。ツインスクロールターボチャージャーを内蔵した鋳造ワンピース・ターボエキゾーストを採用するなど、排気管長をできるだけ確保し、等長に近づけようと努力はしているのだが、488GTBなどと較べてエンジンベイの絶対的なスペースが足りないだけに、ここは如何ともし難いところなのだろう。

トップを閉じれば、ご覧のようにスタイリッシュなクーペボディへと様変わり。リトラクタブルハードトップの開閉時間は14秒で、40km/h以下なら走行中でも操作が可能だ。

ウインドディフレクターは、空気の巻き込みを30%低減したという新構造。これがないと、やはり顔や髪の毛は盛大に風に晒されることになる。たまらずルーフの開閉スイッチに手を伸びた。走行中でも40km/h未満なら開閉可能なのは、信号待ちなどでサッと開け閉めしたい時に、とても助かる。

ルーフが閉まると、走りの印象も大きく変わった。さすがハードトップだけに、それだけでボディの剛性感が格段に高まり、ステアリングの応答性も格段にリニアリティを増したのである。

クローズ時のトランク容量は292Lと、スポーツカーとしては優秀な数値をマーク。

ステアリングホイール上のノブで走行モードを切り替えることができるマネッティーノが、標準の「コンフォート」にセットされている時には、電子制御ディファレンシャルのE-Diff3は外輪へより多くの駆動力を配分するトルクベクタリングによって、旋回性を高める働きをする。思えばカリフォルニアの初期型などは、ステアリングのゲインを相当に高めることでクイックさを演出していたが、ポルトフィーノはそれをリアの駆動力によって、よりリニアに行なっているのだ

ノブを右に1段ひねって「スポーツ」に切り替えると、ハンドリングも性格が変わる。このモードはトラクション確保が最優先となり、左右輪のトルク配分が均等に近づく。旋回性がやや大人しくなる代わりに、アクセルオンでリアから蹴り出すような挙動が強調されるのだ。リアタイヤは285サイズと、60ps0のFRの割には太くはないが、それでもトラクションに不足はなし。もっとも、都心の一般道ではその差はほとんど体感できないから、自分ならそのパフォーマンスを余さず味わうべく、きっと週末にはワインディングロードやサーキットに行きたくなりそうだ。ただし、フェラーリがGTと位置づけるポルトフィーノにはマネッティーノの「レース」「CTオフ」は用意されない。

フェラーリの調べでは、カリフォルニア/カリフォルニアTは、歴代フェラーリの中でも、もっともデイリーユースに供される比率の高いモデルだったという。新規ユーザーを多く獲得できたのも、それを可能にする高い完成度があってこそだったはずである。

ダッシュ中央のエア吹き出し口間には、ハニカム形状のデザインが施される。

ポルトフィーノは、その美点はそのままに一層美しさを増したデザインをまとい、何より大幅に刺激を高めた走りを手に入れた。進化は、まさに全方位に及ぶ。今度も間違いなく、大きな成功を収めるだろう。実際、すでに納車待ちの列は、ずいぶん長くなっているということだ。

フォト:柏田芳敬/ル・ボラン2018年11月号より転載

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