ブランドの威信と最高の技術が注ぎ込まれた高性能ハイエンドセダン。だからこそ、いつの時代も最強であることが義務付けられるのだ。そんな弩級セダンの最新作としてアウディS8が登場。立ちはだかるライバルとパフォーマンスを比較してみる。
高級ビッグセダンはドイツの独壇場
途方もないスピードを持つ、ラグジュアリーなビッグセダン。この手のクルマはドイツの独壇場だ。フォーマルな装いをたしなみにしつつ、ときには速度制限のないエリアを250km/hで移動する。その必要性(と欲望)の賜物だ。アウトバーンの存在を下敷きにする完成度の高さは圧巻、である。
アウディS8は、571ps/800Nmの4L V8ツインターボを積む超高性能モデルであるにも関わらず、徹頭徹尾、快適な4ドアセダンだ。最もスポーティな走行モードを選んでいるときですら、その乗り心地はしなやかにして滑らか。
路面が何か主張してることは伝えてくるが、それらを煩わしいモノとして突きつける荒さや粗さは全くない。誰もが心地好く移動できることが第一義、なのだ。
それでいて、曲がる。レールに沿うかのように気持ちよく正確に曲がる。全長5.2m、車重およそ2.3トンの堂々たる車体が、見事にドライバーとの一体感を感じさせながら、スイッ! クルッ! とターンを繰り返すのだ。
アクセルペダルをグッと踏み込んで571psを目覚めさせれば、並み外れたレベルにある加速感や速度の伸びが即座に引き出せる。そしてそんなときでも荒っぽい過激な貌など全く見せず、どこまでも洗練された印象なのだ。
クワトロシステムに4輪操舵、アクティブサスペンションなど高度な技術が満載されて連携プレイと繰り広げてるわけだが、そうした技術が生み出す凄さを普通に乗ってる限りでは少しも匂わせないところも、また凄い。これ見よがしなところのないスタイリングにしてもそうなのだが、どこまでも大人なクルマなのだ。
もう一方のBMW M850iグランクーペは、もう少し若々しい。実際にはセダンというより名前のとおりの4ドアクーペだが、見た目に反して後席はかなり広く、実用上はセダンにほぼ遜色はない。とはいえそのシルエットは、7シリーズ辺りよりも洒落ているし華がある。
コンフォートモードでは高級セダンそのもの、スポーツモードではスーパースポーツカーというジキル&ハイドのような性格は2ドアのM850iと共通していて、基本的な乗り心地はS8と較べれば引き締まった感覚が強いものの、”M”がつくモデルにしては当たりが柔らかく快適。ロングを走っても疲れは少なそうだ。
が、その気になって走れば、快音の高まりとともに始まる530ps/750Nmが炸裂、ホイールベースが205mm短い2ドア版に見劣りしない鋭く逞しいフットワークなど、はっきりと楽しさや気持ちよさを伝えてドライバーを取り込もうとする。ガンガン踏んでいきたくなるし、それに見事に応えてくれる。
S8同様ハイテクはたっぷり投入されていて、やっぱりそう簡単には気づかせない。ドライバーズカー作りの巧いBMWの、見事なトップエンドである。
セダンは構造的にはクルマの理想形。そのメリットを存分に活かしたこうしたクルマには、手が届かないのが判っていても、憧れる。