2019年5月に、フェラーリ初の量産PHEVとして鮮烈なデビューを飾った「SF90ストラダーレ」がついに上陸した。4L V8ツインターボ+3モーターでトータル1000psをマークするパワートレインは、これまでとは異なる電動化モデルならではの新たなドライビングワールドを披露してくれたのだ!
フェラーリらしいハンドリングは健在
いよいよ本格的なスタートを切ったスーパースポーツカーのハイブリッド化。特に昨年から今年にかけては、フェラーリから296GTB、マクラーレンはアルトゥーラをリリースするなど、今後の主力車種となるV6ターボエンジンに1モーターを加えたPHEVスポーツが立て続けに発表されているほか、ランボルギーニも自然吸気V12エンジンをベースにしたハイブリッドモデルのシアンや二代目カウンタックを限定で用意するなど話題が尽きない。その中でも2019年5月にデビューしたフェラーリSF90ストラダーレは、先のモデルたちとは異なる意欲作と言っていいだろう(車名はスクーデリア・フェラーリ90周年記念にちなんで名付けられた)。
すでに2013年の時点でフェラーリは、限定車のラ・フェラーリで初のハイブリッド化に踏み切ってはいたが、今回のSF90ストラダーレは本気度が違う。ミッドシップマウントされるV8ツインターボエンジンと8速DCTの間に1基のモーターを搭載し、他の2基はフロントアクスルに設けることで、フェラーリとしてはミッドシップスポーツで初の4WD化にも成功した記念すべき1台である。
こうしたニューモデルのデビュー時は、本来ならフェラーリ本社に招かれ、テストコースのフィオラノサーキットで試乗するというのがこれまでの定例だったが、さすがにコロナ禍ということもあって、今回は日本国内で1日1人限定の公道のみという条件で試乗が許された。それだけにパフォーマンスをフルに体感できないのは残念でならなかったが、逆に言えば馴れ親んだステージで試乗できるとあって冷静に分析できる。
そう思って期待を胸にスタートボタンを押すと――、無音。そしてパドルシフトを引いて走り始めても無音。この時点で「フェラーリもついにこの日が来たか……」と、ハイブリッドの洗礼を受けた。今まで早朝出発に後ろめたい気がしていたオーナーにとっては、ご近所の目や耳を一切気にしなくて済むから有り難く思うだろう。しかもこの状態で最大25kmまで走行可能。即ち、フロント2基のモーターのみで走行するという、フェラーリ初のFWDという側面ももち合わせる。
SF90ストラダーレのドライブモードは従来のマネッティーノのほかに、Eマネッティーノと呼ばれるハイブリッド専用セレクターが用意されている。フロントモーターのみで走行する「eドライブ」、V8エンジンの稼働など制御ロジックに任せて効率性を優先する「ハイブリッド」、さらに効率よりもバッテリーの充電を優先しつつもパワーをフルに活かせる「パフォーマンス」、そして電気モーターを最大化して162kW(220ps)の出力に、V8ツインターボの780psと合わせたシステム最高出力1000psを発揮するクオリフィーまで全4モードを任意で選択できる。今回は走行モードもハイブリッドまでと限定されてしまったが、それでもSF90ストラダーレのポテンシャルの高さをわずかながら垣間見られたのは嬉しい収穫だった。
特にワインディングにおける印象は、たとえハイブリッド式4WDになってもフェラーリらしい旋回性能を受け継いでいるのには舌を巻いた。意図してeドライブでフロントモーターのみで峠を走行してみても、ノーズの入り方はほぼこれまでのフェラーリと同じ。それでいて引っ張られるように登っていくから新鮮かつ面白い。さらに今度はV8エンジンとのバランスを確認しようとハイブリッドモードに移行すると、違和感なく瞬時にエンジンを始動、F8トリブートの3902ccからボアを88mmに拡大した3990cc仕様となるこのエンジンは、吸排気システムも変更していることもあり、俊敏なレスポンスも武器となるため、的確なトラクションで楽しませてくれた(正確には0.4Gを超えるとエンジン始動)。トルクフィールも全域に渡ってフラットだからクセがなく扱いやすい。ハンドリング自体は相変わらずゲインが高くクイック極まりないものの、リアのトラクションを効かせて素早くコーナーをクリアさせるという狙いも他のフェラーリとほぼ同等なセッティングと言える。
ただし、これはあくまでも公道におけるハイブリッドモードの感想に過ぎず、フロントの2モーターは100%出力していないから4WDとしての評価は微妙。他ブランドの4WDスポーツモデルと同様、この手の四駆システムはあくまでもフロントの駆動はサポート程度で、大してトルクを伝えていないのが実情だ。このモードでは主にアンダーステアを制御する方向で活かされていると思われる。
ハイブリッドながら軽量に仕上げられている
だからフルパワーが許されるパフォーマンスモードを使ってサーキットで試してみたかったというのが本音だ。何しろSF90ストラダーレだけに与えられた、eSSC(エレクトリック・サイド・スリップ・コントロール)こそ真髄で、電気モーターを活かしたエレクトリック・トラクションコントロール(eTC)やトルクベクタリング、さらにエネルギー回収しつつも制動力とフィーリングを向上させるブレーキ・バイ・ワイヤ制御を全開領域で試してみて、はじめてSF90ストラダーレの本質がわかるというもの。
それに今回の試乗車は、インディアナポリスで量産車のラップタイムを更新したアセットフィオラノ仕様だ。マルチマチック・ショックアブソーバーにチタンスプリング、エキゾーストラインもチタンにし、ドアパネルやアンダーボディなどカーボン製に置き換えて30kgの軽量化を図ると共に、高ダウンフォースを生むカーボン製リアスポイラーや専用開発されたミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2が奢られた本気仕様である。それだけにこのスペックだけで見ると、相当スパルタンに思われるだろうが、ロードユースでの使用もかなり考慮しているようで、若干ハードなものの決して不快に思わない程度の乗り心地を確保しているのは有り難い。新たなアルミニウム素材をフロアパンに採用するなど、NVHの改善にも務めたことからEV走行時でも妙な振動に悩まされることは、ほとんどなかったのも好印象のひとつだ。
そのほか、細部に渡って綿密に計算し尽くされているのも実にフェラーリらしく、本来なら3基のモーターなどハイブリッドシステムを搭載することで重量の増加は避けられないところだが、少しでも軽量化しようと20%小型化したクラッチ一式を採用し、ギアボックスで7kg、さらにリバースギアを電気モーターで代用できることから合計10kgの削減に成功している点や、同時にドライサンプの採用も相まって搭載位置を15mm下げるなど、相変わらず徹底している。しかも、リアバルクヘッドをフルカーボンにしたほか、7000番台のアルミニウムを一部に使用するなどして従来型比で曲げ剛性は20%、ねじれ剛性で40%も強化するなど正常に進化させる策も貫いているから抜かりない。
それにしても、こうした超高性能ハイブリッドスポーツを実際に体験すると、自ずと意識も変わっていくのだろうと思い知らされる。一般道では可能な限りEVモードで走行したくなるし、1000psのパフォーマンスを試したいなら自然とサーキットに促されるはずだ。最高速度340km/h、0→100km/h加速は2.5秒を誇るとはいえ、使う場所をわきまえろ! と、知性と理性を叩き込まれた気もする。
【Specification】フェラーリSF90ストラダーレ
■全長×全幅×全高=4710×1972×1186mm
■ホイールベース=2650mm
■トレッド(前/後)=1679/1652mm
■車両重量=1570kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■総排気量=3990cc
■最高出力=780ps(574kW)/7500rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/6000rpm
■モーター最高出力=220ps(162kW)
■バッテリー容量=7.9kWh
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前:Vディスク、後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前 255/35ZR20(9.5J)、後315/30ZR20(11. 5J)
■車両本体価格(税込)=53,400,000円
公式ページ https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/sf90-stradale
この記事を書いた人
1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。