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【国産旧車再発見】ロータリー、前輪駆動、ベルトーネ・デザインの意欲作。1969年製マツダ・ルーチェ・ロータリークーペ

NSUとヴァンケル研究所から開発特許を獲得してロータリーエンジンの量産化に成功したマツダ。コスモスポーツがその市販化第一弾となり、同じエンジンをファミリアに移植して量販に成功。そしてその次には、採算度外視の前輪駆動高級車を生み出す。

ベルトーネが描いたハードトップデザインと調和する唯一無二の13Aロータリーエンジン

モーターショー発表時にRX87というコードネームが与えられたルーチェ・ロータリークーペ。サイドウインドーとクオーターウインドーが全開になる端正なハードトップスタイル。スーパーデラックスにはレザートップが標準装備された。

NSUがヴァンケル研究所と共同開発したロータリーエンジンを載せるヴァンケルスパイダーは、1964年に発売されている。このエンジンは1959年に発表され、”夢のエンジン”として内外から関心を集めた。だが、この時点でロータリーエンジン固有のトラブルが解決されていたとは言い難く、発売以後トラブルが続出、販売台数は2千数百台に留まった。実験的というと聞こえは良いが、むしろ特許を獲得することが狙いではなかったか。

ダイムラー、シボレー、ロールス・ロイス、トヨタ、日産などが特許を取得してロータリーエンジンの開発に乗り出したが、量産化に成功したのは東洋工業(現・マツダ)だけだった。1967年に市販されたコスモスポーツには、単室容量491ccのローターハウジングをふたつ繋げた2ローターの10A型が採用された。982ccの排気量から初期型で110ps、後期型で128psを発生している。

続いてマツダは大衆車であるファミリアに、この10A型を搭載している。コスモスポーツが後期型になる1968年、ファミリア・ロータリークーペが発売された。コスモスポーツの10A型はローターハウジングとサイドハウジングにアルミを用いていたが、ファミリア用ではサイドハウジングを鋳鉄製に変更し、ローターのオイルシールを3重から2重にするコストダウンが図られた。

ファミリアに次いでカペラ、サバンナ、マイクロバスのパークウェイやホールデン製ボディのロードペーサーなど、マツダは生産するすべての車種にロータリーエンジンを載せる、フルラインナップ構想を実現させていく。実現できた背景には、これらのエンジンが10A型と基本構造が同じだから。ところが、突然変異的に互換性のないエンジンが生まれている。

それが13A型で、1969年に発売されたルーチェ・ロータリークーペに搭載されたエンジンだ。名前だけ聞けば1985年に発売されたFC3S型サバンナRX-7に搭載された13B型と似ている。だが、構造はまるで異なり専用設計されている。というのも、他のロータリー車が後輪駆動であったのに対し、ルーチェには前輪駆動が採用されたからだ。

【写真15枚】唯一の”13A”ロータリーエンジンを備えるルーチェ・ロータリークーペの詳細を写真で見る

ベースになったルーチェは1966年に発売された、マツダ初の1500cc級セダン。当時クラス最大のボディはイタリアのベルトーネがデザインしたもので、1968年には1800エンジンを追加するなど高級路線を歩んでいる。駆動方式はこの当時当然の後輪駆動。ところがロータリーを載せるクーペは前輪駆動とされた。ベースのルーチェとも、他のロータリーエンジンとも互換性がないことは明らか。まさに、唯一無二の存在なのである。

エレガントな振る舞いすら似合うロータリーの二面性

10A以降13Bまで続く一連のエンジンはローターやハウジングは同じサイズで厚みだけ変えて排気量を拡大してきた。つまり基本構造は同じ。ところがルーチェの13Aはローターもハウジングもサイズが特殊で互換性がない。なぜそこまでしたかといえば、FFにするためだ。厚みを増やせば前後長が増えてしまい、前車軸でエンジン位置を合わせるとフロントのオーバーハングが長くなってしまう。これを避けるため、専用ハウジングとローターを新規設計している。

ミッションやサスペンションも専用設計。そこまでしてルーチェをFF化した理由は何だろうか。当時からシトロエンなどのFF車は直進安定性に優れていた。そのシトロエンはロータリーに可能性を見出してNSUと合弁会社を設立している。またヴァンケルスパイダーの後継車であるRo80もFFだ。

端正なスタイルは国産車として初めて三角窓を廃したハードトップボディ。クオーターウインドーが全開になるため、開放感は抜群に高い。全長がセダンより215mm長くされたことで伸びやかなプロポーションでもある。発売当時はデラックスとスーパーデラックスがあり、価格は145万円と175万円。スーパーデラックスにはクーラーやパワーステアリングが標準装備されたが、クラウンのハードトップが123万円だったことと比べても、明らかに高価だった。発売後はオーバーヒートやドライブシャフトのトラブルなどが頻発して、販売は伸び悩む。わずかに1972年までしか生産されず、生産台数は976台に留まった。

現在、車検を取得して走行可能なルーチェ・ロータリークーペは40数台と言われている。撮影車を在庫するロータリー専門店のガレージスターフィールドでも、修理やレストアをした台数はごくわずか。だが過去にそのうちの1台に乗ったことがある。振動が少ないエンジンはウルトラスムーズであり、ゆったりした動きのサスペンションは鷹揚な気分にさせてくれるのだ。

ガレージスターフィールドでは、13Aの排気ポートを拡大してパワフルにする術を確立している。標準でも126psあるが、さらに余裕の走りを演じてくれるだろう。確かにアンダーステアが強いのかもしれないが、開放感あふれるスタイルとロータリーの組み合わせに新たな可能性を感じた。スポーツ性能一辺倒ではなく、高級パーソナルクーペに相応しいマナーをもロータリーエンジンは備えているのだと教えられた。

【specification】マツダ・ルーチェ・ロータリークーペ スーパーデラックス(1969年型)
●全長×全幅×前高=4585×1635×1385mm
●ホイールベース=2580mm
●トレッド(F:R)=1330/1325mm
●車両重量=1255kg
●エンジン形式=水冷2ローター
●総排気量=655cc×2
●圧縮比=9.1:1
●最高出力=126ps/6000rpm
●最大トルク=17.5kgm/3500rpm
●変速機=4速MT
●懸架装置(F:R)=ウィッシュボーン:セミトレーリングアーム
●制動装置(F:R)=ディスク:ドラム
●タイヤ(F&R)=165HR15
●新車当時価格=175万円

Text:増田 満 PHOTO:内藤敬仁 取材協力:ガレージスターフィールド カー・マガジン498号より転載
CAR MAGAZINE編集部

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