岩手山の眺めがすばらしい東北を代表する絶景ロード【八幡平アスピーテライン】
八幡平アスピーテラインは、奥羽山脈を越え、岩手県八幡平市と秋田県仙北市との間に延びている。全長は約40km、最高地点の標高は1572m(見返峠は1540m)。東北を代表するワインディングロードのひとつだが、道自体はさほど険しい山道ではない。
岩手県側も、秋田県側も、登り口のタイトコーナーの連続で高度を稼いでしまうと、あとは高原地帯を抜けるようにゆったりとしたアップダウンが続いていく。道の雰囲気は、どことなく信州のビーナスラインや阿蘇のやまなみハイウェイにも似ていて、峠越えならではの走りを楽しみたい人には、むしろ物足りないかもしれない。
しかし、それを補って余りあるのが、見返峠の南東にそびえる岩手山の存在である。
南部富士とも呼ばれる岩手山は、標高2038mの独立峰で、この地方の人々には古くから愛されてきた。奥羽山脈から颯爽と独立し、大きな裾野をゆったりと広げる姿は、まさに「富士」の呼び名がふさわしいものだ。もしこの山が近くになければ、おそらくアスピーテラインの魅力も半減してしまうに違いない。
日本列島を太平洋側と日本海側とに隔てる中央分水嶺上にある見返峠は、ここを境に天候が急変することが多く、季節の変わり目などには見事な雲海を目にすることができる。そんな時も、雲の上にぽっかりと頭を突き出した南部富士の姿が、見る者に大きな感動を与えてくれるのだ。
かつて八幡平一帯は岩手県側も、秋田県側も、南部藩領に属し、人の行き来はけっこう盛んだったらしい。そして、岩手山麓に住む人々は、故郷の山を何度も何度も振り返りながらこの峠道を越えていったことから、見返峠という優雅な峠の名前が付いたのである。