ベンチマークに挑むフレンチの新鋭
1899年創業のルノー・フレール社を祖とする、PSAグループと並ぶフランスのビッグネーム。プロダクトの母国濃度はむしろルノーの方が濃く、日本市場でもトゥインゴやルーテシア、そして長らく主力だったカングーが安定した支持を獲得。また、高性能モデルであるR.S.(ルノー・スポール)の人気も根強い。ルノーにとっても日本は重要な市場ということで、エッジの立った特別仕様も適宜投入されている。
もはやベースモデルに2ドアがないという事情もあってか、昨年上陸した現行メガーヌRSは良くも悪くも性格が「丸く」なっていた。もちろん、ルノーを代表する武闘派銘柄の新作とあって絶対的パフォーマンスに不満などあろうはずもない。だが、6速MTしか選べなかった先代に対し現行型のトランスミッションは6速DCTとなり、乗り心地をはじめ快適性も格段に洗練。「プレミアムなメガーヌ」としても通用する大人な高性能車に変貌をとげていたのだ。
だが、コアなマニアの心情をさとりルノー・ジャポンはしっかりと対応策を準備。それが6速MT仕様となるメガーヌRSカップだ。このモデル、「カップ」のゆえんはシャシーにあって足回りは完全強化。スプリングレートは前後で23%と35%、スタビが7%、そしてダンパーは25%それぞれハードに。サブダンパーの4HCCも、ストロークが10%伸びている。また、標準仕様が電制LSDを使うのに対しカップは機械式トルセンLSDを搭載。さらにブレーキにはバイマテリアルのディスクを組み合わせて、3.6kgの軽量化と冷却性能を向上させている。 ちなみに6速MTのギア比は、4-6速がDCTとさほど変わらない一方、1-3速は高くなっている。とはいえ、実際にリミットまで引っ張るとDCTより目立って高い1速でも61km/h、2速では98km/hほどなので(いずれもメーター読み)冗長な印象はまったくない。むしろ3000rpm以降の中回転域が美味しい1.8Lターボのキャラクターを味わう意味では、DCTより好ましいと感じられるほどだ。
一方、サーキット走行を重視とカタログに明記される通り、乗り心地は速度域を問わずハッキリと硬い。また、パワーオン時に明確な効果が実感できる機械式LSDも、荒れた路面ではステアリングにラフなフィードバックを伝えてくる。だが純粋なスポーツマシンだと思えば、そうしたことは些末な問題に過ぎない。
実際、サーキットに行かずとも積極的に操ればRSカップは十二分に愉しい。日常域だと硬い足回りは、荷重がかかる領域に入るとむしろしなやかに路面をトレース。標準のRSと同様、4輪操舵機構の4コントロールはベースとなったメガーヌGTよりも制御が自然とあって、特にワインディングではトップレベルの速さと爽快さが手に入る。今回の販売は100台限定だが、RSらしさを堪能できる選択肢としては第二弾の導入を期待したくなる出来映えだ。
そんなRSカップと比較すると、ゴルフGTIは長年このクラスの「基準」となってきた優等生ぶりが胸に刺さる。試乗車は特別仕様の「パフォーマンス」ということで、DCTが6速から7速へと多段化されエンジンパワーは15ps上乗せ。タイヤも19インチが標準となるが、1クラス上のGTを彷彿とさせるソツのない出来映えはまさにゴルフそのもの。Cセグメントの高性能ハッチという位置付けこそ同じ両者だが、今回の組み合わせに限れば本質的な性格は正反対に近い。そういう意味では、いずれも直接比較するより乗り手の嗜好次第で決め打ちする選択肢といえるかもしれない。