清水和夫のDST

BMW 740i vs メルセデス・ベンツ S300h、その似て非なる味付けの違いが露わに!【清水和夫のDST】#70-1

清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number 70:その似て非なる味付けの違いが露わになった!

BMW 740i vs メルセデス・ベンツ S300h

シーズン6として、新たなスタートを切ったDST。その初回は、ドイツのハイエンドサルーンを真っ向勝負。日本ではディーゼルハイブリッドがエントリーモデルとなり、ガソリンハイブリッド、プラグイン、そして頂点にはAMGも君臨するラインナップのメルセデスのSクラス。対するは、高級車でありながらドライバーズカーとしてのDNAを具現化しているBMW7シリーズ。ハイレベルなテストが期待される!

 

高級車の頂点に位置する永遠の宿敵

ひと昔前まで高級車市場を独占していたメルセデス・ベンツSクラス。現行のW222は、さらに力を入れて開発が行なわれた。た とえばパワートレイン。日本ではディーゼルハイブリッドとガソリンハイブリッド、さらにはプラグインハイブリッドに通常のV8ターボ、頂上にはAMG S63やS65もラインナップされ、4輪駆動も用意される。まるで、先進技術のデパートのような品揃えだ。

その豊富なバリエーションの中でも、今回テストしたディーゼルハイブリッドはユニークな存在だ。パワーユニットは2.2L直列4気筒ディーゼルに27ps/250Nmのモーターを組み合わせる。バッテリーはリチウムイオンだ。JC08モード燃費は20.7km/Lの結果を出しており、実際の長距離走行でも、法定速度で流すような走りであれば、モード通りの燃費で走れる。もちろん燃料代はガソリンよりも安い。

だが、その魅力は燃費や経済性だけではなく、トルクの塊とも表現できる走り味にある。できれば9速ATが欲しいが(新型Eクラ スには搭載)、オーラのようにトルクが湧き上がる走りには王者の風格がある。アイドリング音は外で聞くとうるさいが、室内はいたって静粛だ。ただし、走らせて愉しいパワーユニットというわけではない。

高速周回路でのドライブフィールはどうか。さすがメルセデスと思わせたのは、乗り心地とスタビリティのバランスだ。バンク下でフロントタイヤからスキール音が鳴るぐらい切り込んでも、安定性に揺るぎはない。まるでリアタイヤがイカリで繋がれているような安定性だ。この快適性と安全性こそが、メルセデスSクラスの最大のバリューである。

 

そんなS300hとは対照的なのが、BMW 740iだ。先代モデルよりも割りきって開発され、BMWらしいドライバーズカーを目指している。しかし、技術的には高級車とドライバーズカーの両立は非常に難しい。つまり、メルセデスSクラスよりも難易度が高いコンセプトで開発されているのだ。

エンジンは直6ターボ。V6よりも回転がスムーズで気持ちがいい。BMWの直6ターボは、ポルシェのフラット6のターボと並んで完全バランス。その突き抜けるような吹け上がりは、BMW製ストレート6の大きな魅力だ。ターボでありながら高回転まで回るエンジンは高級車では珍しく、この世界観はBMWだけかもしれない。だからこそ、高速周回路を走るとドライバーズカーだと改めて気づ かされる。この感覚は先代の7シリーズよりも強く、ドライバーズカーのDNAがより濃くなったと感じた。

BMWは、Dセグメントの3シリーズは得意分野だが、これまで7シリーズはどうしてもSクラスに敵わなかった。だが、新型はラ グジャリー性を失わない範囲で駆けぬける歓びを実現できたのではないだろうか。そういう意味でも、今回の2台はライバルでありながら似て非なる高級車であり、それぞれが独自の価値観を打ち出している。

 

新たなるライバルの登場で高級車は一段と面白くなる

いま、このプレステージカーセグメントに新しいライバルが登場している。その筆頭は、テスラのモデルSだ。AWDもあるし、ウインカーだけで自動的に車線変更できるシステムも実用化している。電気モーターは微妙な加減速の応答性が良いので、自動運転に向いている。つまり快適性と安定性、あるいはドライバーズカーとしての走る歓びだけでは、これからの高級車はやっていけない。

 

2020年には水素燃料電池の高級車(たぶんレクサス)、自動運転の高級車も数多く登場するだろう。メルセデスとBMWの頂上対決にこうした新たなるライバルがどう挑むのか、興味は尽きない。

RESULT

BMW740iに軍配だが、勝負はハイレベル。次のステージに移っている
●メルセデス・ベンツ S300h:16.5/20点
●ビー・エム・ダブリュー 740i:18.0/20点

 

ル・ボラン 2016年7月号より転載
LE VOLANT web編集部

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