九頭竜川の流れに沿って“奥越の小京都”へ下る
400m近い標高差を一気に登り詰めた国道158号は、油坂トンネルを抜けて福井県側に入ると、今度はゆったりと下っていく。特に有名なドライブルートではないけれど、九頭竜川の流れや大小さまざまなダム湖を眺めながら走る、実に気持ちのいい道である。
九頭竜ダムがある渓谷は、かつては穴馬谷と呼ばれていた。このあたりには穴馬総社、白馬洞、馬返などなど、なぜか馬にちなんだ地名が多い。もしかすると、日本海で獲れた塩や海の幸は、このあたりまでは山道の苦手な馬によって運ばれ、そこから先は歩荷たちに背負われて峠の急坂を越えていったのかも知れない。
九頭竜川の流れに沿ってさらに下っていくと、四方を山々に囲まれた広々とした田園風景が広がる。〝奥越の小京都〟とも呼ばれる越前大野(大野市)の街である。
地下水の豊富な越前大野は、街のいたるところに湧水地が点在している。お世話になった宿の女将さんによると、「ほんの数mも掘れば地下水脈があるので、市内のほとんどの家では地下水を水道に使っている」とのこと。言われてみると、家々の玄関や勝手口には昔懐かしい手押し式の井戸が残っている。ただし、これらは停電時の非常用で、揚水ポンプが止まっても水に困らないよう、昔の井戸を残しているのだそうだ。
最近、越前大野の街で話題となっているのは、雲海に浮かび上がる山城の姿だ。街の中心部にそびえ立つ越前大野城は、竹田城(兵庫県朝来市)や備中松山城(岡山県高梁市)などとともに〝天空の城〟として全国的にもその名前を知られるようになっている。
左上の写真のような見事なシーンと出会えるのは、盆地がすっぽりと霧に覆われる10月から3月にかけての早朝。筆者も目覚ましをセットしておいたのだが、残念ながら翌朝は雲ひとつない快晴。10m先も見通せない濃霧が立ちこめている時しか天空の城とは出会えないと聞いていたので、さっさと二度寝を決め込む。
国道158号は越前大野からまっすぐ西に向かった福井市街で国道8号と交わり終点となるが、かつての越前街道は九頭竜川の流れに沿うように日本海まで延びていた。途中、朝倉氏五代が栄えた一乗谷、柴田勝家が統治した北庄など、戦国武将が築いた城下町を抜け、北前船の重要拠点だった三国の港町まで続いてゆく。