
ポルシェ初のフル電動スポーツカー「タイカン」が上陸し、日本でもいよいよデリバリーが開始された。同社いわく、「ポルシェの伝統を忠実に受け継いだ最新のサステナブルなスポーツカーです」と語るこのクルマ。果たして、なにがどうポルシェらしいのか? 日本上陸第一報をお届けする。
ポルシェ初のBEVは全集中しても予測不能
ポルシェというのは口数の少ない寡黙なクルマだと思っている。日常域で流しているくらいではずっと黙っている。でも山なんかに行って積極的に走り出すと絶妙なタイミングで必ず語りかけてくる。例えばコーナーへの進入速度が少し速すぎると「このままいくとリアが流れますが、そちらでどうにかしますか。あるいはこちらでどうにかしましょうか」といった具合である。ドライバーが慣れていればちゃんと立て直せるコントロール性は備えているし、ちょっと迷って判断が遅れたりするとスッと電制デバイスをフェードインさせて挙動を安定させる。あまりにもいい加減な運転をしているとヒヤッとして怒られたりもする。こういう対話もまた、ポルシェの魅力のひとつだと考えている。

前後に2基の電気モーターを搭載し、0→100加速を2.8秒で駆け抜ける驚異的な加速と最長426kmの航続距離を実現。軽量でリサイクルが容易なアルミニウムをボディに採用する。また、日本仕様のタイカンにはレーンチェンジアシスト、アダプティブクルーズコントロール、サラウンドビュー付パークアシストなどを標準装備。
2020年に1番乗りたかったクルマにようやく乗れた。ポルシェ・タイカンである。どうしてそんなに乗りたかったのか。その乗り味が皆目見当付かなかったからである。こんな商売を30年以上も続けていると、初見のクルマでもたいていの場合はなんとなくどんな感じなのかは想像が付くし、それを大きく外すこともない。しかしポルシェの魅力的なエンジンの代わりに前後にモーターを置く4WDのタイカンばかりは全集中してみても予測不能だった。

インテリアには有機素材であるオリーブの葉を用いたクラブレザーやリサイクル繊維を用いて地球環境への負荷を軽減。ほぼ全ての機械式スイッチがデジタル式に変更され、室内は整然とレイアウトされている。助手席正面の10.9インチパッセンジャーディスプレイ、固定式パノラミックガラスルーフはオプション。
試乗車はタイカンのトップグレードに相当する“ターボS”で、この下に“ターボ“4S”と続く。もちろんEVなので実際にターボなど付いていないのだけれど、ポルシェの生業に精通している人であれば、この3つのグレードの位置付けや距離感は容易に想像が付くだろう。ターボがないのに“ターボ”を名乗ることが世間的に許されるのはポルシェくらいだ。トヨタあたりがやったら間違いなく炎上する。
パワースペックは4Sから順に530ps/640Nm(パフォーマンスバッテリー仕様)、680ps/850Nm、761ps/1050Nmで、数値はいずれもローンチコントロールを使用した際の最大値である。ターボSの場合、通常使用では625psの最高出力と公表されている。これらの数値は前後モーターの合算値だが、リアモーターのスペックは3モデルとも共通で、フロントモーターの出力/トルクを変えることで差別化を図っている。なお、リアは2段のギアボックスを備えていて、100km/h付近を境に自動的にギアチェンジする仕組みである。
ボディサイズは全長4963mm、全幅1966mm、全高1378mm、ホイールベース2900mm。これをパナメーラ(Eハイブリッド)と比べてみると、タイカンのほうが86mm短く29mm幅広く45mm低く、ホイールベースは50mm短い。つまり両車はスペック上ほぼ同等のサイズながら、実際に目の当たりにするとタイカンは低さと幅広さが際だって映る。車検証によれば試乗車の車両重量は2380kgで、前軸重は1170kg、後軸重は1210kg、前後重量配分は49:41となる。
EVスポーツカーのあるべき姿とは?
キーを持っていれば、タイカンのそばに近づくだけで格納式のドアハンドルが自動的に現れ、運転席に座るとスタートボタンを押さなくてもReadyの状態になる。キーレスになっても始動時には“捻る”儀式にこだわってきたポルシェも、タイカンではついにそれと決別したようだ。シフトレバーはもはやセンターコンソールから姿を消し、ステアリングの左側、ドライバーからはステアリングポストに蹴られて見えない位置に鎮座していて、P/N/Dを切り替える。シフトレバーは911と同じものを使用する。
アクセルペダルを少しだけ踏み込んでスルスルと、でも力強く加速する様はいわゆるEVのそれだが、驚いたのは各部の剛性感の高さだった。とにかくガッチガチなのである。フロア下に敷き詰められた800V/93.4kWhのリチウムイオンバッテリーは、ボディの構造部材の一部として桁外れに硬い。これに締結される前後アクスルやステアリング系も相当しっかり作らないと負けてしまうわけで、結果としてべらぼうに剛性感の高いボディが出来上がったと推測できるし、ハイパワーのEVスポーツカーには必要不可欠だとも思った。なにぶんにも1000Nmを超える最大トルクを受け止めなくてはならないし、ドライバーの入力に対して約2.4トンのボディをいっさいの遅れなく動かさなくてはならないのだから、それを支える“体幹”はとても重要なのである。
サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクで空気ばねと電制ダンパーを組み合わせたエアサス。これにお馴染みのPASMに加えて後輪操舵や電子制御式アクティブスタイビライザーがハンドリングをサポートする。911のGT3よりも低いとされる重心の影響もあって、ターンインではほとんどロールを許さず、曲がるというよりは横に移動するかのようである。前後の重量配分もよいし、前後輪の駆動力配分や可変式の減衰力やバネレート、アクティブスタビライザーと後輪操舵の介入などは、状況に応じて常に最適であり、とにかく瞬速で向きを変える。この“瞬速”は圧倒的な加速力の動力性能の質感ともマッチしているので、総じていわゆる違和感はない。
ところが、である。運転している最中も、返却してから3日が経過したいまでも、どうにもモヤモヤが晴れない。それはおそらく、タイカンの発する言葉が聞こえなかったからだ。これまでのポルシェのような対話がなく、タイカンはドライバーの考えを見透かしたように先手先手でクルマを動かしていくように感じた。でもその動かし方自体は完璧であり、ケチの付けようがないのである。
私たちはEVのリアルスポーツカーもポルシェのEVスポーツカーもまったく経験値がない。それでも勝手に想像し期待をする。タイカンはえげつないほど速くとてつもなくよく曲がるけれど、想像や期待とは別次元の処にいた。しかし現時点では比較対象がないので、「これがEVスポーツカーの理想型である」と、自分なんかは断言できる自信が持てないのである。もっとじっくり乗ればもう少し彼の言葉を理解できるようになるかもしれないし、ライバルが出現したらその時にようやく「タイカンやっぱりスゲえ」と腹に落ちるかもしれない。
【Specification】ポルシェ タイカン タイカンターボS
■車両本体価格(税込)=24,541,000円
■全長×全幅×全高=4963×1966×1378mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド=前1690、後1655mm
■車両重量=2295kg
■乗車定員=4/5人
■バッテリー種類=リチウムイオン
■バッテリー容量=93.4kwh
■定格電圧=800V
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター
■モーター最高出力=625ps(460kw)※オーバーブースト時:761ps(560kw)
■モーター最大トルク=1050Nm(107kg-m)
■トランスミッション形式=F:1速/ R:2速
■サスペンション形式=前Wウイッシュボーン/エア、後マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前225/265/35ZR21(9.5J)、後305/30ZR21(11.5J)
お問い合わせ
ポルシェ・ジャパン 0120-846-911