眺める場所で表情が変わるうつくしくも神秘的な山
鳥取県の南西部にそびえる標高1729mの大山。この山は中国地方で最も高い独立峰ということもあり、古くから山岳信仰の対象として多くの人を惹きつけてきた。その参詣者や修験者が歩みを刻んだのが大山道である。
県道45号・鍵掛峠の周辺に広がるブナの原生林。樹齢100-200年の巨木が道路脇に生い茂っている。
なだらかに続く中国山地のなかにあって、ただひとつ異彩を放っているのが大山である。大山は古いカルデラの上に巨大な溶岩ドームが成長した成層複式火山で、最高峰は剣ヶ峰の1729m。標高だけをみると大したことがないようにも思えるが、周囲から抜きんでた独立峰だけに、遠くから見てもひと目でそれとわかる。
まるで緑のトンネルのようなブナの森を走り抜ける。
まわりの山から際立った存在だけに、大山は古くから人々の信仰を集めてきた。大山寺が開かれたのは養老年間(西暦717年〜724年)といわれ、平安末期には3000人もの僧兵を擁するまでに勢力を強めた。高野山や比叡山、吉野山などとも肩を並べる西日本有数の大寺院だったのだ。そして、この大山寺を中心として、参詣者や修験者の歩みにより自然発生的に四方八方へと延びていった道が、いつしか『大山道』と呼ばれるようになる。
県道30号・一息坂峠付近から眺める大山。標高は2000mに届かないが、山の表情はきわめて荒々しい。
こうした道は時代が移るとクルマの行き交う観光道路へと生まれ変わっていくのだが、そもそも『出雲風土記』の国引き神話では、引き綱の杭となったのが大山だと伝えられている。こうした伝説まで考えると、現在、大山の周囲に伸びる道路の起源は、神話時代までさかのぼるといえる。
大山の西側、桝水高原付近から眺める大山。この端正な姿は、まさに『出雲富士』そのもの。
そんな道路のひとつ、標高800m前後の中腹をぐるりと一周する県道(通称:大山環状道路)を走っていく。