コラム

日本同様にEV化を推進するドイツだが、それでも普及しない理由とは?【池ノ内ミドリのジャーマン日記】

Eゴルフでアウトバーンを飛ばすと、航続距離は50km程度!?

11月2日からドイツは二度目のロックダウンに入った為、11月6~8日に取材に行ったDTM(ドイツ ツーリングカー選手権)の最終戦は当然のように無観客レースで、事前にPCR検査結果の提出や毎日サーキットに入る前に3度の検温、更にはメディア関係者であろうと厳格に立ち入り区域が制限されるなど、プロスポーツ界は厳しい状況で最終戦を終えました。

昨年はDTMと日本のスーパーGTと共に協議や開発を進めてきて、ホッケンハイムリンクと富士スピードウェイでやっと夢の競演が叶ったのですが、今季でその活動を終了し、2023年からはEVツーリングカー選手権となる事が発表されてビックリ!

その来期マシンであるドイツのOEMであるシェフラーが開発したデモカーの走行も行われました。各輪に4つのモーターを備え、1200馬力を誇る四輪駆動のそのモンスターマシンは、なんともフシギなデザイン。走行を担当していた友人ドライバーにその感触を聞いてみると、外からは殆ど聴こえないモーター音は、コックピットでは物凄く煩いのだとか。

ドライブフィーリングはとてもパワフルで、みんなが想像する以上にドライブをしていて楽しいと教えてくれました。2023年までにどのように更に開発されていくのか興味もありますが、やはりせっかく日本のスーパーGTと共に開発を進めたクラス1のレギュレーションを継続し、共に交流戦を増やして行く事を願っていましたが、これも量販車のEV化に伴うメーカーの同意を得るには仕方ない策だったのでしょうか……。

さて、特にEV化政策が加速し、全ての自動車メーカーが右に倣えとばかりに電気自動車の開発に力を注ぐ中、CMや報道等を通して毎日のように見聞きをしますが、私の周りでは実際に所有をしている方はまだごく僅か。新型コロナウイルスが蔓延して経済活動促進のためにドイツの重要な自動車産業の面でも、政府は新車プレミエを打ち出し、電気自動車やプラグインハイブリッド車には特に多くの助成金を出して、日本円にして100万円以上もお得に購入できるプランを出しました。

それにも関わらず、半年以上経った今もさほどミュンヘン市内では電気自動車は増えていません。その状況を市内のフォルクスワーゲン(以下VW)販売店で伺ってきました。前回のロックダウンでは、自動車販売店は修理や点検作業のワークショップのみオープンしていましたが、今回の2度目のロックダウンでは経済活動をできるだけ維持する為、消毒やマスク着用の徹底や大人数にならないように管理の下でショールームも営業していい事になっています。

現在VWでは、ID3. 1ST、 ID3.、 ID4.、ゴルフE、ゴルフGTE、パサートGTE、パサートGTEヴァリアント、アルテノeハイブリッド、アルテノ シューティングブレークeハイブリッド、ティグアンeハイブリッド、トゥワレグeハイブリッドと既に数多くのピュアEVや電動化モデルを販売しています。そして、つい先日VWはポロと同じくらいの大きさのコンパクトEVであるID2.を2023年に発売予定と発表しましたね。価格は20,000€(約250万円)を想定としており、他のモデルと比べるとかなりお手頃です。

先月の出張の際にアウトバーンA8のシュトゥットガルトを走行中、かなり近代的なデザインと光輝く新ゴルフGTEに遭遇し、気になって暫くその後ろを走行しました。後で調べるとIQライトというものが搭載されているそうです。この新GTEがとても気になり、販売店に出向いたのですが、残念ながら展示車はありませんでした。 お店の方に現行のEゴルフや新GTEの購入を考えていると想定していくつか質問をしてみました。

――もしも今借りている地下の機械式駐車場に充電ステーションがない場合に電気自動車やeハイブリッド車を購入したいとなると、どうすべきでしょうか?
VW:基本的に一般的なミュンヘンの機械式の地下駐車場ではウォールボックスの設置も厳しい状況とあり、もしも電気自動車の購入を検討される場合はご自宅やその周辺のインフラ状況の詳細にご自身で調べた上で検討して頂くようにお願いしています。

――ウォールボックスの設置をはじめ、充電関連の情報やご提案を販売店では教えて頂けないのでしょうか?
VW:購入してから『こんなハズではなかった』というクレームを避ける為にもあえて販売店では関与しない事にしています。あくまでお客様ご自身でご自宅近辺やガレージでの充電環境を十分に事前調査して頂くようにお願いしています。また、過去に電気自動車やプラグリンハイブリッド車をご購入頂いたお客様に関しても、インフラに関しての対策方法に関しても追って伺う事はしていません。

――電気自動車やプラグインハイブリッド車の新車購入の政府や市町村のプレミアで大幅割引が期待できます。プレミアは2021年末まで延長された上、特に今年の12月31日までは消費税が19%から16%に引き下げられた事もあり更にお買い得ですが、電気自動車の販売状況はいかがですか?(プレミエ価格は組み合わせにより日本円で100万円以上の割引も可能)
VW:市内にお住まいの方にはインフラの問題もあり、大特価にも関わらずプレミア導入前と比較しても発注数はさほど変化はありません。

――インフラ以外にも電気自動車を選択する顧客の伸び悩む原因は?
VW:航続距離にも関係しているかも知れません。郊外の一軒家に住み問題なく自宅でいつでも充電ができ、普段使いの買い物や子供の送り迎え、郊外へのちょっとしたドライブで利用する方や通勤用としても勤務先やその近辺にも充電設備がある方には理想的なクルマでしょうね。しかし、アウトバーンを走行して遠距離を移動する方には向きません。

――例えば、私は仕事柄1日に500~1000数百kmを自走で走行する事が多く、またアウトバーンの速度制限解除の区間では空いていれば160~210km/h位で走行しますが、その場合はEゴルフやGTEだとどんな感じで走行できると想定すれば良いのでしょうか?
VW:アウトバーンで180㎞/h前後で走行する事はもちろん可能です。しかし、フル充電をした上で160~180km/h前後で走行すると、加速の際のエネルギーの消費も含めて、実質的には50km程しか走れないでしょう。Eモデルをセールスする際には、必ずお客様の日頃の用途を伺った上でおススメすべきか、そうでないかを判断します。

――電気自動車を長期間レンタルや長距離走行をした事がない者にとってカタログに記されている数値や自動車雑誌の評価で判断せざるを得ませんが、EゴルフやGTEの場合はアウトバーンでの走行はどれくらいをマックスにと考えておくのが良いのですか?
VW:100~120km/hがトップスピードで、航続距離を出来るだけ伸ばしたいのであればそれ以下のスピードに留めての走行をおススメします。

迫りくるEUの電動化に備えるべく、利点だけではなく実質的な難点もVW販売店で実際のお話を伺えると、納得できると感じました。市町村でサポートの種類や金額は異なりますが、ミュンヘン市では2020年末までウォールボックス購入・設置の補助金を最大6000€までサポートしてくれる制度があるのですが、実質的に私が借りているような狭い地下の機械式(デュプラックス)のガレージには設置できず、結局はあまり活用されない制度のように思いますが……。ただ新型GTEの場合、年間の自動車税はたったの28€(約3500円!)とウソのような安さです。充電設備が充実し、近距離のみで電気自動車を利用する方には理想的な車両なのかも知れませんね。
ゴルフを所有した事のない身としては、ガソリン車のモデルも気になりゴルフVIIIの一番お手軽グレード<Golf 1.0Lエンジン、66kW (90ps)、5速マニュアル> をチェックしてみたところ、車両本体価格は19%の消費税込みで19,880.85€(約250万円)から。自動車税は70€(約9000円)とこちらもかなり維持費は安く済みそうです。
ドイツでは既に発売されているゴルフVIIIは、夏頃から急に見掛ける機会が増えました。先日伺ったVW販売店さんでも、ガソリン車の売れ行きは好調との事でした。

数年前から比べれば、電気自動車の充電ステーションが市内に増えたとはいえ、現状では全てに対応出来る数ではありません。先日、私がガレージをお借りしている大家さんと立ち話をしていたところ、「いまのところは電気自動車オーナーさんからのお問合せはないが、あったとしてもお貸しするのはお断りするしかない」とおっしゃっていました。その訳を尋ねると、第一に電気自動車用の充電設備を地下ガレージに設置するにあたり、火災の危険性が高くなるとの事で保険の金額がかなり跳ね上がる為で、賃料にそれらを上乗せすると借り手がなくなる可能性が出てくるからだそうです。第二の理由に地下ガレージが狭くウォールボックスや充電ステーションの設置場所が確保できない、との事でした。

電気化を進める一方で、インフラの問題がネックでまだまだ大きく普及したとは言えない電気自動車。電気自動車やeハイブリッド車の新規登記数が急増していると日々見聞きしますが、実際に所有している人や購入を考えている人が回りにいないというギャップに戸惑を感じるのが現状でしょうか。

これを書いている12月1日、ミュンヘンには初雪が降り、また夕方にはVWモータースポーツからプレスリリースが入り、50年以上に渡って世界中で活躍したモータースポーツ活動に終止符を打ち、EV事業に集中する事が発表となりました。やはりこれは時代の流れなのでしょうか……。

この記事を書いた人

池ノ内 ミドリ

武蔵野音楽大学および、オーストリア国立モーツアルテウム音楽院卒業。フリーランスの演奏家を経て、ドイツ国立ミュンヘン大学へ入学。ミュンヘン大学時代にしていた広告代理店でのアルバイトがきっかけでモータースポーツの世界と出会い、異色の転身へ。DTM、ル・マン/スパ/ニュルブルクリンクの欧州三大24hレースを中心に取材・執筆・撮影を行う。趣味は愛車のオープンカーでヨーロッパのアルプスの峠をひたすら走りまくる事。蚤の市散策。

池ノ内 ミドリ

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