伝統と格式を重んじるロールス・ロイスが時代と共に穏やかに変化し始めた
フロントグリルサラウンド、トランクリッドフィニッシャー、エキゾーストパイプおよびエアインテークのフィニッシャーなどの光り物は、専用クロームサーフェス仕上げとなる。
スロットルペダルには適度な踏力が必要だ。6.6LのV12ツインターボという巨大なマルチシリンダーエンジン。これを自らの右足だけで動かそうとする行為のフィードバックとして足の裏にかかる荷重が、加速感や速度上昇とピタリと合っていて、車両はあくまでも紳士的な振る舞いを見せる。ロールス・ロイスはノーマルのドーンのみならず、ほとんどのモデルでこの感触が味わえる。ところがブラック・バッジは、ペダルの操作荷重はそのままに、スロットルレスポンスのみがノーマルよりもわずかに向上していた。といっても決して荒々しいものではなく、紳士的範囲内に収まっている。ノーマルと比べて30 ps/20Nmの上乗せと、エンジン/トランスミッションの制御プログラムの書き換えが、この独特のパワーデリバリーをもたらしている。
6.6V12ツインターボユニットはドーンの563psから30プラスの593ps、最大トルクもわずか1,500rpmから得られる圧倒的な力強さを誇る840Nmを発揮する。
いっぽうでハンドリングと乗り心地はノーマルと大差ない。ステアリング操作に対するクルマの反応や、路面からの入力に対するばね上の動きは「ゆったり」「しっとり」としている。ゆったりといっても操舵応答はダルではなく転舵速度に従順だし、しっとりといってもばね上が不必要に動くことはないので、フラストレーションの類は皆無だった。
ラグジャリーをよりダークに解釈することで変貌したキャビン。カーボンファイバーとアルミが巧みに融合し、ブラック・バッジ特有の雰囲気に仕立てられる。
ロールス・ロイス専用の新しいプラットフォームを使うファントムやカリナンと比較すると細かい振動がやや気になるものの、オープントップの爽快な開放感の前には完全に抹消される。サイドウインドーを上げたままでも、室内には思ったよりも多くの外気が入り込んでくる。おそらくそれは、オープンドライブを楽しむための最適な速度ではないという忠告を受けているのだろう。ちょっと速度を落としたら、スッと風の巻き込みがなくなった。
個人的には、パルテノンの上に鎮座するスピリット・オブ・エクスタシーがブラック・クロームの衣装に着替えさせられたり、耳慣れない排気音などに少なからず違和感を覚えたのも事実。伝統と格式を重んじるロールス・ロイスの大義や流儀が、時代と共に穏やかに変化し始めたのだ。
2ドア仕様のドーンも、リアヒンジ式コーチドアを採用するため、リアシートへの乗降性は良好。ドアを閉める際に手が届かないと思うが専用スイッチがあるのでご心配なく。