
マセラティといえば、いまやイタリアンプレミアムの最右翼といえる存在だが、トロフェオを走らせればやはり、かつてコンペティションの世界で鳴らした出自は隠せない。ここではマイルドハイブリッドのGTとともに走らせて、あらためて現代のマセラティに求められる価値を考えてみる。
刺激か洗練か意外に難しい選択
マセラティにとっては425/430系以来となるミドルクラスの4ドアサルーンが登場したのは2013年のこと。代々のクーペに与えられてきた伝統の名称「ギブリ」を冠しただけのことはあり、そのクルマはスポーツ性を全面に押し出すことでライバルとの差別化を量ろうとするものだった。
登場から10年近くの時が経つその間、クルマを取り巻く環境は大きく変わった。CO2削減の切り札として開発された渾身のV6ディーゼルは外的な状況変化に翻弄されながら、2020年のファイナルエディションをもって販売を終了。その代替的な位置づけとして設定されたのがガソリンマイルドハイブリッドのGTだ。
【写真8枚】V8の刺激か高級車の余裕か、どちらも捨てがたいマセラティ・ギブリの詳細を写真で見る
マセラティとしては初となる4気筒の2L直噴ターボユニットを軸に、48Vのベルトドリブン・スタータージェネレーター、そして同じく48Vの電動スーパーチャージャー「eブースター」を組み合わせ、ハイチューンのターボユニットの谷をあの手この手で補う。そんな算段で330ps/450Nmのアウトプットを達成し、0→100km/h加速は5.7秒と、スポーツセダンとして充分なパフォーマンスをもたらした。
いざ乗ってみると、この複雑なメカニズムが綺麗に連携していることに感心させられる。アイドリングストップから発進時にかけてはスタータージェネレーターが、1000rpmから向こうはeブースターが、それぞれトルクアシストを担うが、注意深く観察してもその繋がりに違和感はない。
4000rpmから向こうは盛り上がるターボパワーで6000rpm向こうのレッドゾーン付近まで向かうが、頭打ち感がやや早く感じられるのが惜しいところだ。が、それを感性的な魅力で補うべくサウンドが入念に調律されていることもあって、出力特性自体はフラットながらもエンジン自体は積極的に回して楽しみたくなる。このあたりは、何が顧客に望まれているかを熟知するメーカーらしい設えといえるだろう。
最後のフェラーリV8に乗らずに死ねるか!
一方で、ギブリには内燃機の頂点ともいえるフェラーリ製V8ツインターボを搭載するグレード「トロフェオ」も継続して用意されている。このF154系ユニットはチューニングを違えるもののポルトフィーノMやローマにも搭載されており、生産は全量モデナと、たとえば血統的な話においても文句のつけようがない。
ライバルが軒並み四駆を選択する中、580ps/730Nmという猛烈なパワーを後輪駆動で受け止めるという刹那的ないざないも含めて、トロフェオはギブリの存在意義を艷やかに高めている。もちろん状況に応じた自制心は求められるが、低回転域でも至極滑らかに躾けられたV8と凹凸をしなやかに受け止めるフットワークからなる望外の上質さが、高回転域のヒリヒリするような刺激と見事な対を成しているのも確かだ。一見は普通のギブリの中にとんでもない洗練と狂気が同居する、その抑揚がいかにもマセラティらしい。
【Specification】マセラティ・ギブリ・トロフェオ
■全長×全幅×全高=4971×1945×1461mm
■ホイールベース=2998mm
■車両重量=1969kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3799cc
■最高出力=580ps(427kW)/6750rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/2250-5250rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ダブルウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク/Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/35ZR21:285/30R21
■車両本体価格(税込)=19,100,000円
【Specification】マセラティ・ギブリGT
■全長×全幅×全高=4971×1945×1461mm
■ホイールベース=2998mm
■車両重量=1950kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ(BSGマイルドハイブリッド)/1995cc
■最高出力=330ps(243kW)/5750rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/4000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ダブルウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク/Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/40R20:285/35R21
■車両本体価格(税込)=10,210,000円