
3月のジュネーブ・ショーでデビューした時から、205の再来を意識したと思われる魅力的なエクステリアデザインで大きな注目を集めた新しい208。車名こそ現行世代と継続だが、プラットフォームはDS3クロスバックと共通のCMPに一新。ガソリン&ディーゼルと並列でEVも生産する野心作の出来映えやいかに?
Bセグの基準を覆す内装の圧倒的な静的質感
格好がいいのは分かっていた。508と同様の「牙」状のLEDと、三つ爪の前後コンビネーションランプに賛否はあれど、初めて屋外の光で眺める新しい208のスタイルは予想以上にいい。フランス本国の発表値によれば外寸は4055×1745×1430mmで、ホイールベース2540mmは変わらない。先代より60mm長く、5mm広く、40mm低いが、プラットフォーム自体はCMP(コンパクト・モジュラー・プラットフォーム)へ一新された。
ボディサイドに凝ったキャラクターラインを走らせるでなく、割にシンプルなプレスで構成する手法はマツダ3あたりにも通じる。従来的なドイツ車主導のトレンドに背を向けていることは確かだ。凹面にドアハンドルを配して必要以上に横方向に張り出さず、しかしウエストラインは絞り込んだ。ボンネット左右は浅く抉られ、フロントの表情を際立たせるだけでなく、前列シートから眺めるとフロントフェンダーの膨らみを強調する。なかなか抑制の効いた造形といえる。惜しむらくはルーフ後端のアンテナも、同じくCMPベースの兄弟車、DS3クロスバック同様に、塗装の下に印刷する方式を採用すれば、よりすっきりしたシルエットだったろう。
ちなみにタイトル写真はスタンダードな「アリュール」仕様で、「GTライン」と「GT」では黒い艶アリのオーバーフェンダーを備え、直角三角形気味のCピラーにロゴが置かれる。このあたりは昔の205を彷彿とさせるし、ノーズ前端の車名ロゴは近頃では508が504より受け継いだのと同じ手法で、往年のファンをニヤリとさせるディティールといえる。
生産はスロバキアのトルナヴァ工場。パワートレインの区別なくすべての仕様を同一ラインで生産できる点は、CO2削減に待ったなしで電化に舵は切りたいが、コンサバなユーザーも多く需要予測が立てにくい、過渡期の欧州市場において208の大きな武器だ。
車内に目を移すと、柔らかな曲線で構成され、目にも彩なステッチが走るダッシュボードとカーボン風タッチのミドルセクション、そしてピアノブラックのセンターコンソールは、明らかにBセグの基準を超えている。この包み込むような世界観と質感の高さは、VWポロをも明らかに凌駕しているし、プジョー同門内でも308より508に近いとすら感じる。
加えてプジョーが先代208から導入した、小径ステアリングの上にインスツルメントパネルを配するi-コクピットは、「i-コクピット3D」に進化。インパネ自体が液晶化されただけでなく、表示モード切替に応じてアラート警告やレブカウンターの針の動きなど、優先順位の高い情報をホログラムのように立体的に表示する。これはヘッドアップディスプレイの応用で、メーターバイザーの上面に備えたもうひとつの画面がフロントガラス側、つまり上方に投影されるのでなく、下方へ、インパネ内の透明カバーに投影される仕組みだ。プジョーによればギミックどころか、各種アラート情報に対してドライバーのリアクションを0.5秒ほど速められたとか。アクティブセーフティに資するというと大袈裟だが、操作インターフェイスやエルゴノミーという点での進化といえる。
生硬さも目立つが先々の伸び代も際立つ
今回試乗したのは3気筒1.2Lターボのピュアテック130psにアイシンAW製8速ATのガソリン仕様と、100kW(136ps)のEV仕様、それぞれのアリュールとGTラインにGT(EV版)という計4グレードだった。まず17インチのパイロットスポーツ4を履くガソリンのGTラインを、低速域での街乗りや路面がやや荒れた国道、平滑な高速道路で乗ってみた。まだ走行距離4000kmに満たない個体のせいか、小さい・短い入力に対してサスの初期の動きが全般的に渋く、フラットというよりは固めのライド感だ。ところがワインディングのような場面で足回りへの入力が大きくなると、途端に208は輝きを増す。本国スペックで1165kgという軽量さも手伝い、敏捷でしなやかなフットワークは痛快そのもの。一方で高速巡航では申し分ないスタビリティを見せつける。

EVのスポーツ版「GT」はグリル形状こそガソリンのGTラインと同じだが、凸面はボディと同色に。急速充電は100kWまで対応、30分で50kW/hバッテリーの約80%が充電可能。WLTPモードでの最大レンジは340kmという。
続いてガソリンの16インチ仕様、同じくミシュランだがプライマシー4装着のアリュールに乗り換えた。コンフォートタイヤでハイトも増した分、乗り心地は少し穏やかになるが、やはりダンパーの初期ストロークはもっと欲しいと思わせる。同じプラットフォームで、ストローク量で有利なSUVボディでタイヤのライドハイトもそもそも分厚めのDS3クロスバックと比べて、価格帯もブランドの性格もあるが、遮音性と静粛性でもDSに一歩譲る。
だがピュアテック130ps+アイシンAWの8速ATという、ガソリンのパワートレインの仕事ぶりとマナーは、相当に優れている。踏み込んだ時の音質も勇ましいが、100km/h巡航では1800rpm程度の控えめさだ。それでいて駆動系のダイレクト感は損なわれず、変速ショックも限りなくスムーズにまとめられている。

前列シートの快適性を重視した内装。EV版はシフトレバーをDモードから手前に引けば回生の強まるBモードで、完全停止はしないがワンペダルで停止寸前までもっていける。i-コクピット3Dの立体表示の他、トグルスイッチ下にはスマホのワイヤレス充電トレイを備え、インターフェイスもかなり先進的。
むしろ動的クオリティの点で、もっとも当面の説得力に満ちていたのは、50kW/hのバッテリーをフロア下に収め約300kgほど車重を増し、17インチのプライマシー4を履いたEVの「GT」だ。アクセルを踏み込んでも、これ見よがしの強烈な加速感で人をてらうEVではない。スポーツモードでも0→100m加速は8.1秒に過ぎない。しかし低重心が効いて重量も1.5トン弱に収まっている分、好ましい落ち着きがドライバビリティに感じられる。同銘柄で16インチ履きのアリュールEVは、ステアリングの中立域も少し拡がる感触で、微低速では気にならないがパワーアシストで操舵力の軽い小径ステアリングのためか、コーナーによっては操舵ゲインが強過ぎるきらいがあった。
パワートレインごとに足回りは異なるとはいえ、アリュール系とGT系の違いを純粋にタイヤとサイズだけで性格づけているため、セッティングがどっちつかずの印象は残る。ただしホットハッチに寄せて「中央値を狙わない」あたりが、新しい208のポジショニングにして存在理由でもある。上の価格帯にDS3クロスバックが控え、後々に次世代2008もやってくる分、快適志向のユーザーはそちらへ誘導し、あくまで208はスポーティなBセグハッチとして屹立すべきなのだ。
思えば、現行208も初期型から後期型へと、別物といっていいほどの洗練ぶりだった。日本市場への導入は来年半ば以降で、欧州でのフィードバックを受けて熟成が進む可能性はある。剛性感と足さばきの余裕という、そのポテンシャルの高さは疑う余地はない。
【Specification】プジョー 208アリュール
■全長×全幅×全高=4055×1745×1430mm
■ホイールベース=2540mm
■トレッド(前/後)=1490/1490mm
■車両重量=1165kg
■エンジン種類=直3DOHC12V+ターボ
■総排気量=1199cc
■最高出力=130ps(96kW)/5500rpm
■最大トルク=230kg-m(23.4Nm)/1750rpm
■トランスミッショッン形式=8速AT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後ディスク
■タイヤ(ホイール)=前後195/55R16
【Specification】プジョー e-208 GT
■全長×全幅×全高=4055×1745×1430mm
■ホイールベース=2540mm
■トレッド(前/後)=1500/1500mm
■車両重量=1455kg
■バッテリー総電力量=50kW
■モーター最高出力=136ps(100kW)/3673-10000rpm
■モーター最大トルク=260Nm(26.5kg-m)/300-3673rpm
■航続距離(WLTC)=340km
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前Vディスク、後ディスク
■タイヤ(ホイール)=前後205/45ZR17
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