マセラティ

本能に訴えかける”魔性”のクルマ、エキゾチィックな4ドアスーパーカー4代目『マセラティ・クワトロポルテ』の耽美な味わい

鬼才マルチェロ・ガンディーニ流のスーパーカーデザインをミドルサルーンに昇華させた第4世代のクアトロポルテ。内外装の仕立てのみならず、走りまでもがセンシュアルなのは、まさしくこの時代のマセラティだけの背徳的特権と言える。

見た目も走りも官能的な4代目クアトロポルテはいかが?

時は1994年末、名門マセラティから4代目となるクアトロポルテがデビューした際、戸惑い、あるいは落胆にも近い感情を抱いた愛好家は、決して少なくなかったと記憶している。というのもその実態は、シトロエンSMのロングホイールベース&スキンチェンジ版に過ぎず、わずか10数台の試験的製作に終わった2代目は別としても、初代および3代目(発展型のロイヤルを含む)のマセラティ・クアトロポルテは、純レーシングユニット由来の大排気量V8を搭載する巨大なプレステージカーだった。翻って4代目はといえば、旧ビトゥルボ系4ドアベルリーナ『420/430』シリーズの実質的後継車とも言うべき、アッパーミドルクラスの4ドアサルーン。初代以来のカリスマを継承するには、いささか力不足という観測が多勢を占めていたのだ。

しかし4代目クアトロポルテのデリバリーが開始され、世界中で目覚ましいヒットを収めた頃には、そんな厳しい評価など初めから無かったかのような空気へと変容していた。その名のとおり4つ(Quattro)のドア(Porte)を持つボディは、スーパーカーのデザイナーとしてキャリアの頂点を究めていた時期のマルチェロ・ガンディーニ作品。強烈なウェッジシェイプをエレガントに昇華させたプロポーションから、斜めにカットしたリアタイアハウスに至るまで、極めてアグレッシブながら同時に独特の艶と品格を併せ持つ、いかにもガンディーニらしい魅力的なスタイルを体現していた。加えて、ビトゥルボ以来のマセラティのもうひとつの特徴、アーモンド型金時計と、エルム(楡材)ウッドと本革/アルカンターラをふんだんに使った豪華なインテリアは、この4代目クアトロポルテ時代に頂点を極めることになる。退廃的にさえ感じさせる独特の空間は、エキゾティックな雰囲気をいっそう高めていたのだ。

【写真15枚】見た目も走りも官能的な4代目クワトロポルテの詳細をギャラリーで見る

そしてパワーユニットは、基本的に2代目ギブリ用と同じV6・DOHC24バルブV6ツインターボエンジンが搭載されるが、IHI製のターボチャージャー2基と当時最新のチューンが施され、輸出向け2.8リッターでも初代クアトロポルテを凌駕する285ps。2リッターながら却ってチューンの高いイタリア国内向けバージョンでは306psものパワーを獲得していた。また1997年にはシャマル用をベースにモディファイを施し、326psを発揮するV8ツインターボを組み合わせた『クアトロポルテV8』も追加。ともに4ドアサルーンの皮こそ被っているが、スーパーカーとしての資質も充分に備えていた。つまりは、初代および3 代目クアトロポルテの名跡を受け継ぐに相応しいモデルであることが、ファンの間でも認知されたのである。

そして1998年、クアトロポルテは、V6/V8ともに、当時親会社となっていたフェラーリのテクノロジーとともに『エヴォルツィオーネ』へと進化を遂げることになる。エクステリア上の差はフロントフェンダー後端に取り付けられた”Evoluzione”のバッジていどのものだが、その内容はサスペンションの根本的見直しを含めて、大幅なモディファイが加えられていた。またエヴォルツィオーネへの進化を境に、インテリアのテイストはやや方向転換し、ウッドパネルはグロス仕上げからマット仕上げに変更。やや”Too Much”にも映る一種独特の空間から少しトーンダウンして、落ち着きを取り戻した。

本能に訴えかける”魔性”のクルマ

さて、今回ドライブの機会を得たクアトロポルテは、2000年モデルのエヴォルツィオーネV6。当時コーンズ&カンパニー・リミテッド社が販売した正規輸入車なので、2.8リッター/285psスペックとなる。しかも、この年にV6/V8合わせて日本市場限定で50台が製作・販売された『コーンズ セリエ・スペチアーレ(CORNES Serie Speciale)』の1台でもある。この限定車は、この時期、新たにマセラティの経営者となっていたルカ・ディ・モンテゼーモロの意向により”エヴォ化”の際に敢えて取り外されたアーモンド形の金時計が再び取り付けられるのが、最大の特徴と言えるだろう。

馥郁たるレザーの香りが鼻腔をくすぐるコンパートメントに腰を下ろし、まずはインテリアをじっくり観察してみる。エヴォルツィオーネとなる以前の、グロス仕上げのウッドパネルはすべてマット仕上げに置き換えられるが、抑制された大人の色香のようなものが感じられ、これはこれで非常に好ましい。また、復活した金時計とのコントラストも魅力的である。

自らの視覚と触覚、そして嗅覚までも充分に充足させたのち、満を持してイグニッションキーを捻れば、それまで以上に享楽的なフィールが体感できる。アイドリング時には車体全身をブルブルと震わせる、バンク角90°のV6ツインターボユニット。そのエグゾーストノートは、例えばアルファ”ブッソーネV6″や現在のギブリ/レヴァンテ用V6など、60°バンクのエンジンと比べるといささか長閑で野太いのだが、これも間違いなく快音である。この前時代的な咆哮と、ターボがターボらしかった時代ならではの、2次曲線を描くように盛り上がるトルクに身を任せていると、なんとも背徳的な感覚に陥ってしまう。ターボの利かない領域の気だるささえ、どこかセクシーのものと感じさせられてしまうのは、まさしくこのクルマが生来持つ”魔性”の所業と言うほかあるまい。

ビトゥルボ以来の90°V6ツインターボエンジンは、DOHC+気筒当たり4バルブのヘッドが組み合わされ、2.8リッターの輸出向け仕様でも285psを発生。260km/hの最高速など、スーパーカー級の性能をもたらしている。

ただし、このむせかえるほど濃厚な官能性に、真っ当な判断力を鈍らせしまうような事態にはならぬよう、くれぐれもご注意いただきたい。ビトゥルボ系のマセラティは、いずれも回頭性については意外なほどにシャープなのだが、例えばコーナーリング中や荒れた路面上で不用意にスロットルを空けると、たちまち本性を現すかのように、テールが暴れ出したりもする。

だが、そんな危うさと表裏一体だったとしても、マセラティ・クアトロポルテ4の歴史的価値が薄れることなどあり得ない。エコロジーコンシャスでクレバーなクルマが多勢を占める現代。そして未来に至るまで、これほどまでに耽美的、かつセンシュアルなサルーンが新たに誕生する可能性は限りなく低いのだから。

【SPECIFICATIONS】2000年式 マセラティ・クアトロポルテ エヴォルツィオーネV6 コーンズ セリエ・スペチアーレ
●全長×全幅×全高:4550×1810×1380mm
●トレッド(F/R):1520/1500mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1700kg
●エンジン形式:水冷V型6気筒DOHCツインターボ
●総排気量:2789cc
●ボア×ストローク:94.0×67.0mm
●圧縮比:7.4:1
●最高出力:285ps/6000r.p.m.
●最大トルク:42.0kg-m/3500r.p.m.
●変速機:4速A/T
●懸架装置(F/R):マクファーソンストラット/セミトレーリングアーム
●制動装置(F&R):ベンチレーテッドディスク
●タイヤ(F/R):225/45R17/245/40R17
●新車当時価格:920万円

マセラティ公式サイト

PHOTO:内藤敬仁 カー・マガジン481号より転載

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