待望のアウディe-tronが上陸したことで、今年はようやくドイツ御三家のエレクトリックモビリティも三つ巴対決と相成った。とはいえ、それぞれのEVに対する考え方や作り方は三者三様。改めて各ブランドのアプローチについて検証してみる。
身近になり始めた電気自動車
これはきっと偶然だと思うのだけれど、2020年末発売の今号で執筆依頼を受けた4台のクルマはこの3台とポルシェ・タイカンで、すべてEVだった。現実的にはいまだ遠い存在のEVも、社会的には私たちのすぐ側にもの凄いスピードで近づいてきているんだなと痛感した年だった。
BMWのi3が日本に上陸した2014年当時はまだ他に比較対象となるEVがほとんどなくて、i3の独特な乗り味にたいそう驚き、「EVってのはみんなこんなふうになるのか??」とちょっとワクワクしたものである。その後EVはチラホラと増え始め、アウディがついにe-tronスポーツバックの販売を日本で開始。これでBMW/メルセデス・ベンツ/アウディのドイツ3強のEVがようやく我が国でも出揃った。
今回あらためて3台を乗り比べてみたら、それぞれ単独で試乗した時よりも各社の味のようなものがしっかり表現されていると思った。モーターに電気を流して走るEVなんて、印象に大きな違いはないだろうというのは大きな間違いである。
アウディ eトロン スポーツバック

【Specification】■全長×全幅×全高=4900×1935×1615mm■ホイールベース=2930mm■車両重量=2560kg■モーター最高出力=408ps(300kW)■モーター最大トルク=664Nm(67.7kg-m)■トランスミッション=1速固定式■バッテリー種類=リチウムイオン電池■サスペンション(F:R)=ウイッシュボーン:ウイッシュボーン■ブレーキ(F:R)=ディスク:ディスク■タイヤサイズ(F:R)=265/45R21:265/45R21■車両本体価格(税込)=13,460,000円
アウディのe-tronは本国でまずはいわゆるSUVタイプが登場し、遅れてクーペルックのスポーツバックが追加されたが、日本へやってきたのは後者のほうである。遅ればせながら自分にはようやく試乗する機会が巡ってきた。すでに試した同業者らの感想は概ね上々で、そう聞かされるとあまのじゃくな自分は「本当かよ」と疑ってしまうのだけれど、走り出して間もなく「ああこういうことか」と腑に落ちた。

満を持して上陸したアウディのEV
パワートレインは前輪、後輪をそれぞれ駆動する2基の電気モーターを搭載し、新時代のクワトロともいえる電動4WDを採用する。アウディ初の装備としてバーチャルエクステリアミラーを標準装備。最大航続距離は405kmとなる。
e-tronにはいくつかのユニークな技術が採用されているが、個人的には“電気油圧式統合ブレーキコントロールシステム”に注目した。e-tronは通常の制動の90%以上で回生するという驚異的なエネルギー回生効率を誇る。これは要するに、ブレーキペルを踏んでもほとんどの状況では4輪のブレーキパッドは動かず、回生ブレーキのみで減速しているということである。“電気油圧式”とは早い話がドライブ・バイ・ワイヤで、ブレーキペダルの踏み込み速度や量を信号でアクチュエーターに伝え、状況に応じて油圧で機械式ブレーキのピストンを動かしている。急ブレーキや0.3G以上の制動Gがかかった場合などに、回生ブレーキに上乗せして機械式ブレーキも併用する仕組みである。
このブレーキフィールがすこぶるいい。ドライブ・バイ・ワイヤだということはもちろん、回生ブレーキに機械式ブレーキが加わる様もまったくわからない。出来のいい油圧ブレーキを踏んでいるような感触が右足の裏に伝わってくるし、制動力の立ち上がり方や微妙なコントロール性も抜群だった。
でもおそらくe -tronに乗って「これはいい!」と感じるのは、ステアリングとペダルの操舵荷重に対するクルマの動きがピタリと合っているからだろう。そもそもアウディのステアリングやペダルの操舵荷重は軽めだった(最近はずいぶん改善されてきた)のだけれど、この“軽さ”がモーターによる瞬速の加速感(=ピッチ方向)や回頭性の良さ(=ヨー方向)と違和感なくマッチしているのである。総じて運転中はとても軽快であり、てっきりメルセデスEQCよりも重量が軽いのかと思ったらe-tronのほうが重くて驚いたほどだ。以前からアルミを多用して軽量化や軽快感を重要視してきたアウディらしい乗り味になっていた。
個性の出し方はまさに三者三様
メルセデス・ベンツEQCは確かに重量感があるのだけれど、それは多分意図的にそうしているのだろうと踏んでいる。特に、スロットルはないけどスロットルペダルを踏み込むと、ほんの一瞬の間があってからジワジワと強力なトルクが湧いてくるような所作は、ひと昔前のメルセデス(W124とかW126)にそっくりだ。これを持ってして、メルセデスらしい走りというものを表現しているのだろう。
メルセデス・ベンツ EQC400

【Specification】■全長×全幅×全高=4770×1925×1625mm■ホイールベース=2875mm■車両重量=2500kg■最高出力=408ps(300kW)■最大トルク=765Nm(78.0kg-m)■トランスミッション=1速固定式■バッテリー種類=リチウムイオン電池■サスペンション(F:R)=ウイッシュボーン:ウイッシュボーン■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=235/50R20:255/45R20■車両本体価格(税込)=10,800,000円
もちろん、e-tronと同じ最高出力に約100Nm増しの最大トルクで60kg軽いのだから、実際に重ったるくて鈍重なわけではない。クルマがいったん動きだせば、EV特有の浮遊感を伴う強烈な加速力を発揮する。e-tronは通常、主にリアに駆動力を寄せているが、EQCはフロント優先のFFのような駆動力配分である。しかし、後輪にも思った以上に頻繁に駆動力が与えられるので、前輪駆動のSUVに乗っている印象は薄い。

販売方法も新時代的
先進性だけでなく、メルセデス・ベンツの特徴である安全性、操縦安定性、快適性など高いレベルで実現。パドルシフトで簡単に回生ブレーキの利き具合を設定できる。最大航続距離は400km。販売はオンラインストアのみとなる。
パドルを使って回生ブレーキの強弱を調整できる手法は他のEVと同じだが、ワンペダルで運転できるくらいに回生ブレーキの効きを強くしても、完全停止には至らない。「クルマを完全に止めるのはドライバーの責任」というメルセデスのポリシーがそこにはある。ちなみに通常モードによる回生ブレーキのフィーリングは、メルセデスの機械式ブレーキによく似ている。ブレーキペダルを踏み込むと制動力がモワッと立ち上がり、ペダルを戻しながらちょうどいい塩梅にコントロールできるようになっている。
バッテリーを大量に積んで2トンを超える重量は避けられないEVの欠点を逆手にとって、重量感を重厚感に変えてメルセデスの味としたセンスはさすがである。
BMWはつい先日、次世代EVとして「iX」を発表。EV専用のアーキテクチュアをセダンとSUVの2タイプ用意すると伝えられた。アウディやメルセデスが既存のプラットフォームを使ってEVを仕立てたのに対して、BMWはi8もi3もそして新しいEVシリーズも専用のプラットフォームにこだわる。
BMW i3 レンジエクステンダー

【Specification】■全長×全幅×全高=4020×1775×1550mm■ホイールベース=2570mm■車両重量=1440㎏■エンジン種類/排気量=直2DOHC8V/647㏄■エンジン最高出力=38ps(28kW)/5000rpm■最大トルク=56Nm(5.7kg-m)/4500rpm■モーター最高出力=170ps(125kW)/5200rpm■モーター最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/100-4800rpm■バッテリー種類=リチウムイオン電池■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=155/70R19:175/60R19■車両本体価格(税込)=6,080,000円
本来、EVとはそうあるべきだと個人的には思っている。エンジンとトランスミッションという大きく重く振動して熱も発する塊を積まなくていいのだから、パッケージの自由度が広がると考えるからだ。そのお手本ともいうべきモデルがi3だろう。

輸入車コンパクトEVのパイオニア
専用のカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)製のパッセンジャーセルを採用したBMW初の量産ピュアEVモデル。試乗車は発電用のエンジンを搭載したレンジエクステンダーモデルで、航続距離は最大で466km。
極端に短いボンネットと前後のオーバーハングにより、外は小さく中は広いボディを構築した。RRの駆動形式により、「前輪は操舵、後輪を駆動」というBMWの基本哲学もきちんと反映されている。そして何よりよく曲がるその身のこなしは、BMW以外の何物でもない。
EVもいよいよ、個性で勝負する時代に本格的に突入したのだ。
【PERSONAL CHOICE】BMW i3 RANGE EXTENDER
この1台ですべてがこなせる
現状の日本の充電インフラを考慮すると、EV1台ですべてをこなそうとするのは勇気がいる。そこで内燃機を長距離用、EVを街乗り用と2台持つ決断をすればスッキリするし、そうなるとi3の一択にしかならない。
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