コラム

奈良交通の「ボンネットバス撮影会」に潜入!

ボンネットバスで桜を探して

9月20日はバスの日、10月14日は鉄道の日です。毎年8月下旬から11月にかけてはバスや鉄道関係のイベントが各地で開催されます。そんなバスの日にちなんで、今年開催されたバスイベントから5つをピックアップしてシリーズでお届けするこの企画、第4回目は、2019年(平成31年)3月31日(日)に開催された奈良交通ボンネットバス撮影会です。第12回目の今回は吉野下市から黒滝方面を巡りました。

すてきな景色をバックに撮影
ルートは、奈良交通奈良営業所(白土車庫)→大和八木駅→飛鳥→奈良交通大淀バスセンター→旧丹生小学校→同 分校→丹生川上神社下社→黒滝道の駅→奈良交通笠木宿泊所→森物語→大淀道の駅→大和八木駅→奈良交通奈良営業所(白土車庫)でした。それは一体どこなのか奈良県外の方にはピンとこないでしょうから、奈良の古くていい景色もご紹介しながら当日のコースを辿ってみることにいたします。

1.奈良県大和郡山市白土町にある奈良交通奈良営業所から出発
このときまだデビュー前で、飛鳥方面に試走に出向くところだった貸切バス特別車両”朱雀”にも出会ったので並べて撮影しました。このバスは、高まる高級志向の旅行ニーズに対応するために新製導入されたいすゞ・ガーラ・スーパーハイデッカー車両で、従来車比20センチ伸ばされたシートピッチ、全席コンセント、Wi-Fiなどゆったり快適に旅ができる仕様になっています。愛称の”朱雀”は、古墳の壁画等で知られる四神の一つから選ばれました。このバスに乗れる第1回目のツアーは発売開始後10分で完売。2回目以降も完売が続き好調のようで何より。営業所を出発したら国道24号線を南下し大和八木駅を目指します。主催者の木村さんから行程や注意事項について説明を受けます。参加者一同わくわくします。

2.近鉄大阪線大和八木駅でも参加者をピックアップ
やはり目立つので、停車中は立ち止まる通行人けっこう話しかけられますが、ボンネットバスに想い出がある方が多かった。と、思ったら休憩中の奈良交通の運転手さんも写真を撮りにきていました。営業所が違うと目にすることがないので実車を初めて見たと若干気分が盛り上がったようでした。ここでは、タイミングが良ければ伊勢志摩ライナーや新宮特急バスとの共演が撮影できます。更に南下して飛鳥へ。

3.飛鳥でまず桜と電車との並びを撮る
近鉄南大阪線岡寺駅~飛鳥駅間にある、許可をもらえた空き地に場所にバスを停め、桜、さくらライナーとボンネットバスの共演を撮影します。が!桜はまだ咲いておらず、残念ながら満開の桜をバックにすることはできませんでした。でも往復2回の立ち寄りで16000系旧塗装車とも撮れたのは良かったですね。

4.奈良交通大淀バスセンター
トイレ休憩ついでに車庫を見渡すとコミュニティバスや貴重すぎる幕車がいました。

5.旧丹生小学校と分校
国道169号線を南下し、同309号県道138号入りしばらくしたところに旧丹生小学校と分校があります。かつては子どもたちが走り回っていたであろう校庭と木造校舎。平成10(1998)年3月に廃校になりましたが、体育館はコミュニティー体育館として活用されているそうです。花もつぼみもいい感じの桜でしたが、どこかさびしげな気がしたのは校舎に児童たちの姿がないからでしょうか。運転手さんと車掌さんも、”ピッカピッカの、一年生。ビシッ!”という感じで。やはりご近所さんがバスに気づいて出ていらっしゃったので写真だけでなくプチ試乗もしていただきました。離れて見ると懐かしい同窓会のような雰囲気でした。

6.丹生川上神社下社
国道309号線に戻ってすぐの場所にあります。日本遺産のこの神社は、日本最古の水神を祀る神社で、雨乞いには黒馬を、晴れを祈るときは白馬をこの社に献上したそうです。絵馬発祥の神社としても有名で、森を育むために必要な水を祀った神社として崇敬されたとのことです。

7.道の駅 吉野路黒滝
309号線を更に東へ進み、通り道にある丹生寺でもちょっとだけ停まって撮影。この道の駅の名物は串こんにゃく。一本100円です。かなり知られているらしく、買い求める人が多かった。なかなかおいしいと思いましたが、よく利用するという運転手さんによると「おいしいはおいしいけど今日はイマイチ、普段はもっとおいしい」とのことでした。そうなんや。気づいたら若い人がバスを背景に自撮りしていました。興味あるんや。

8.奈良交通笠木宿泊所
吉野郡大字笠木にあるバス停なのですが、ここには古い木造の車庫とその横に乗務員用簡易宿泊所があり、雰囲気も合うのでボンネットバスの撮影場所選ばれました。気づけば近所の子どもと思しき少女二人が写真を撮っていました。やっぱり興味あるんや。

9.黒滝・森物語村の吊り橋から
国道309号線を北へ戻り、県道138号線を北へ進んだところの黒滝・森物語村にある黒滝吊橋から撮影。この吊橋は、清らかな黒滝川の流れの上に架かる長さ約115メートル、高さ約35メートル。”景観だけでなく冒険心をくすぐる日本最長の吊床版吊橋”と、説明看板に記されています。確かにこわい。ここには、明治43年(1910年)に吉野材木黒滝組合の事務所として総工費八千円(当時の価格)で建設され、大正2年(1913年)4月から昭和53年(1978年)まで村役場庁舎として使われていた黒滝村旧役場庁舎もあります。山深の里にぽんとある明治の洋館は何か不思議な感じ。何でここにいきなり洋館?奈良県指定文化財に指定されています。

10.道の駅 吉野路大淀iセンター
復路は長い乗車になるので大淀産イチゴパフェで小休止。この後は、大和八木で一部の参加者を降ろして白土車庫に戻りました。

毎回コースに知恵を絞る木村さん
コースを作成し、当日の案内役も務められたのは奈良交通ボンネットバス保存会を主宰されている木村さん。ボンネットバス撮影会を成功させるためには、いい景色だけでなく、そこに5分10分バスを置いて撮影できるスペースがあるか? 私有地の場合なら許可が取れるか? など様々な制約を一つずつクリアしなければなりません。もちろん予約や調整が必要な場合はそれも。その上で想定した時刻にそこは逆光か順光か真上か? 春なら、当日桜は咲いているか? 秋なら、紅葉はいい具合か? ということも考慮、推定した上でコースを決めているそうです。「とても魅力的な景色なのに、あーここがベストなのにバス置けないしな~、その手前や向こうじゃあちょっとな~」ということで断念するポイントも多々あるとか。ロケハンも複数回行くらしいのでかなり時間を取られて大変そうですが、「それをしているのが楽しいんです」と仰います。

それだけ入念に組み立てていてもその後の天候次第で、行ってみたら桜がまだ咲いていなかった、強風で紅葉や銀杏が吹き飛ばされていた、雨だった、晴れすぎていて写真が撮りにくいなど想定外のことが起こります。その時はちょっと順路を変更したり、帰り道にもういちど立ち寄ったりとその場で変更するそうです。いい写真が撮れるようにバスの位置を微調整するのも大事な仕事。ちなみにこの木村さんはボンネットバスの世界では知られた存在で、各地のボンネットバスツアーや撮影会のコーディネートや案内役を務められることもあります。

実は貴重なバスがある奈良交通
車庫に戻ってしばし庫内を見学させてもらっているとナンバープレートが外された前後ドアの退役車が置かれていました。1995年式日野U-HU2MPAAの数台だったのですが、ツーステップのこのタイプのバスはワンステップ、ノンステップ化が完了している大都市圏ではもう見られません。奈良交通には日野ブルーリボンといすゞキュービックロング前後ドア車、3ドア車も残っています。しかも、地方によくある移籍車ではなく生え抜きです。ボンネットバスだけでなく、前後ドア車、3ドア車もぜひ保存してもらえないかと思います。

とりわけ3ドア車は単なるバスにあらず、日本の文化遺産あるいは歴史遺産と言っても過言ではないと思うからです。それは、高度成長期に日本各地に造成された郊外のニュータウンや団地と鉄道駅を結び、サラリーマンたちの通勤輸送に活躍したという背景ゆえ。駅に着いたら一気に吐き出してまた迎えに行くピストン輸送の時間をできるだけ短縮するための3ドアだったからなのです。結局普及しませんでしたが、鉄道車両の5ドア、6ドア、ワイドドアと似たような思想ですね。3ドア車を愛してやまない私としては、奈良交通での保存が難しければ、引き取って歴史文化遺産の保存に協力しようと本気で思っており、ことあるごとに関係者にお願いしてはいますが、さてどうなりますやら。

取材・写真・文:大田中秀一
大田中 秀一

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