
何世代にも渡り、スポーツカーの代名詞として君臨し続けてきたポルシェ911。その結果、常に競合ブランドからライバル視される存在でもある。ここでは駆動方式をはじめ、それぞれに異彩を放つ名実ともにライバルのアストンマーティン・ヴァンテージと日産GT-Rを連れ出し、新型911の走りと比べてみた。
4WDのGT-R、FRのヴァンテージ
2020年モデルが発表されたGT-Rのデビューは2007年なので、かれこれ12年もの月日が経つ。ちなみに911でさえ2007年当時は997、2011年に991、そして昨年992へと生まれ変わり、都合3世代がこの12年間にまたがっている。
イヤーモデル制をとっているGT-Rは毎年着実に進化をとげていて、「もうやるとこないでしょう」と毎年思うけれど、翌年には必ずよくなっている。最新型はターボやブレーキなどに手を加えたそうだが「もっとも効果が出ているのは公差かもしれません」と語るのは開発責任者の田村宏志氏。
「ターボはレスポンスの向上、ブレーキはマスターバックを取り替えて制動力の初期の立ち上がりとコントロール性の改善を図りました。でも1番効いているのは公差を詰めたことですね。そもそも公差にはある程度の幅があるわけですが、ずっと同じものを作っているとみんな段々上手になっていくし(笑)、もっと(公差を)詰めてみようと頑張ってくれるんです。ステアリング系やサスペンション周りなど、かなり理想に近いところで組んでいますから、乗り味にもいい影響が出ていると考えます。レーシングエンジンで、バラツキの少ないピストンを選んだりしますよね。あれと同じです」
ステアリングフィールは余計な振動や感触が軽減されて、よりクリーンでダイレクトな感触になっているし、乗り心地は特に中高速域で向上していると感じた。ペダルの踏み始めから速やかに反応する制動力に対して、ブレーキング時のノーズダイブが軽減され、ピッチング方向の動きが最適化されたように窺えた。乗り心地よりはむしろばね上をきれいに動かしたかったのかもしれない。
570ps/637Nmのパワースペックに変更はないが、3台中で最高出力はもっとも高く、最大トルクはヴァンテージに次ぐ数値である。リアトランスアクスル形式で、フロントの駆動力はリアの置かれたギヤボックス+ドライブシャフト+フロントデフを介して得ているから、普通に考えればエンジン出力/トルクのエネルギー損出は大きいはずだ。それでも加速力はヴァンテージや911を凌ぐ。後輪のみを駆動する2台に対してGT-Rは状況に応じてフロントにもトラクションをかけることで、エンジンパワーを余すことなく路面に伝えているからだろう。“放置プレイ”が過ぎる最近の日産車の中でGT-Rは唯一、健全な育まれ方をしているモデルである。
近々、ついにSUV市場にまで足を踏み入れるに至ったアストンマーティンのいわゆるカタログモデルの中で“ピュアスポーツカー”と名乗っているのがヴァンテージである。エンジニアが「目指したのは911」と公言してはばからないばかりか、資料には「ヴァンテージの全長はポルシェ911(991型)よりも34mm短い」などと名指しで書かれている。ここまで堂々とライバルを明言するのも珍しいが、生々しい闘争心ではなく、911という偉大なスポーツカーに敬意を表しつつ胸を借りるつもりでスポーツカーを作り上げたというスタンスが、英国紳士のジェントルな振る舞いにも見える。
GT-Rと同じく8速ATを後方に積むリアトランスアクスル形式だが、こちらは後輪のみを駆動するFRである。GT-Rよりも強力なトルクを2輪で支えるから、発進時に必要以上にスロットルペダルを踏んでしまうとホイールスピンする場合もある。いっぽうでペダルの踏力は適正でレスポンスもいいから、右足のさじ加減次第でいかようにもパワーコントロールができる。気持ちよく吹け上がる様は、AMG製のV8であることを完全に忘れさせてもくれる。
ハンドリングにも同様のコントロール性が備わる。つまり、ステアリングのわずかな動きも見逃さずクルマが向きを変えるし、例えば旋回中に「あと少しだけイン側に寄せたい」というドライバーの要望にもピタリと応えてくれる。この優れた操縦性の裏にはふたつ要因があって、リアに装備される“Eデフ”の効果と前後重量配分である。アストンマーティン初の採用となったEデフは後輪左右のトルク配分が絶妙で、まるで後ろから車体を曲げてくれるような働きをする。前後重量配分はGT-R=55:45、911=37:63、そしてヴァンテージは49:51で、旋回軸がドライバーのほぼ真横にあるから、そこを中心にコマのようにクルクルと回る。
3台の中ではもっとも非力な911だが
誰でも安全に速く楽しく運転できるGT-R(腕に覚えのある向きにはニスモを用意)。ドライバーの技量が試される反面、うまく手名付けると小躍りするような嬉しさが待っているヴァンテージ。そして最新型の911はどうか。
モデルチェンジの度に運転しやすく快適性も向上する911には、昔のようなトリッキーな挙動もほとんど見られず、ボディの大きさだけ気を付ければ誰でもすぐに運転できるだろう。最高出力も最大トルクも3台の中ではもっとも非力で排気量も小さい。これだけの情報だとスポーツカーというよりはむしろGTみたいだが、実際には依然としてトップに君臨する紛れもないスポーツカーである。
ストローク量は少なめでも適度な踏力が必要なので全開/全閉の間の細かいコントロールが自在にできるスロットルペダル、エンジン/トランスミッション/駆動輪までの距離が近くエネルギー損出が少ないゆえに想像以上の加速性能を引き出すパワートレイン、ステアリング操作に対してロールとピッチの時間差がほとんどなく、過渡的な操舵に車両がきちんと付いてくる操縦性、外乱や外からの入力の影響を受けにくい安定性。確実に止まるという信頼感が伝わってくるブレーキ。
このように911の優れた点はいくつもあるけれど、つまるところ走る/曲がる/止まるの基本性能が、ちゃんと走りちゃんと曲がりちゃんと止まるようになっているのである。そしてモデルチェンジの度に、「ちゃんと」の精度が上がっていく。ポルシェのエンジニアが「我々は何も特別なことはしていません。基本性能を磨いているだけです」と言っていた。もちろん他のメーカーだってみんなやっている。けれどポルシェはどんどん先を行くので、なかなか追いつけないのである。

インテリアはアストンマーティンの流儀に則ったものだが、アルカンターラや本革が惜しみなく使われている。プラットフォームはDB11からスタートした新世代アーキテクチャで、ホイールベースを100mm縮めリアシートを省いた。エンジンはメルセデスAMG製。
【Specification】ASTON MARTIN VANTAGE
■全長×全幅×全高=4465×1942×1273mm
■ホイールベース=2704mm
■車両重量=1530kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=510ps(375kw)/6000rpm
■最大トルク=685Nm(69.8kg-m)/2000-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40R20:295/35R20
■車両本体価格(税込)=20,195,000円
【お問い合わせ】
アストンマーティンジャパンリミテッド 03-5797-7281

年を重ねる毎に熟成が増していくGT-R。日常での使い勝手はデビュー当時とは比べものにならないくらい、飛躍的な向上を遂げた。試乗車のボディカラーは新色の「ワンガンブルー」。日本車でみれば高価に見える価格も、世界のライバルと比べれば破格に安い。
【Specification】NISSAN GT-R PREMIUM EDITION
■全長×全幅×全高=4710×1895×1370mm
■ホイールベース=2780mm
■車両重量=1770kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/3799cc
■最高出力=570ps(419kw)/6800rpm
■最大トルク=637Nm(65.0kg-m)/3300-5800rpm
■トランスミッション=6速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40ZRF20:285/35ZRF20
■車両本体価格(税込)=12,105,720円
【お問い合わせ】
日産自動車 0120-315-232