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【海外試乗】「ポルシェ・タイカン ターボ」ついに公道へ解き放たれたエレクトリックスポーツ

9月4日、ドイツ、アメリカ、そして中国の世界3カ所で同時にワールドプレミアとなったタイカンが、いよいよオープンロードを走り始めた。ポルシェ初のピュアEVであると同時に、4ドア4シーターのスポーツカーという成り立ちには、クルマ好きなら誰もが興味津々のはず。まずはその第一報に耳を傾けてみよう。

これが新しいドライビング・プレジャー

タイカンはポルシェ初のピュアEVであると同時に、今後ポルシェのEVが目指す方向性を示す重要なモデルでもある。いや、それだけに止まらない。将来的に電動化に向けて大きく舵を切ると宣言した、ポルシェ自身のあり方を定義する1台といっても過言ではない。世界最大のスポーツカーメーカーは、いったいどこに向かおうとしているのか? オーストリアン・チロルのインスブルックからドイツ・ミュンヘンまでの685㎞を2日間で走りきる旅を通じて、その答えを探ってみた。

4点式LEDライトは最新ポルシェのアイコン。フラットなボンネット、グラマラスなリアフェンダーは911にも通ずるデザインだ。

タイカンのドライビングポジションについて、ポルシェは「911に近づけた」と再三主張してきた。なるほど、初めて腰を下ろすドライバーズシートはフロアぎりぎりの低い位置に取り付けられており、SUVベースのEVとはまったくの別物。目の前のメーターパネルはフルデジタル化されているものの、それでも丸形のアナログメーターを並べた911に近い雰囲気を持つ。床下に93.4kW/hもの巨大なバッテリーを収めていながら、このドライビングポジションの低さは立派だ。今回試乗したのはタイカン・ターボとタイカン・ターボS。この2台、オーバーブースト時の最高出力はターボが680psでターボSが761psと差がつくが、通常時は625psで横並び。それ以外の乗り心地やハンドリングなども「公道で走る範囲では差がわからないはず」とエンジニアは語る。

全幅いっぱいに伸びたテールライトも最新ポルシェに共通するデザイン。なだらかに下降するルーフラインもまた911を彷彿とさせる。

もっとも、装着されるタイヤはターボSが21インチのグッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3、ターボが20インチのミシュラン・パイロットスポーツ4という違いがあった。当然、ターボのほうが乗り心地はよりソフトでタイヤの転がり感は滑らか。さらにいえば、限界領域ではグリップの変化が穏やかでコントロールしやすいといったキャラクターの差があったが、タイカンというクルマ全体に与える影響は限定的だったといって間違いない。

写真右側が進行方向。容量93.4kWhのバッテリーは床下に収納。後席の足元のみバッテリーをなくして低い着座姿勢を実現している。

いずれにせよ、路面から伝わるゴツゴツ感はターボSでも十分に軽くて快適。それも合格点ギリギリではなく、積極的に乗り心地がいいと評価したくなるレベルだ。しかも、足回りに強い衝撃が加わったとき、パナメーラやカイエンのように瞬間的な微振動が残らない点も高いクォリティ感に結びついている。ポルシェ全体を見渡しても、足回りとボディの剛性感でいえば911に迫るほか、長いホイールベースと床下にバッテリーを積んだ低重心設計がもたらすフラット感は911を凌ぐほどなので、現時点でポルシェ最高峰の乗り心地と称することに躊躇を覚えない。実に快適だ。

構造体の37%がアルミで、23%は熱間成型スチール。様々な接合方法を駆使したマルチマテリアル構造で軽量ボディを生み出した。

正真正銘のスポーツカー

今回の試乗会はノルウェーのオスロからドイツのシュツットガルトまでの6440㎞を18日間で走破するツアーの一環で、私たちは全部で11に分割されたルートの9番目を担当。試乗車のオドメーターはいずれも6000㎞を大きく超えていた。

ヘッドライト脇のエアインテークはエアカーテン効果により空気抵抗を低減するとともに、フロントブレーキの冷却にも役立てられる。

その間、多くの“荒くれ者”にさんざん痛めつけられたからだろう。リアアクスルに設けられた2段変速機構は軽いシフトショックを感じさせる試乗車が少なくなかったが、2速発進となるノーマルモードを選べばそれもなくなる。しかも、ノーマルモードはアクセルペダルを離しただけでは回生ブレーキが効かない設定なので、アクセルを微妙にオン/オフする状況では車体が前後にガクガクと動くこともなく、むしろ快適だった。

チャージ用フラップは近くのバーに触れるだけでも開閉可能。話題の800V充電を試したところ、53kWhを26分間でチャージできた。

ブレーキの話題が出たところで付け加えると、タイカンのブレーキフィーリングはEVのなかでも出色の出来だった。基本的な踏み応えがしっかりしているのはもちろんのこと、回生ブレーキと機械ブレーキの配分が変わっても踏力やペダル位置の変化がまったくといっていいほど感じられなかったからだ。ポルシェは回生ブレーキだけで0.4Gの減速Gを達成。おかげでほとんどの状況で機械式ブレーキを使わなくて済むようになったというが、こんなところも安定したブレーキフィーリングに繋がっているのかもしれない。

ポルシェ初のフルデジタル・メーターパネルを採用。ダッシュボード上のメインディスプレイを含め、表示内容は自由に選べ、視認性、操作性はきわめて高い。コンパクトなセレクターレバーはダッシュボード上に配置。

ハンドリングは例によってポルシェらしい安心感に満ちている。ステアリングを通じて強い接地感が伝わってくるほか、リアのスタビリティ感も極めて高い。今回、アウトバーンの速度無制限区間では瞬間的に220㎞/hに到達したが、その速度域でもまったく不安を覚えなかった。一般的にいってEVは超高速域が苦手とされるが、180㎞/hを超えてからも加速の勢いが鈍らなかったのは、前述した2段変速と徹底的にドラッグを低減したエアロダイナミクスの賜物だろう。

例によってサイドサポートは特別深くはないが、スポーツドライビングでもまったく不満を抱かせないシート。後席は二人掛けだ。

しかも、タイカンのハンドリングは安定志向が強いだけのつまらないタイプではない。低重心のおかげで切り返しは俊敏そのもの。ステアリングのレスポンスのよさと正確さはパナメーラやカイエンとは別次元で、まさにスポーツカーと呼びたくなるものだった。

写真右側が進行方向。容量93.4kWhのバッテリーは床下に収納。後席の足元のみバッテリーをなくして低い着座姿勢を実現している。

「エンジンを積まないタイカンに、なぜ“ターボ”“ターボS”というグレード名を用いたのか?」と問うメディア関係者がいたが、的外れな質問だと思った。ポルシェはタイカンを気まぐれで生み出したわけではなく、今後ポルシェが作るEVを定義づける意味が込められているはず。あえて伝統的なグレード名を用いたのは、これがポルシェの保守本流であるのを鮮明にするのがその目的だ。サブブランドを用いず、EVだからといってそれらしいデザインモチーフを採り入れなかったのも、理由は同じ。既存の生産設備をわざわざ移設してツッフェンハウゼンにEVのための新工場を作ったのも、 タイカンが次世代ポルシェを象徴するモデルであることを示している。
しかも、ポルシェはタイカンをSUVやサルーンではなく、スポーツカーとして作り上げた。これこそ、EV時代を迎えてもスポーツカーを作り続けようとする、ポルシェからの熱いメッセージだと受け止めて間違いないだろう。

【SPECIFICATION】ポルシェ・タイカン ターボ/ターボS
■全長×全幅×全高=4963×1966×1381[1378]mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド(前/後)=1702/1667[1690/1655]mm
■車両重量=2305[2295]kg
■バッテリー種類=リチウムイオン
■バッテリー容量=93.4kWh
■定格電圧=800V
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター(PMSM)
■最高出力=460kW(625ps)/500kW(680ps)[460kW(625ps)/560kW(761ps)]
■最大トルク=850[1050]Nm
■トランスミッション形式=F:1速 R:2速
■サスペンション形式=前Wウイッシュボーン/エアSP、後マルチリンク/エアSP
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/45R20(9J)、後265/35ZR21(9.5J)[前285/40R20(11J)、後305/30ZR21(11.5J)]

※[ ]はターボS

 

お問い合わせ
ポルシェ・ジャパン 0120-846-911

フォト=ポルシェ・ジャパン ル・ボラン2019年12月号より転載
大谷達也

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