新しいBMW1シリーズが導入され、ついに日本の公道を走らせる時がやってきた。採用された新しいFFレイアウトはどうか? 室内ユーティリティの完成度は? 肝心要の駆けぬける歓びはどう表現されているのか? 118iとM135iの両車を試乗した第一印象を報告しよう。
BMWらしさの表現にはある種の意外性があった
今回ばかりは期待と、そして同じだけの不安が渦巻いているはずだ。皆さんもよくご存知の通り、3世代目となったBMW1シリーズはついにFRを捨て、前輪駆動主体のレイアウトを採用した。そのメリットについても、今さらあえて説明するまでもなく誰もが解っている。一般的には求められた方向であることも間違いはない。
それでも我々クルマ好きは、やはりBMWらしさがいかに表現されているかに期待してしまう。118iとM135i xDriveという現在の1シリーズのいささか極端なラインアップは価格帯も大きく異なり、どちらを選ぶか迷うということはなさそうだが、言わば両極であるこの2グレードを並べて味わえば、新型1シリーズの本質が浮かび上がってくるのでは? そんな思いで、試乗に臨んだのだった。
シンプルな仕様の118iでも、大胆なエクステリアデザインのおかげで存在感は十分にある。ボディサイズは全長が先代比5mm短い4335mm、全幅は35mm広い1800mmで、全高は意外や25mm増の1465mmとなっている。前輪駆動ゆえの長いフロントオーバーハングにこの背の高さだから、このぐらい派手にしておかないと実用車然とし過ぎてしまうという危惧もあったのだろう。結果、少なくとも周囲に埋没しないスタイリングになっているのは確かだ。
10.25インチのメーターパネルとインフォメーションディスプレイを用いた最新のBMWライブコクピットを採用することもあり、試乗車のインテリアは典型的な最新BMWの雰囲気を醸し出している。AI音声会話システム、携帯電話の充電機能など、最新装備についても足りないものはない。
ただしクオリティに関して言えば、樹脂部分の乾いた見た目、手触りなどには物足りなさを覚える。この辺りは従来の1シリーズと一緒である。着座位置は高めで、頑張ってはいるものの特にアクセルペダルが内側にオフセットしたドライビングポジションも、やはり前輪駆動レイアウトかつ右ハンドルと感じさせる部分だ。
一方、後席は余裕を増していて、前席の位置を合わせた状態で後席に移っても膝の前には拳を縦にしても入れられるぐらいのスペースが確保されている。つま先も前席シート下に収まるから、成人男性でも狭苦しさを感じることはないだろう。20L増という数値以上の広さを感じさせる荷室を含め、前輪駆動レイアウトにしたメリットはちゃんと出ている。
118iが積む1.5Lターボエンジンのスペックは最高出力140ps、最大トルク220Nm。ギアボックスは7速DCTである。エンジンを始動すると、3気筒特有のサウンドが聞こえてくるのはいいとして、ステアリングに振動が伝わってくるのが気になる。
走り出すと、ステアリングの適度な重みやサスペンションのしっとりとした動き出しに、これこそBMWだと実感。一方で、床下から入ってくる騒音や振動はちょっと大きめだ。回していくとエンジンは次第に粒が揃ってきて、軽快感の方が際立ってくる。パワー、トルクは十分以上。しかも組み合わされるのがDCTだけに右足の動きに即応してクルマが前に出る感覚は強く、小気味良さを味わえる。
フットワークも、やはり軽快感重視の味付けで、切れば即座に鼻先がインを向き始める。前輪のスリップの気配を感知するとDSCより先に働いて空転を防ぐ新搭載のARBと、お馴染みの旋回時の内輪に軽くブレーキをかける制御も効いているのだろう。ただし、ステアリングの中立付近の手応えがやや希薄なこともあり、舵を入れる瞬間の一体感は高くない。またストローク時のトー変化が大きいのか、路面が波打っていたりすると進路が取られやすい。
切れ味は鋭いので、普段は特段アンダーステアを意識させられることもないのだが、ペースが上がってくると特に下りコーナーではフロントが外に膨らんでくる印象はある。問題はアンダーステアではなく、起きている事象がドライバーに今ひとつダイレクトに伝わってこないこと。おかげで自信を持ってコーナーにアプローチしていけないのである。
きっと、ここまで読んで感づかれた方も居られるだろう。この辺りはMINIや2シリーズ・アクティブツアラーなどに通じるものだ。個人的にはBMWはもう少し、感度よりもリニアリティ重視の方がそれらしいと思う。