コラム

EVであっても「Iペイス」がジャガーである理由

EVの機械的なメリットをキャラクター作りに積極活用

エコなEVといえどもプレミアム系の作となれば独自性の確立は必須命題。Iペイスではそれがスポーティな走りで表現されているわけだが、その実現にはどのような手法が採られたのか? ここではIペイスがジャガーであるワケを考察する。

欧州カー・オブ・ザ・イヤーやワールド・カー・アワード史上初の3冠など、数々の世界的な賞を獲得したIペイス。海外では市販EV初のワンメイクレースも行なわれている。

世界中の名だたる賞を総ナメのIペイス、その高評価の理由を探ってみた。まずEVとしての構成は、ミドル級のSUV車型でパワートレインは2モーター4WD。そのアウトプットは400psに696Nmと強力、プレミアムEVとしてはいま一番ホットな市場の王道パッケージ。ここまでは下馬評どおりだが、評判になっているのはスペック以上にスポーティな乗り味だ。

実は、その「味」を生み出しているのは細部にわたる作り込みなのだ。バッテリーは、LGケミカル製で総電力量は90kWh。テスラなどと比べれば小型軽量路線だが、最新設計のおかげで放電能力が高く加速性能に貢献している。バッテリーケースは水冷で、温度管理はエアコンのヒートポンプ回路により効率化されている。それを収めるハウジングは極めて高強度高剛性なアルミ押し出し材のビームに守られており、18カ所の接合点で剛性を強化。さらに下面は7㎜厚のスキッドプレートを備え、SUVとしての信頼性も担保している。ちなみに、これは空力性能面で有利なフルフラットな床下の実現にもひと役買っている。
ドライブトレインはAAM(アメリカン・アクスル&マニュファクチャリング)製造で、モーターはジャガー・ランドローバー自身の設計によるIペイス専用機だ。プラネタリー式シングルスピードの減速機、およびデフと一体化された横置き同軸レイアウトで搭載。これは軽量コンパクトで低重心な設計であり、Iペイスのスポーティなキャラクター作りにも貢献している。また、減速機とデフを含めた重量は76㎏に収まり軽量でもある。

ジャガー・ランドローバーが自ら設計を手がけた電気モーターを前後に搭載。緻密な駆動配分制御を駆使して、4WDながらFR車に通じるスポーティな操縦性を実現している。

モーターの出力特性は、トルクバンドの広さとレスポンスの良さを追求したタイプ。IペイスのモーターはPM同期モーターだが、使われる磁石はレアアースフリー。ポイントは電磁石の吸引力から発生するリラクタンストルクを積極活用したことのようで、結果として出力特性が改善。モーターにスポーティなキャラクターを与えることに成功している。これが「頭打ち感のない加速」の秘密だ。
機敏なハンドリングもIペイスの持ち味。操舵力は全域で重め、舵の効きはややFF車的手応えで大きく切り込むとアンダーが出そうと感じるが、それは一瞬で即座にスポーティなターンインが始まる。あまりに滑らかなので意識しないと感知できないが、絶妙な力加減でブレーキトルクベクタリングとリア寄り駆動配分が行われ、バランスの取れた旋回姿勢に入る。駆動モーターの電制への反応はケタ違いに速く正確。これには内燃機関の電制駆動配分車など足元にも及ばない。さらにトラクションコントロールのレスポンスも激速だから、滑りやすい路面での発進性能も内燃機関とは段違いだ。
Iペイスは軽負荷直進走行時こそエコ性能を高めるためFF的な前寄りの駆動配分を取るが、ひとたびコーナーに臨めばFR的なリア寄り配分で曲がりやすさを見せ、それでいてトラクションは4WDそのもの。残る問題は重さだが、それもSUVらしい大径タイヤの恩恵でグリップ限界付近を除けば挙動に重さのハンデを感じない。つまり、このスポーティな性格は周到かつ緻密な設計のたまものなのだ。

ル・ボラン2019年9月号より転載
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