A110は未来へと繋がるスポーツカー像を体現
技術の進化を大らかに反映し、次世代ホットハッチの動的水準を示しているのがメガーヌRSだとすれば、同門との濃い関係を保ちながら独立したブランドとして扱われるアルピーヌA110は、技術を黒子として努めてコンベンショナルな様式を保持しながら、最新のスポーツカーのあり方を再定義しようとしているように窺える。
その象徴となるのが、オールアルミの車台だ。押出材や鋳造品を大胆に配したそれはリベット&ボンディングも接合に加えて、軽量・高剛性を生産性と両立した。ロータス・エリーゼ以降、少量生産のスポーツカーに好んで用いられる手法に影響を受けてはいるが、A110が目指すのはビジネスの分岐点を超えるべく、不特定多数に一定以上の数量を捌くことだ。そのために内外装もしっかり作り込み、前後のストレージを確保し、ライバルでもあるポルシェ718に準ずる静的商品力も確保している。それでいながら1110kgという車重にスポーツカーとしての本気を感じる向きも多いだろう。
A110が搭載するエンジンは、先に記したメガーヌRSも用いる1.84L気筒をベースとしている。パワーは252psとやや控えめでも圧倒的な車重の軽さもあって充分以上に速い。音的な盛り上がり感に欠けるのはフランスのスポーツモデルにありがちなそれだが、ガンガン車体を押し出す7速DCTのフィーリングが気持ちを少しずつ走りの側に寄せてくれる。
新しいA110はオリジナルのRRではなくMRパッケージを採用するが、ハンドリングにその危うさは余程のことでもない限りは感じることはない。高い限界域に至るまでのコントロール性の高さは折り紙付きで、フロントの接地感の希薄化やリアのお安いブレークといったありがちな応答は窺えない。直進性に関してはゴリゴリにスタビリティが高いわけではないが、さらりとした運転にはさらりと、気合いを入れた運転にはそういう姿勢で応えてくれる。
テールはガッチリと粘り抜くような仕立てにはなっておらず、ブレークは遅くはない。が、とにかくその推移は穏やかだ。唐突な反動もなく綺麗にリアが張り出し、余裕を持って対処できる。派手に逆カウンターを当てるような事態は、相当深くアクセルを踏み込んだ時だ。車体制御技術に頼ることなく、そこらの山道でも安心して運転に没頭できるこの懐深さは、骨格づくりの巧さと適切な味付けによって叶えられている。特殊な成り立ちにみえて、実は万人に優しいクルマだ。
スポーツカーのあり方が様々な制約に抑えられる中、小さなエンジンを軽量な車体で活かして走るパッケージは運動性能面でも効率面でも負荷が小さく、未来性は非常に高い。A110はまさにこれからという、そんなスポーツカー像をほぼ完璧な形で体現している。数字的な突出はなくても、まずは人に優しいクルマを作ることにこだわり続けてきたフランスだからこそ実現した1台といえるだろう。