
清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number83(SEASON.8):もはやドイツ車優位説は過去のこと。アメリカ車とイタリア車の底力に脱帽!
キャデラック CT6 vs マセラティ・クアトロポルテS
非ドイツ系メーカーで民族資本系を探すと、アメリカのキャデラックとイタリアのマセラティが思いつく。ともに立派なプレミアムブランドであり、両社とも世界の自動車産業の功労者だ。キャデラックはスターターモーターを考案し、マセラティは、かのエンツオ・フェラーリを輩出したブランドである。今回はそんな個性際立つ2ブランドをテストした。
期せずして到来した、高級サルーンの当たり年
マセラティの個性はとても分かりやすい。ギラギラするエンジンは官能的で、その存在感は地中海に光り輝く太陽と同じだ。ハンドリングもスポーツカーと間違えてしまうほどレーシーで個性的。一度味わってしまうと、その味が忘れられない。走り好きならメルセデスAMGよりもクアトロポルテの方が楽しめるかもしれない。
キャデラックCT6はどうか。同ブランドのフラッグシップとはいえ、自然吸気のV6エンジンとFRベースのAWDだけでは華がない。ダイナミクステスト主体のDSTでは、CT6は大敗するかもしれないと思っていたが、予想は外れた。スペックの背後に潜む、ドライバーに寄り添ってくれるオーガニックな性能が存在していた。機械と人間が、ここまで仲良くなれるという良い例だろう。
テストを終えて思ったことは、CT6はやはり名実ともにキャデラックのフラッグシップであり、トランプ大統領にもステアリングを握って欲しい、伝統的な高級サルーンだということであった。
期せずして2017年は高級サルーンブームに沸いている。アウディA8やレクサスLSがフルモデルチェンジを果たし、Sクラスもフェイスリフト、BMW7シリーズベースで開発されたロールス・ロイスも世を賑わせている。世界の5m級フルサイズサルーンの競争が激化し、ブランドのプライドや個性が競合する縮図となり、日独英米伊の高級車バトルが面白い展開になってきた。この先は自動運転のレベル3やプラグインハイブリッドの戦いにも注目だ。だが、私はあえてこのキャデラックCT6の存在が孤高すぎて眩しく思う。
古さを感じるものの、官能的な走りのクアトロポルテ
クアトロポルテのプラットフォームは古さを感じるものの、それを差し引いても余りある官能的な走りは健在だった。イタリア人はとにかくアンダーステアを嫌うので、ステアリングのタッチは独特だ。
同車もその例に漏れず、アクセルペダルよりもハンドリングに魂が宿っているのではないか? と思わせる操作感を持つ。そう考える理由は、ダブルレーンチェンジで見せた不思議な身のこなしにある。まさにイタ車マジック。前後重量配分がほぼ半々(51:49)なので、フロントの慣性モーメントが小さく、あっという間にレーンチェンジが完了する。
ステアリングホイールにウッドを使うなどして、インテリアはビジュアル的にも無機質なドイツ車とは差別化されている。マセラティは「ステアリングは人とマシンを繋げる大切なインターフェイス」と考えているに違いない。
とはいえ、イタリアのクルマは理解に苦しむところもある。クルマ好きには刺さるものの、実用車としてはいささか首を傾げたくなる点もある。例えば伝統的なFRだけでなく、クアトロポルテはもっとAWDの存在をPRしたほうがいいかもしれない。もしもフェラーリGTC4ルッソの4ドア版があったら、良い意味でヤバイと思うのは私だけではないだろう。
高い実用性のCT6と官能のクアトロポルテ
最終的な点数ではキャデラックがリードした。クアトロポルテはリアのタイヤが減っていたので、ウェットでの減点が痛かった。だが、ダブルレーンチェンジで見せた身のこなしは、イタリア車の存在感を示すものだった。ドアは4枚存在するがスポーツカーのDNAを持っていることは間違いない。
一方、CT6はNAエンジンなので、加速性能はあまり期待できないが、乗り心地とダイナミクス性能は見事。ウェット旋回とダブルレーンチェンジはドイツ車にも引けをとらないものだった。ドイツ車や英国車以外の選択肢として、CT6とクアトロポルテはお買い物リストに入れておくべきだ。
RESULT
両車ともスペックからは想像できない個性的なダイナミクスが存在
●マセラティ・クアトロポルテS:15.5/20点
●キャデラック CT6:16.5/20点