様々な断片から自動車史の広大な世界を管見するこのコーナー、今回はフランスの’60年代を代表するプラスチック製ミニカーである、ノレブとその時代について、思いを馳せてみたい。
フランス1960年代の軽薄の美学
ノレブはリヨン郊外で第2次世界大戦後すぐに始まったおもちゃメーカーだ。初期からプラスチックのおもちゃが多く、1/43のミニカーに進出したのは’56年からでシムカ・アランドなど同時代のフランス車から始まった。だから、この戦前のフランス車のシリーズのほうが、後になってから企画/生産されたものだ。シトロエンの5CV、ロザリー、11CVトラクションアバン。
ぼくがノレブのミニカーを初めて知ったのは、そんなに昔の話ではない。1981年から横浜で年に2、3回、開催されてきて、まもなく100回目を迎えるという伝統あるアンティーク・トーイのスワップ・ミートであるワンダーランドに通うようになってからのことだ。
フィアットのヌオーヴァ500でも、ジャルディニエラをモデル化してるところもノレブらしい。初期には普通の箱入りだったが、途中から紙の台座にビニールのボックスというパッケージとなった。台座にはクルマの諸元が記述されている。
もともとぼくは、ブリキのティン・トイよりも、ウッド・モデルよりも、プラスチック・モデルが主流になってきた世代に属する。なので、ノレブのプラスチック製ミニチュアカーのほうが、ダイキャスト製ミニチュアカーよりも親しみが感じられたのかもしれない。それに、他のダイキャスト・メーカーでは企画/生産しないようなマイナーなモデルがあるところも好ましかった。およそフランス車ならどんなモデルでもありそうだった。
ノレブはやがて、プラスチック・モデルと並存してダイキャスト製モデルも生産するようになった。同じ型から製造したのだろうか? 手にとってみないと区別できないほど。このローラT294もよくできている。
でも、その頃は一番気に入っていたのがシトロエンとパナールだったから、地味なイメージのあるプジョーなどには手を出さなかった。ルノーもドーフィンだけは大好きで、ドーフィンのいろんなバリエーションを見つけるたびに買った。ジュバキャトルなども、その頃は他のミニカー・メーカーでは無かっただろう。また戦前のフランス車も多数あった。
ミニアルクスはこんなマニアックでレアなモデルを世に出した。ゴルディーニT32やシアタ1500S。ぼくはこのゴルディーニを20年前にカリフォルニアで手に入れた。裏側には25ドルの値札が張られたままだ。
ダイキャスト製より全体に薄い作りであることも良かったし、ディテールは細やかで、忠実だったし、ドアやボンネットが開くなどアクションもあった。プラスチックの素材も良さそうだった。塗装ではない、元からのプラスチックの成型色も綺麗で、そこにプラスチックならではの魅力を感じたのだ。そう、そこがノレブのプラスチック・モデルの最大の魅力と言っていい。
プラスチック製のミニカーはノレブだけではない。たとえばミニアルクスがあったことは、ライバル・メーカーとして、両社がより興味深いモデルを競って出すような効果もあっただろう。左下のブガッティはポーランドのワルシャワのメーカー製。
しかし、プラスチックの素材も経年変化がモデルによっては著しくあり、ドアやボンネットが浮いたり、ボディ全体が拗れたり、ということもあった。そこが、ノレブのこのシリーズの欠点で、その対策か、後には金属製のシャシーにプラスチック製のボディが載せられるようにもなった。また、プラスチックと並行してダイキャスト・モデルも作られるようになり、やがてはダイキャストだけになったり、レジン・モデルが作られたりと、時代によって有為転変としてきたが、現在でも生き残っているメーカーだからたいしたものである。
こちらもダイキャストとプラスチックによるシェブロンB23だ。とてもよくできている。この頃、ノレブはレース・チームのスポンサーともなり、実際にこのカラーリングのシェブロンやローラが走っていた。
でも、ぼくにとってノレブといえば、’50年代から’70年代初頭までのプラスチック製モデルが真髄である。その頃のフランス製のキーホルダーや、フレンチ・ポップスや、ミニスカートなどの流行とも共通する’60年代のポップ・カルチャーのひとつでもあり、重厚長大とは真逆の軽やかさの美学なのである。
ブルボン社をはじめとして、この時代のフランスのプラスチック製キーホルダーの安っぽさ、軽さ、が愛おしい。こんな小さなモノからも、あの時代のフレンチ・ポップスや歌手や女優を思い出してしまう。