南陽一浩の「フレンチ閑々」

SUVクーペながらもゴルフ並のトランク容量! 今秋欧州デビューの新型C4の詳細が見えてきた【フレンチ閑々】

テレビ番組のトークショー風の異色な!? オンライン発表イベント

それはまるで、海外のテレビでよくあるトークショー番組さながらの、お披露目会だった。6月30日、パリ時間の14時より行われた、シトロエンが新たにモデルチェンジしたC4のワールドプレミア発表のことだ。アルファロメオが110周年記念に公開したコンテンツがドキュメンタリー的だったのに対し、シトロエンのそれは毎週流れていそうな、そんなトークショーの体裁だった。

現CEOのヴァンサン・コベ氏がプロダクト戦略ディレクターのロランス・アンセン女史と並んで、まるでTVホストのようにコンテンツ発信するのは、じつは初めてではない。ロックダウンたけなわの4月半ばから毎週金曜日、マーケティング&コミュニケーションのディレクターであるアルノー・ベローニ氏がスティル・シトロエンのチーフデザイナーのピエール・ルクレルク氏らを交え、定期的に各部門の担当者がインタビューによる受け答えを動画配信してきた。今回、その総集編ともいえそうなコンテンツが、新型C4のワールドプレミア発表会だったのだ。もちろん主役は、すでに画像と概要だけ発表されていた「ë-C4」と、ICE版で今回詳細が明らかにされた「C4」であるとはいえ。

パリ時間の日付が画面右上に入った映像を眺めながら、エッフェル塔に社名イルミネーションを輝かせた1925年以来、PRコミュニケーションのメソッドにおいても最新最先端たれ、そんなシトロエンの社是というべきものを思い出した。ログインするためのリンクがお披露目スタートの13分前まで送られてこないハラハラぶりを含め、さすがパリジャン・カルチャーの申し子たる自動車メーカーの面目躍如だ。

肝心の新型C4だが、6月半ばに先行して公開されていた写真では少しキツく見えたボンネットやドアサイドの抉られ形状も、動画で眺める限り、予想していたより全体的に自然でシンプルな面構成と見えた。ようは陰影コントラストの強かった写真よりも滑らかでシュっとしていて、単純にカッコいい。加えて今回、ようやくカンどころとなるスペックが明らかにされた。

 

まずボディ外寸は、全長4360×全幅1800×全高1525㎜で、ホイールベースは2670㎜。CMPプラットフォームを共有して市販モデルとして先行する2台、同じPSAグループ内のDS 3クロスバックが4120×1790×1550㎜の2560㎜で、プジョー208が4055×1745×1430㎜にホイールベースは2540㎜。BセグとCセグという違いゆえひと回りほど延ばされており、CMPプラットフォームとしては現状、もっともロングホイールベースとなる。前後トレッドは、未発表ながら、1550㎜を超えているだろう。それでいてDS 3クロスバック同様の外径690㎜のタイヤを履き、地上最低高は156㎜に保たれている。前後オーバーハングが短く、タイヤをワイドに配して、ドライバー視線の高い「ハイライダー・スタイル」にまとめているのだから、なるほどカッコいいワケだ。

チーフデザイナーのピエール・ルクレルク氏いわく、新型C4のエクステリアは自動車のデザイン・コードをいくつかミックスしたものだという。確かに、地上からショルダーラインまでが分厚いところはSUV風だし、快適な室内と優雅な線でまとめられたグリーンハウスはサルーン的で、CXやGSを彷彿させる。それでいてリアウィンドウを強く寝かせるのはシトロエンの伝統だし、ほぼ垂直に切られたリアエンドに馴染むリアスポイラーは、初代C4クーペを想い起こさせる。

加えてC4のフロントマスクは、シトロエンの新しいデザイン・コードの到来を告げるものでもある。ライト周りが水平基調のグリルごと上下2段に並ぶのが、C4グランドツアラー(デビュー当時はピカソ)からC4カクタス、直近のC3やC5エアクロスまでのシトロエン顔だった。ピエール・ルクレルク氏は、この意匠を受け継ぎつつ新しいフロントマスクを作り上げたという。新しいC4では、ダブル・シュヴロンから左右に水平に伸びる2本のクロームは変わりないが、左右両端で「V」を横たえたようなオープンエンドになって、そこに上下にライト・モジュールが組み込まれている。ボンネットグリルは小さく、代わりに下部バンパーグリルは大きく、エフィシェンシーの高さを語る、よりスマートな顔つきになった。

この新しいフロントマスクとライト周りの意匠を、シトロエンは「Vルミナス・シグネイチャー」と呼び、リアのコンビネーションランプにもオープンエンドのVが看取できる。ちなみに下部のヘッドライト・モジュールはついにプロジェクターLED×3によるフルLEDとなり、インテリジェント制御のマトリックス照射機能も備え、同じくLEDデイランニングライトと組み合わされ、「シトロエンLEDヴィジョン」と呼ばれる。

しかも美観だけではなく、パッケージングやインテリアにも「らしさ」がふんだんに盛り込まれている。まずロングホイールベースを活かしてリアシートの居住性にも腐心した結果、足元スペースの広さはCセグメント随一であると、シトロエンは胸を張る。一方でトランク容量は380Lと、VWゴルフに肩を並べる数値であり、しかもフルフラット時は1250Lまで拡大する。実用性でハッチバックに引けをとるどころか、なのだ。

前席側に目を移せば、なだらかな台形をモチーフとした四角四面ではない、クリーンでモダンな雰囲気が見てとれる。フルデジタルのHD仕様とされたメーターパネルや、ダッシュボード中央に据えられる10インチタッチスクリーンは、フレームレス仕様となっており、ピアノブラック風のセンタコンソールと相まって質感の高さ、ハイテク感を強調する。また上下に薄いダッシュボードやドアパネルにまで回り込んだ水平基調のグラフィックは、室内をより広く落ち着いた雰囲気に見せている。またダッシュボード表面にはダブル・シュヴロンを重ねた柄が刻まれており、これも質感を高めるのに一役買っている。ちなみにダッシュボードの助手席側には世界初の装備がある。プッシュ式トレイとしてせり出してくるタブレット・ホルダーが採用されたのだ。これは「スマートパッドサポート シトロエン」と呼ばれ、車内で置き場に困るタブレットPCを的確に固定する。USBコンセントも前席左右で2口設けられ、その上に3連ダイヤルは左右独立ゾーンのエアコンとなっている。

注目は、ATの操作系だ。センターコンソールに埋め込まれた前後シーケンシャル式レバーで、R・N・Dの3ポジションを選ぶ。選択中のポジションは隣列のセレクタ表示で確認でき、Pポジションに入れる際のPボタンが前側に配される。逆に手前側には、EV版では回生モードのBボタン、ICE版ではMTモード切替のMボタンとなり、変速操作はステアリング手元のパドルシフターで行う。

加えてC4のインテリアやシートには、C5エアクロス同様に「アドバンスト・コンフォート・プログラム」が導入されている。シトロエンはシートにまつわる「コンフォート」を4種類に分類する。まず視覚上からして、往年のBXやGSがそうであったように、クッション性が見てとれること。また身体を預けた際のコンタクト性、柔らかく沈み込み感が味わえること。当然、動的な局面でも乗員の身体を確実に支えるサポート性が、長年の使用でも保たれること。そして長時間乗っても、心地よく正しい姿勢がとりやすく疲れにくいこと。フレーム形状やウレタンフォームの密度、マッサージ機能やシートヒーターはいうに及ばず、快適性に資するために最適化されうるシートの細部すべてに、「車上ウェルネス」の概念を反映させたとか。

一例としては、総計39Lもある収納スペースを車内16か所に、乗員各自がアクセスしやすいよう偏在させることなく割り当てているという。かくして煮詰められた車内コンフォートはさらに、プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)採用のサスペンションによって支えられる。以前からそうだが、シトロエンはこの柔らかな繭に包まれるような効果を、とくに「コクーニング」と呼んでいる。

ガソリンとディーゼル、つまりICE版パワートレインはトランスミッションの組み合わせを含めると7種類。日本に導入の可能性が高いEAT8速仕様は、ピュアテック130 S&S(スタート&ストップ)と同155、ディーゼルはBlueHDi 130 S&Sとなる。

一方でBEV版、ë-C4のパワートレイン構成は、基本的にDS 3クロスバックE-TENSEやプジョーe208と共通。50kWh容量のリチウムイオンバッテリーをリアシート下に積み、電気モーターは最大136ps(100kW)、260Nmを発揮、最大航続距離はWLTPモードで約350㎞となっている。

ほとんど誤差の範囲かもしれないし、後発だけに改良も施されているはずだが、DS 3クロスバックE-TENSEの約320㎞、日本市場でも発表されたばかりのプジョーe-208の約340㎞より、10~30㎞ほど最大レンジが長い辺りもそそる。それこそロングホイールベースと優れた空力特性という、エフィシェンシーの恩恵はEVでこそ顕著、そんな何よりの証なのだから。新しいC4の日本導入はおそらく、来年半ば辺りが予想される。

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