神火山がもたらす恵みも計り知れないほど大きい
「噴火のはじまった頃は、雲仙観光の目玉がまたひとつ増えたと、喜ぶ関係者さえ多かったとですよ」
こんな打ち明け話を聞かせてくれたのは島原市役所の商工観光課の人だった。ところが周知の通り、普賢岳の噴火は5年にもおよび、観光業界も大打撃を受けることになる。
「とはいえ、地元で山を恨むような人はあまりおらんでしょうな」
その理由は火山のもたらす恵みもまた、計り知れないほど大きいことを知り尽くしているからだろう。
南島原駅近くの景勝地、九十九島は『島原大変……』のときに眉山から転げ落ちた巨岩の残骸。島原城下を潤す清らかな湧水群も、このときの地殻変動によって生じたものである。もちろん、雲仙をはじめとする名湯も火山活動の副産物にほかならない。
平成の噴火が始まったとき『溶岩ドーム』と呼ばれ、その後『平成新山』と名付けられた雲仙の最高峰(1486m)は、日本で(おそらく世界でも)もっとも新しい山であり、大地の息吹をこれほどリアルに、間近で目にできる場所はほかにはないだろう。さらに言えば、平成の噴火から島原の中心街を守ったのは、何を隠そう『島原大変……』を引き起こした眉山なのである。これが巨大な堤防となり、火砕流や土石流の向きを南寄りに変えたのだ。
うるわしき西海の海と山をめぐる島原街道。この道を旅していると、大自然の恵みと猛威が背中合わせにあることをあらためて思い知らされる。