いうまでもなく、 Sクラスと7シリーズといえば、両ブランドを代表するフラッグシップである。近々、フルモデルチェンジが噂されるSクラスは、熟成の進んだモデル末期の完熟モデル。かたや7シリーズは、昨年フェイスリフトが施され、存在感のあるデザインと最新の安全支援システムを獲得。さて、メルセデス派? ビーエム派? アナタはどちらに賛同するだろうか?
クルマとの極上の一体感を味わえる/7シリーズ派・島下泰久
今やラージサイズプレミアムセダンのセグメントは、凄まじい数のライバルが立ち並ぶ群雄割拠の様相だ。そんな中、あえてかつての一騎打ちの時代のようにSクラスと7シリーズを真正面からぶつけてみると、今も両車は様々な意味で対極に位置する存在だと再確認することになった。
まず乗り込んだのはSクラス。さすがと唸ったのは、すでにモデル末期であるにも関わらず、一瞬でこのセグメントの絶対王者たる威厳を実感させたことだ。
ドライバーズシートに腰を下ろすと、左右ドアまで連続したデザインのラウンディッシュな空間が、室内をとても優雅に、広々と感じさせる。ワイドスクリーンコクピットの先進感とウッドやレザーのコーディネイトも巧みで、ムードはとても贅沢。エクステリアを含めてきわめてモダンな設えなのは今や多数派を占める新興市場のユーザーの要望も大きいという。
リアシートも単純にスペースに余裕があるというだけでなく、リラックスできる空間設計に感心させられる。ここにいたらつい、うとうとしてしまいそうだ。
走りっぷりも、まさに微睡みへと誘うかのよう。わずかに聞こえるロードノイズ以外、室内は至極静寂に保たれる。試乗車がプラグインハイブリッドのS560eだったから、てっきりエンジンがかかっていないのかと思ったら、始動しても静けさは変わらなかった。乗り心地もフラットかつしなやかで、文句のつけようがない。
まさに、快適で安全な移動空間の究極の姿。改めて乗ったSクラスには、やはり圧倒された。そこから乗り換えた7シリーズは、意外にもクラシカルなラグジャリー観で作られているんだなと興味をそそった。何しろ、今になってキドニーグリルを大型化してきたぐらいだから、それは意図的にそうしているのだろう。
外観は、まさに正統派スリーボックスセダンのフォルムで、言ってしまえば保守的。室内も、水平基調のダッシュボードに敢えて連続性が演出されていないフラットなドアトリム、空間は十分に確保されているけれど事務的なリアシートなど、要所のデジタルなディテールはともかく骨格はオーセンティックそのものと言っていい。
しかも試乗車はM760LixDrive。スタートボタンを押すと同時にV12の咆哮が耳に届いた。正直、アナクロ感を抱かないではないが、その走りも手触りはSクラスとはまるで対極の味わいだ。操舵感にはコツコツ、ザラザラとした部分もあるが、代わりにグリップ感や路面の感触が生々しく伝わってくる。しかも切り込んでいけば間髪入れずに、ノーズだけでなくクルマ全体が向きを変えていくから、まるでひと回り小さなクルマのようという常套句が浮かんでくる。前後輪を操舵するインテグレーテッド ・ アクティブ ・ステアリングはようやく違和感がなくなり、クルマとの極上の一体感を味わわせてくれる。
V12ツインターボユニットは、滑らかさよりもビート感が強調されていて、吹け上がりには小気味よさすら感じさせる。しかも8速ATがDレンジでもダイレクト感たっぷりで、まさに意のままに操る歓びを享受できるのだ。
最近のMのつかないBMWの走りは全般に演出過多だから、素の7シリーズだと印象は異なるのかもしれない。しかし少なくともM760Liは、かつてのBMWのように自らステアリングを握るには最高の1台に仕上がっていた。
Sクラスに乗っていると、あまりに快適で楽チンで、ここまで来たら早く全部自動運転になってくれないかな……なんて思いがふと頭をもたげてくる。一方の7シリーズは、やはりドライバーズシートに座り、自らステアリングを握って走らせたいクルマだ。
そう、まさにそれは今までと変わらない7シリーズの立ち位置そのものなのだが、このパンデミックの中で改めて移動への渇望、それも単にA地点からB地点へというのではなく、自分の意思で好きな時に好きな所に走って行けることの歓びを皆が再認識した今、その価値は改めてクローズアップされてもいいのではないだろうか?
ラグジュアリーの意味すらも変わってきそうな、これからの時代。内外装のコンセプトの古臭さは気になりつつも、能動的に移動を、あるいは様々な変化すらも自らの手でハンドリングして楽しもうという気分にさせる7シリーズをこそ推したいと考えたのは、そんな理由からのことである。