
パリ・モーターショー2018
10月2日(火)のプレスデーから始まり、4日(木)~14日(日)までの11日間に、フランスの大規模展示場「パリ・エキスポ(ポルト・ド・ヴェルサイユ)」で一般公開された「MONDIAL PARIS MOTOR SHOW(以下パリ・サロン)」。およそ8年間のドイツ駐在期間で、あらゆる国際モーターショーの取材を重ねたモータージャーナリストの竹花寿実(たけはなとしみ)が今年のパリ・サロンを振り返る。
相変わらず大規模だが
10月14日、120周年の節目となる2018年のパリ・サロンが閉幕した。11日間の一般公開日に訪れた来場者は、106万8194人で、1日あたり10万人弱が訪れた計算である。この数字は、昨年のフランクフルト・モーターショー(81万人)や今春のジュネーブ・モーターショー(66万人)を大きく上回り、パリは世界で最も大規模なモーターショーの座を譲ることはなかった。しかし、88回目を迎えた今年のパリ・サロンは、例年とは様子が違っていた。来場者数も2年前の125万3513人を大きく下回っているのだ。
私は今回、一般公開に先駆けて10月2日(火)、3日(水)に行われたプレスデーに会場を訪れたのだが、そこにはランボルギーニやベントレー、ミニ、ロールス・ロイス、オペル、ボルボ、日産、マツダ、三菱、スバル、アメリカ系各ブランド、そして世界最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンまで、14ものブランドがブースを構えていなかったのである。
しかも、BMWとアウディはドイツ本国のAGではなく、フランス現地法人としての出展。ホンダは大幅に規模を縮小した出展で、アキュラやインフィニティは、小規模ブランドが軒を連ねるスペースに寂しく並んでいた。プジョーやDS、トヨタ、レクサス、スズキなどはプレスカンファレンスも行わず、ドイツ勢ではメルセデス・ベンツのみが本国からCEOが来てプレスカンファレンスを行った。
このような状況であるため、自動車ブランドの展示スペースを合わせた面積は、前回までと比較すると半分程度にまで減っていた。空いたスペースには、2輪ブランド(もちろんフランス現地法人)やサプライヤーなどがブースを構え、ぽっかり空いたホール7は、毎年1月にラスベガスで開催される世界最大の消費者家電見本市であるCESとコラボレーションした、ITをテーマにした展示に特化したスペースになっていた。
独自展開とSNSが主流?
例年のパリ・サロンは、プレスデーの2日間は世界中から集まったメディア関係者で溢れ、注目モデルの写真を撮るのもひと苦労。運転席に座ってディテールをチェックしたくても、何人も並んでいるのは当たり前で、映像メディアが撮影するとなるとクルマに近づけなくなるのも日常茶飯事だった。
しかし、ハイライトがなかったわけではない。今年も多数のワールドプレミアはあり、一部の注目モデル(メルセデス・ベンツGLEやBMW 3シリーズ、BMW Z4、DS3クロスバック、フェラーリ・モンツァSP1 / SP2など)は、なかなか近づけない状況だったが、それでも普段のモーターショー取材に比べればそれほどでもなかった。プレスデー初日の午後には、足早に帰路へ就くメディア関係者も多く見られ、会場はいっそう寂しい状況になっていった。
大規模な国際モーターショーが、今回のパリ・サロンの様な状況になりつつある気配は、数年前からあった。例えばジュネーブ・モーターショーは、2年ほど前から出展ブランドが減り始め、空いたスペースは有名チューナーのチューニングカー展示即売会場や、カフェスペースとして使われるようになっている。昨年のフランクフルト・モーターショーは、プジョーやボルボ、日産が不参加だった。
また、各ブランドがメディア向けにショー会場でプレスカンファレンスは行わず、ショーとは関係ない日程で独自にイベントを行い、そこにメディア関係者やカリスマブロガー、インスタグラマーといったインフルエンサー(世間に与える影響が大きい情報発信者)を集めて、SNSを通じて情報を拡散するマーケティング手法が、ここ数年頻繁に見られるようになっている。
2輪ブランドの出展や、CES(国際家電見本市)とのコラボレーションは、そうした自動車メーカーの「モーターショー離れ」に対する苦肉の策なのかもしれないが、現場で「内容の薄さ」や「熱気のなさ」を体感した身としては、今回のパリ・サロンは、「モーターショーというコンテンツの終焉の始まり」なのかもしれないと考えてしまう。
グローバル化でブランド毎のクルマの個性が薄まり、IT技術の進化でクルマの家電的要素が強まり、世界的な都市化とシェアリングモビリティの普及でクルマを所有する意味が薄れ、最新情報は何でもスマホで手に入る世の中になった現在、自動車メーカーはショー会場ではなくクラウド上に情報をアップロードし、消費者はSNSに流れてくる情報を享受する。すでにそんな世の中なのかもしれない。
自動車産業が大きな転換期にある今、モーターショーも新しいかたちへ変化を求められていると言っていいだろう。