国道148号・千国街道(No.053)
北アルプスを仰ぎ見ながら走る塩の道。
日本の海岸部と内陸部を結ぶ主要ルートの大半は、その起源をたどると塩の道になるといわれる。そうした塩の道のなかでも特に有名なのは、信州の松本から新潟の糸魚川へと延びる千国街道だろう。
時は戦国の永禄10年(1567年)、甲斐の武田信玄は、駿河の今川氏と相模の北条氏により太平洋側からの経済封鎖『塩留め』を受けることになる。武田の領民は深刻な塩不足に苦しむことになるのだが、これに憤慨したのが『義』を重んじる越後の上杉謙信 だった。信玄とは宿敵関係にありながら、謙信は自分の支配する千国街道を通って武田領内に塩が運ばれることを許し、そのおかげで甲斐や信濃の人々は塩不足から解放されたという。『敵に塩を送る』という諺はこんな出来事に由来している。
松本を出発して千国街道を北に向かうと、しばらくは明るく、広々とした平坦地が続く。安曇野である。やがて信濃大町を過ぎ、高瀬川(信濃川水系)と姫川とを隔てる小さな分水嶺・佐野坂峠を越えると白馬村。目の前には神々しいほど美しい北アルプスの山並みが大きく迫ってくる。
千国街道を旅するのに最もいい季節は、おそらく5月の連休前後だろう。のどかな田園地帯では田植えが始まり、水を張った田んぼには残雪を抱く白馬三山の姿がくっきりと映し出される。いつまでも大切にしたい日本の農村風景がこの道にはあふれている。