「チョイス・オブ・パワー」を掲げるPSAのEV戦略に沿って、ICE版とほぼ変わらない外観でDS 3クロスバックにEV版が登場。小さな高級車ながらも、意外に上から目線でないボトムアップ的な電動化アプローチが、e208/e2008に続くフランス車EVの特徴のようだ。
フランス車らしいオシャレピュアEV
パリ発のこまっしゃくれた1台ということで、DS3クロスバックは日本ではけっこう浅く評価されて、損している一台といえる。ハイファッションゆえにキワモノ・デザイン扱いで、「おフランスざんす!」的なステレオタイプで茶化されやすいのだろう。でも落ち着いて日本の路上を見渡してみよう。国産のミニバンやハイトワゴンの方がよほど奇抜な強烈デザインで、盛り盛りキラキラの見て見て仕様であることは明々白々だ。そして昨年末、DS3クロスバックにはE-テンスというピュアBEVが加わり、EVアレルギーな人々の耳目をも引くことに。平たくいえば補助金込みで乗り出し500万円弱の電気自動車という、独自ポジションだ。
光モノに電気。とはいえフランス産のDS3クロスバックのスイートさは、ディズニーのエレクトリカル・パレードのような外向的な甘い感じとは正反対だ。むしろ甘過ぎない。E-テンスの「グランシック」が今のところ独占的に用いる白のリヴォリ内装は、「固モノ」の得意なドイツ車とは真逆の、「柔モノ」上手なフランス車らしさで、外装と同じくビカビカどころか、間接光でぼんやりと光る意匠といえる。
内装トリムや車名エンブレム以外、ICE版と見た目が大きく異なる点はない。むしろEVらしさは、リア寄りのフロア下に積む50kWhのリチウムイオンバッテリーを避けて、トレーリングアームではなく左右リジッド車軸を斜めに吊るした「パナールロッド」のリアサスといえる。1950年代にハイドロニューマチックでアヴァンギャルドの名を欲しいままにしたDSの最新モデルが、いくらパナールもDSの歴史の一部とはいえ、21世紀にパナールロッドって……。2年前の国際試乗会で生産ゼロ型に乗った時は、前後左右に元気に跳びはねる後車軸の乗り心地、そのプリミティブさに驚き、暗澹たる思いもした。
ところが日本で乗った市販版のE-テンスときたら、乗り心地やロール感といった足回りのフィールに、ほとんど差がないことに面食らった。ピュアテック130のICE版も相当に静粛性は高いが、加減速でも巡航でもEVは当然より静か。高速道路では他車の音が気になるほどで、不快なピッチングも見事に抑え込まれている。バッテリーという重量物をBセグの車格で受け止めるにあたり、リジッドのサスは名より実を採った選択肢だったのだ。
ひとつ気になるのは、下り坂などで強めに制動をかけると、ディスクの摩擦とモーター回生の抵抗が閾(しきい)付近で噛み合わないのかジャダーが出る。協調制御の修正と完璧を期したいところだ。
航続距離はWLTPで約320km。Bモードで回生の仕方・走らせ方によっては近づけるだろうが、急速充電も試してみた。左リアのトラップ下に、最大50kWhh対応のCHAdeMO式充電口がある。日産ディーラーの急速充電ステーションで、開始早々に25kWh弱が立ち上がる程度に安定した条件下で30分ワンショットの後、バッテリー残量は43%から68%に。つまり25%(=実走行可能距離にして約80km弱分)を継ぎ足せた訳で、真冬にしては上々といえる。
EVには違いないが、これ見よがしの加速感はない。それでもDS3クロスバック E-テンスの新しさは、「クルマらしさ」といったら妙だが、EV専門メーカーや専用ラインナップには希薄なそれが、はっきり感じられる点にある。小さな高級車というコンセプトを昔からこなしてきたがゆえの余裕が、未来的な走り感と結びついているような。白内装にほだされたマダムの指名買いを、遠まきに傍観するだけでは勿体ない、そう思わせるほどの仕上がりだ。