清水和夫のDST

メルセデス AMG GT S vs ポルシェ 911 ターボ、掛け値なしのガチンコ対決!【清水和夫のDST】#67-1

清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number 67

メルセデス AMG GT S vs ポルシェ 911 ターボ
個性と個性がぶつかり合う、まさに接戦で名戦

メルセデス・ベンツAMGとマクラーレンが共同開発したSLRの誕生から10年余り。AMGは、独自にAMG GTなるコンプリートカーを発表し、マクラーレンも独自にスポーツカーを開発するようになり、この市場に変化が訪れた。そして現在、AMG GTのライバルはマクラーレンではなく、パフォーマンスの近いポルシェ911ターボである。今回は、その両車を引っ張り出し、直接対決を試みる。

 

完成度の高いスポーツカーを本気で開発

AMGは長らくメルセデス・ベンツのエンジンチューナーとして、ホットなメルセデスを作ってきたブランドである。しかし2004年のSLRからはコンプリートカー製作の道を歩み始め、いまではメルセデス・ベンツの別働隊としてスポーツ車両を一挙に引き受ける存在となった。そのため、エンジン開発だけでなく、カーボンなどボディ素材の研究や空力技術まで身につけるようなったのだ。これはF1などのモータースポーツ参戦を見ても分かるように、フェラーリやポルシェのようなスポーツカービジネスの構築を目論んでいるからだろう。今回登場したAMG GTは、これまでとは違って、完成度の高いスポーツカーを本気で開発してきたように感じた。

エンジンは「ホットV」と呼ばれる新世代V8ターボ。Vバンク内にタービンを搭載する方式はBMW M5/6から始まったV8ターボだが、コンパクトにまとまったV8はフロントボンネット内の後方に搭載される。つまり、フロントミッドシップなのだ。実測値で計算するとフロント48%、リア52%の配分となっている。

高速周回路では、エンジンはAMG特有の「ゴロゴロ」という音を聞かせてくれる。これは各シリンダーの点火順序に秘密があり、狙いは個性的なV8サウンドである。コクピットに座るとポルシェ911 GT3と同じようなアルカンターラのステアリングホイールが印象的だ。しかし、そのグリップが太い。手が小さい私にはちょっと握りにくかった。

AMG GTの特徴は、ロングノーズのFRパッケージを持っていること。サーキットでドリフトさせると、911とは違った感覚が得られる。この日の高速周回路はかなり強い横風が吹いていたが、低いフォルムだから横風への安定性も悪くなかった。

 

驚くほど実用性が高い911ターボ

一方の911はマイナーチェンジでカレラもターボ化したので、これから911はすべてターボとなる(GT3を除く)。しかし、911ターボは3.8Lなので、その出力は大きい。新型911はターボが540psでターボSが580ps。なんと600ps前後が当然の時代に突入してしまった。だが、重要なのはオーバー500psのパフォーマンスにも関わらず、911ターボは田舎道を軽トラの後ろでも、行儀よくゆっくりと走ることができることだ。300km/hでも30km/hでもスムーズに走れるエンジンとPDKがポルシェの凄さだ。PDKのダウンが鋭いのはシフトの変速時間だけでなく、コンピュータが計算したエンジンスピード(回転数)に瞬時に応えることができる、緻密なエンジン制御ゆえ。サーキットでのハンドリングはAMG GTと同じように楽しく走れるが、911ターボのほうがラップタイムが速い。しか も高速周回路の横風安定性はAMG GTを凌いでいた。

DSTの通信簿では甲乙つけがたい結果となったが、AMG GTは趣味性が高いスポーツカー。独特の個性を持っているので存在感は大きいから、そこに惚れたらAMGの世界を愉しむのがいいだろう。一方、911ターボは驚くほど実用性が高いので、マダムでもお買い物に使える。しかもゴルフバックを後席に格納することもできるし、燃費もいい。新型911ターボ(2017年モデル)は高度な運転支援も装備されそうだ。

 

RESULT

両車がスタイルを貫き、名勝負といえる接戦となった
●メルセデス AMG GT S:18.0/20点
●ポルシェ 911 ターボ:19.0/20点

ル・ボラン 2016年3月号より転載
LE VOLANT web編集部

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