国内試乗

【国内試乗】「BMW アルピナB5」脅威の走行性能を発揮する究極のスーパーセダン

BMWの最新モデル、5シリーズをベースにしたBMWアルピナB5。素性のよさを活かし、そこにアルピナのノウハウを詰め込んだ実力は、もはやスーパースポーツカーのレベルともいえる。早速、導入間もないサルーンを駆り、その進化ぶりを報告しよう。

621ps/800Nmをいつでもサラッと解き放つ

クルマから降りたときの僕は、きっとアホに見えたことだろう。クチを半開きにして固まってたのだから。でも仕方ない。感じたとおりに称賛したいのに、上手く気持ちがまとまらなかったのだ。言葉を失うとはこういうことをいうのだろう。大きな“快”を形作るその情報量が、とにかく多過ぎた。新しいB5は、そんな感動を与えてくれるようなクルマだった。

B5が搭載する4.4L V8ツインターボエンジンは、従来型から13psの上乗せとなる621psを発揮。0→100km/h加速タイムは従来型から0.1秒短縮され、リムジンが3.4秒、ツーリングでは3.6秒をマークする。

遠目には、控えめな佇まいをした大人のセダン。目の前でエンジンが始動しても、極めてジェントルな印象。まさかこのクルマが621psのパワーと800Nmのトルクをいつでもサラッと解き放つことができる実力の持ち主であり、それを解き放ったところで何ひとつ無理を生じさせたりはしないくらい、全身のありとあらゆるところを鍛え抜いた強靱なアスリートであるとは、誰も思わないだろう。

サイドシートに誰かを乗せてゆるゆる走り出しても、きっと彼女や彼は気づかないはずだ。何しろエンジンは1000rpmで400Nmのトルクを発揮するから、一般道では回転計の針をその少し上に置いておくだけでスルスルと速度を上げ、静々と交通の流れに紛れ込んでいく。極めて滑らかに、けれど力強く。さらに走行モードをコンフォートプラスに切り替えておけば、乗り心地は角の全く感じられない余裕たっぷりの柔らかさ、夢のように快適なのだ。ここだけでたっぷり満足が往くほどに。

新型B5は、エクステリアデザインのベースを従来の「ラグジュアリー」から「Mスポーツ」に変更。これは5シリーズベースのアルピナ車としては初となる。

ところが、ひとたびスポーツモードをチョイスしてアクセルペダルを踏み込んで行くと、B5は全身の筋肉に力を漲らせるかのようにして、鉄人ぶりを発揮しはじめる。モリモリと逞しく湧き上がってくるトルクは3000rpm辺りを境に主役の座を直線的に伸びてきていたパワーに譲り、そのパワーは6000rpm前後のピークを目指して驚くほどの勢いで駆け上がっていく。速度もメキメキと、それもいったいどこまで伸びていくんだ? という疑問が脳裏をよぎるほどに伸び上がっていく。

Mスポーツをベースとしながらも専用デザインのエクステリアパーツやアルミホイールが採用され、独自のアピアランスを表現。

コーナーだって速い。ステアリングを操作していくと2トンに近い車重を全く感じさせずにスイッと身を翻し、AWDならではの強力な駆動力でカーヴを置き去りにしつつ、強く蹴り出してダッシュを決めるときも僅かにグリップを手放しながらドライバーを喜ばせるときも、まるで後輪駆動のような振る舞いを見せながら次のコーナーへと向かっていこうとする。

先進運転支援機能で構成する「ドライビング・アシスト・プロフェッシナル」のほか、レザーフィニッシュ・ダッシュボードを標準装備。おなじみモデル名入れのシリアルプレートはiDriveダイヤル手前に配されている

誤解して欲しくないのは、これらは決して“豹変”したのではなく、あくまでも同一線上にあって繰り広げられるものだということ。極めて快適なB5とスポーツカーいらずのようなB5は1本の線でつながっていて、シームレスに行き来をしながら表情を変えていくような印象なのだ。例えばモードをスポーツプラスにしたからって跳ね返るような荒さはなく、締まりはするけど快適なまま。コンフォートモードで危険回避をしても腰砕けになるようなことはない。

もちろんベースのBMW5シリーズが、すでにその時点で優れたスポーツセダンだという大前提はある。けれど大きな自動車メーカーのプロダクションカーには、手を入れることの許される限界というものがある。対して規模の小さなアルピナは、工芸品を磨き抜くように細かく深くクルマを調律していくことができる。その分だけ価格は跳ね上がるが、それはもうすんなりと納得できてしまうのだ。

リポート:嶋田智之/フォト:宮越孝政 ルボラン2021年4月号より転載
嶋田智之

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