1989年に初代がデビューして以来、一貫した姿勢を守り続けるディスカバリー。一方、昨今流行りのスポーツSUV界に一石を投じたディスカバリー スポーツ。同じ車名を名乗るとはいえ、対極のキャラクターが与えられた両車の本質とは? 特に2020年モデルのディスカバリー スポーツは驚異の進化を遂げている。
同じディスカバリーでも対極に位置する2台の個性
レンジローバーが50周年を迎えたのと同時に、ディフェンダーが刷新されたことが話題となっているようだが、ランドローバーにとっても、またSUVを語るうえでもディスカバリーの存在を忘れてはならない。言い換えれば、このディスカバリーこそ昨今のSUVブームの原点を生み出すきっかけとなったモデルで、レンジローバーが“オフロード界のロールス・ロイス”と表されたことに対し、ディスカバリーはそれをより身近にした、いわば廉価版として1989年にデビュー、世界一過酷なオフロードイベントのキャメルトロフィーで活躍したこともあって瞬く間に人気を博した。
そのディスカバリーも今や5代目。30年以上の実績を積み重ねてきたことになるが、もっとも感心するのは、デビュー以来、驚くほど乗り味がブレていないことだ。その昔、初代ディスカバリーを1ヶ月以上に渡り普段の足として使った経験があったが、さすがに5代目にもなれば“今風”になっただろうと思ってあらためて乗ってみると、基本コンセプトはまったく同じだった。アクセルを急に開くこともなく、終始しっとりとした乗り心地で、価格帯をも超越した高級感あふれる走行性で魅了する。
速くもなければ遅くもない、パフォーマンスばかりをウリにする今どき感とは無縁。これもレンジローバーとプラットフォームを共有しているからだろう。弟分とはいえ、インテリアの質感なども立派だから、日本で乗るならむしろレンジよりもディスカバリーのほうが扱いやすく感じるのは確かだ。
しかし、今回もっとも驚かされたのは、ディスカバリースポーツのほう。実のところ個人的には根っからのディスカバリーファンであることから、ディスカバリースポーツに対して期待はまったくしていなかった。理由は車名の通り、やたらと“スポーツ”をウリにするSUVが好ましくなかったからなのだが、ディスカバリースポーツだけは違う。特に2020年モデルからは、ヴェラールと共通のPTA(プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー)を採用しているため、走りの次元が大幅に進化している。一見するとマイナーチェンジのように映るエクステリアだから誤解されてしまうが、これはもはや完全なる新型車だ。
特にフロントシャシー周りの刷新は、絶大なる効果を発揮している。エンジン搭載位置は下げられ、剛性が高められたおかげで、とてもSUVとは思えないほど機敏かつ軽快。ステアリング・レスポンスも改善されたことで、峠道でもまるでスポーツカーばりのハンドリングと追従性で楽しませてくれたのは、想像を超えて驚異にも思えたくらいだ。今回の試乗車は180psを発する直列4気筒ディーゼルエンジンを搭載するRダイナミックSEだったが、まったくパワー不足を感じない。組み合わせる9速ATのギア比も見事で、430Nmを誇る最大トルクのうま味を見事に引き出している。もし、これが最上級グレードの直4ガソリンエンジン(P250:249ps/365Nm)だったらどうなるのだろうか……。想像するだけでも恐ろしくなるほど、その完成度には眼を見張るものがある。
これならスポーツと名乗るだけのことはある。決して“俄”などではない秀逸な1台だ。