国内試乗

【比較試乗】「BMW アルピナD3S×アウディA4 35 TDI」ドイツのディーゼルはなにがどうスゴいのか!?

フェイスリフト版の新型アウディA4にディーゼルエンジンを搭載したTDIモデルが追加された。A4系のディーゼルが日本へ導入されるのは初となる。一方のBMWアルピナD3Sはディーゼルに48Vスターター・ジェネレーターを初搭載。今回は、国内に導入されたばかりのドイツの最新ディーゼル2台を集めてそれぞれの走りのキャラクターを分析してみる。

ディーゼルの電動化でもアルピナが先行してきた

欧州で実施されるCO2規制に備え、ドイツ車は急速な電動化を推進中だ。多くのモデルにマイルドハイブリッドが用意され、ディーゼルエンジン搭載モデルが含まれていることも見逃せない。
国内で販売される日本車は、ディーゼルエンジン搭載モデルの電動化をしていない。というか、そもそもディーゼルエンジン搭載モデルが少ない。欧州では長らく主力だったが、一連の不祥事で販売台数は激減。現状は、下げ止まっているようだ。その証拠に、マイルドハイブリッドを組み合わせたモデルの新規投入をやめていない。
BMWは、2020年に実施された5シリーズのLCI(BMWによるマイナーチェンジの呼称)で本国においてガソリンを含め直列4気筒エンジンと直列6気筒エンジンを積む全モデル(PHEVVを除く)に48Vマイルドハイブリッド・テクノロジーを組み合わせてきた。3シリーズも、本国では直列4気筒ディーゼルを積む320dと直列6気筒ディーゼルを積むM340dが採用済みだ。日本では、Xモデル系から順次導入を開始している。

パワートレインは355ps/730Nmを発生する3L直列6気筒ディーゼルツインターボ+8速ATを搭載。0→100km/h加速はセダンで4.6秒、ツーリングが4.8秒をマークする。

また、日本ではアルピナがディーゼル市場開拓の先駆けとなった。2009年にE90型D3ビターボを導入して以来、超高性能ディーゼル搭載モデルのラインナップを拡大。その最新モデルが、D3SSだ。なおかつ、電動化へのステップもセダン系ではBMWに先駆けて踏み出した。
48Vマイルド・ハイブリッド・テクノロジーは、ジェネレーター(発電器)がスターターおよびモーターとしての役割も兼ねるスターター・ジェネレーターを搭載する。そのため、アイドリングストップからのエンジン再始動はセルモーターではなくスターターがベルトによりエンジンのクランクプーリーを駆動するのでギアが噛み合う音や振動がなくスムーズ。いきなり、アルピナならではの洗練度に磨きがかけられた。
発進時や加速時は、モーターとしてエンジンをアシストする。だが、最高出力は11㎰なのでモーターとしての役割は黒子に徹する。それでも、ターボの過給圧が上昇するまでの一瞬のタイムラグをモーターが埋めるだけに、アクセル操作に対するトルクの立ち上がりが一段とスムーズになる。ここでもまた、洗練度に磨きがかかる。

アルピナ専用チューニングによるスポーツサスペンションには、アイバッハ製のスプリングを採用。インテリアでは、ドアシルプレートやシートのバックレスト、フロアマットなどにアルピナ独自のディティールが見られる。ラヴィリナ・レザーを張るスポーツステアリングホイールにはヒーターが備わる。

そして、エンジン本体の出番となる。3Lの直列6気筒ディーゼルは、小型ターボと大型ターボが最適な場面で役割分担および協調するビターボ・チャージング・システムを備える。ベースとなるのはM340dが積むエンジンだが、アルピナにより手が加えられ最高出力と最大トルクは15㎰と30Nm上乗せされそれぞれ355㎰と730Nmを発揮する。
高速道路の本線合流でアクセルを踏み込むと、クォーンという快音にグォーンという迫力を重ねながら一気に吹け上がる。低いギアなら、パワーの頭打ちを感じさせずに5000rpmに到達。2速でまだ75km/hなので、3速にシフトアップし再び加速の鋭さを楽しませてくれる。それもそのはずで、5000rpmで320㎰と最高出力の90%が確保されるからだ。こうした胸のすく高回転域特性こそ、アルピナが手がけるスポーツディーゼルの真価といえる。
シャシーの洗練度は、すでにB3で実証済みだ。サスペンションは引き締まった設定となるが、余計なフリクションがないだけにステアリングやペダルを操作した通りの反応が伝わり走りの臨場感が増してくる。なおかつ、乗り心地の快適さを高次元でバランスさせることができるのだ。

演出に頼ることがない素の実力を感じるA4

アウディは、A4に初めてクリーンディーゼルを搭載してきた。さらに、今回試乗する35TDIが積む2Lの直列4気筒ターボにはガソリンの直列4気筒ターボに続いて12Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされる。ベルトを介するオルタネーター(ジェネレーター)スターターは、電源が12Vなのでモーターとしての役割は大きくないがアクセル操作に対する応答性の向上に役立っていることは間違いない。
実際に、高速道路ではデュアルクラッチ式のSトロニックにより100km/hのエンジン回転数は7速でわずか1300rpm。右足親指の力加減を変える程度にアクセルを踏むだけで、トルクがすかさず立ち上がり加速に入る。
この際、タコメーターに視線を移すまで気づかなかったが6速にシフトダウンされていた。Sトロニックのスムーズな制御に改めて驚かされたのと同時に、3000rpmほどのエンジン回転数の上昇でも音の変化を伴わない静粛性の高さにも感心させられる。

前輪駆動となる「35TDI」に搭載されるディーゼルユニットは、アルミ製クランクケースや鍛造ピストンなどを採用して軽量化を実現。最高出力163ps、最大トルク380Nmを発揮する。

山岳路でアクセルを踏み込んでみると、中高回転域でもエンジンは騒がしくならない。音質は少しばかり硬めだが耳障りにならず、レブリミットとなる4750rpmの少し手前でシフトアップされる。ただ、音の演出がないだけに迫力や刺激とは無縁だ。最高出力も163㎰と、ドイツ御三家のライバルと比べると控えめだ。
それでも、WLTCモード燃費はコースティング時にエンジンを完全停止する機能の効果も手伝い17.7km/Lとライバルに勝っている。より以上の力強さを望むなら、190㎰を発揮する40TDIクワトロも用意されている。

昨年、商品改良を実施したA4シリーズは、エクステリアデザインを大幅に刷新。ドアパネルに至るまで改良を加え、全モデルにブリスターフェンダーを備えて全幅を5mm拡大するなど、フルモデルチェンジに匹敵する変更が施されている。インテリアでは最新のインフォテインメントである「MIB3」を採用する。

サスペンションは、乗り心地重視の設定となる。高速道路で路面継ぎ目の段差を通過する際、不快な突き上げを意識せずに済むがボディの縦揺れが残ることもある。それも直後に収まり、振動が残るわけではないのでアウディならではの走りの上質感は保たれる。
しかも、山岳路ではボディがムダに動かない。手応えが軽めなステアリングを切り込むと、素直で正確な操縦性が実感できる。ロールの進行とともに確かめられる前後の接地感のバランスも最適化され、進化を繰り返してきたA4の熟成ぶりが明らかになる。
やはりドイツのディーゼルは魅力的だ。荒波を乗り切った、底力を感じずにはいられない。

【specification】 BMWアルピナ D3 S リムジン・オールラッド
■全長×全幅×全高=4720×1825×1445㎜
■ホイールベース=2851㎜
■車両重量=1890㎏
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ツインターボ/2993㏄
■最高出力=355ps(261kW)/4000-4200rpm■ 最大トルク=730Nm(74.4㎏-m)/1750-2750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/35ZR19:265/35ZR19
■車両本体価格(税込)=10,780,000円
■公式サイト https://alpina.co.jp/models/d3-s-2021/highlights/
【specification】 AUDI A4 35 TDI アドバンスド
■全長×全幅×全高=4760×1845×1410㎜
■ホイールベース=2825㎜
■車両重量=1580㎏
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1968㏄
■最高出力=163ps(120kW)/3250-4200rpm
■最大トルク=380Nm(38.7㎏-m)/1500-2750rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ウイッシュボーン:ウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/50R17:225/50R17
■車両本体価格(税込)=5,380,000円
■公式サイト https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/a4/a4.html

フォト:小林俊樹 T.Kobayashi 宮門秀行 H.Miyakado ル・ボラン2021年5月号より転載
萩原秀輝

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