清水和夫のDST

シボレー・コルベットZ06 vs アウディR8スパイダー、リアルスポーツの存在理由を探る【清水和夫のDST】#89-1/4

清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)

Number89 SEASON.9:リアルスポーツとして光る存在感、対極に位置するR8スパイダーとZ06

シボレー・コルベットZ06 vs アウディR8スパイダー

R8スパイダーとコルベットZ06。両モデルともに500psオーバーのリアルスポーツだが、ボディ形状からエンジン形式、パッケージングに至るまでその差異は大きく、注目は1000万円以上もリーズナブルなZ06がカタログスペックにおいてR8スパイダーを上回っている点だ。コストパフォーマンスに優れるZ06に対して、R8スパイダーがどのようなダイナミクスで、その存在理由を示すのか。そこが最大の見所だ。

タイヤのコンディションがテスト結果に大きく影響

アウディR8は、兄弟車であるランボルギーニ・ウラカンとの差別化を図るために「洗練されたスポーツカー」という立ち位置を採っているのは理解できる。だが、テスト結果からすると、踏力が必要なブレーキ性能に加え、ESCの作動が甘くなるウェット路面での限界性能は洗練されているとはいえなかった。もともとクワトロを武器としてきたアウディだけに、ミッドシップのスポーツカーは似合わないのかもしれない。むしろ、その歴史が長いランボルギーニに資源を集中した方がグループとしては効率的ではないだろうか。

というのも、アウディはすでにフォーミュラEの参戦を決定。ポルシェのミッションEのプラットフォームを採用したeトロンGTを軸に、アウディスポーツのブランドを再構築するような動きがある。フェラーリでさえ、’19年以降はガソリンエンジンだけのモデルが消滅するという流れのなかで、アウディもまた自社のスポーツカーを電動化する戦略を示している。その意味では、V10自然吸気ユニットをミッドシップに収めるR8は逆に稀少価値が上がるのかもしれないが……。

限界性能に難はあったR8スパイダーだが、リアルスポーツらしく、高速周回路では一体感があって気持ちがいい。オープンカーといえどボディ剛性は高く、コルベットZ06や911GT3のように、とんがった感じがないのが良いのかもしれない。量産のロードカーとしての扱い易さは美点のひとつとなっている。

普通のクルマで満足できない人たちの最後のサンクチュアリ

コルベットは次期型がミッドシップになるという噂だ。ル・マン・シリーズなどのGTレースでは有利であり、重いエンジンをフロントに搭載するFRレイアウトの弱点を解消するにはいい方策となるかもしれない。となると現行型が最後のFRモデルになる可能性がある。今以上に速くするには、もはやエンジンパワーだけでは困難な領域に達しているのだろう。

それはZ06を操っていても伝わってくる。880Nmのトルクを持つエンジンが暴れ出すと、ジュラシックパークでお腹を空かした猛獣と遭遇した感じだ。電子制御はあまり効果がないし、タイヤはグリップ限界こそ高いが、そこを越えると一気にグリップダウンしてしまう。こいつをどう制御すればいいのか悩んでしまうが、それでもプロセスそのものにもの凄くリアルにドキドキできて、自分が出したアドレナリンで溺れてしまいそうになるほどだった。

普通のクルマでは満足できない人たちには最後のサンクチュアリであり、調教されたリアルスポーツカーである911GT3の上をいく荒削りな、無垢の野性味を持っている。例えば高速走行ではステアリングがグッと重くなって、これ以上操舵すると「どこかへ行ってしまうぞ」という、危険を察知するインフォメーションになっていて、それもこれもすべてが意図的に、確信的に仕組まれたZ06の個性なのであろう。

リアルスポーツの弱点!? 問われるウェット旋回性能

すべてのスポーツカーが乗りやすいわけではない。なかにはジュラシックパークから出てきた獰猛なヤツもいるし、タイヤの状態で本来の性能がスポイルされてしまうヤツもいる。常に新品タイヤでテストできるわけではないが、速いヤツほど摩耗度合いが大きく影響して、特にウェット性能が損なわれることを改めて確認できた。
R8スパイダーについては右ハンドル特有の現象だと思われるが、ABSとブレーキに改善点が見られ、900Nm近いトルクを発するコルベットZ06はタイヤへの負荷が大きすぎる。動的な安全性を評価するウェット旋回ブレーキで、それが結果となって表れた。

RESULT

全開性能は驚異的。今後求められるトータルバランス

●アウディR8スパイダー:14.5/20点
●シボレー・コルベットZ06:15.5/20点

リポート:清水和夫 フォト:篠原晃一 ル・ボラン 2018年4月号より転載
LE VOLANT web編集部

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