正真正銘のスポーツカー
今回の試乗会はノルウェーのオスロからドイツのシュツットガルトまでの6440㎞を18日間で走破するツアーの一環で、私たちは全部で11に分割されたルートの9番目を担当。試乗車のオドメーターはいずれも6000㎞を大きく超えていた。
その間、多くの“荒くれ者”にさんざん痛めつけられたからだろう。リアアクスルに設けられた2段変速機構は軽いシフトショックを感じさせる試乗車が少なくなかったが、2速発進となるノーマルモードを選べばそれもなくなる。しかも、ノーマルモードはアクセルペダルを離しただけでは回生ブレーキが効かない設定なので、アクセルを微妙にオン/オフする状況では車体が前後にガクガクと動くこともなく、むしろ快適だった。
ブレーキの話題が出たところで付け加えると、タイカンのブレーキフィーリングはEVのなかでも出色の出来だった。基本的な踏み応えがしっかりしているのはもちろんのこと、回生ブレーキと機械ブレーキの配分が変わっても踏力やペダル位置の変化がまったくといっていいほど感じられなかったからだ。ポルシェは回生ブレーキだけで0.4Gの減速Gを達成。おかげでほとんどの状況で機械式ブレーキを使わなくて済むようになったというが、こんなところも安定したブレーキフィーリングに繋がっているのかもしれない。
ハンドリングは例によってポルシェらしい安心感に満ちている。ステアリングを通じて強い接地感が伝わってくるほか、リアのスタビリティ感も極めて高い。今回、アウトバーンの速度無制限区間では瞬間的に220㎞/hに到達したが、その速度域でもまったく不安を覚えなかった。一般的にいってEVは超高速域が苦手とされるが、180㎞/hを超えてからも加速の勢いが鈍らなかったのは、前述した2段変速と徹底的にドラッグを低減したエアロダイナミクスの賜物だろう。
しかも、タイカンのハンドリングは安定志向が強いだけのつまらないタイプではない。低重心のおかげで切り返しは俊敏そのもの。ステアリングのレスポンスのよさと正確さはパナメーラやカイエンとは別次元で、まさにスポーツカーと呼びたくなるものだった。
「エンジンを積まないタイカンに、なぜ“ターボ”“ターボS”というグレード名を用いたのか?」と問うメディア関係者がいたが、的外れな質問だと思った。ポルシェはタイカンを気まぐれで生み出したわけではなく、今後ポルシェが作るEVを定義づける意味が込められているはず。あえて伝統的なグレード名を用いたのは、これがポルシェの保守本流であるのを鮮明にするのがその目的だ。サブブランドを用いず、EVだからといってそれらしいデザインモチーフを採り入れなかったのも、理由は同じ。既存の生産設備をわざわざ移設してツッフェンハウゼンにEVのための新工場を作ったのも、 タイカンが次世代ポルシェを象徴するモデルであることを示している。
しかも、ポルシェはタイカンをSUVやサルーンではなく、スポーツカーとして作り上げた。これこそ、EV時代を迎えてもスポーツカーを作り続けようとする、ポルシェからの熱いメッセージだと受け止めて間違いないだろう。