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1969年式『ホンダS800Mクーペ』緻密な回転フィールを誇るDOHCエンジンが高回転目指してストレスなく回っていく様は、まさにドラマチック。

中古車相場が著しく高騰している国産旧型車の中で、DOHCエンジン搭載車はその牽引役。排ガス規制前にはトヨタ、日産、ホンダ、三菱にしかDOHCエンジンは存在しなかった。なかでも最小排気量であるホンダS600や800は緻密な回転フィールが突出している存在だ。

望み得る最小のDOHC

ホンダSシリーズに接するたび、なぜシビックCR-Xに積まれたZC型までDOHCエンジンを途絶えさせたのか不思議でならなくなる。高回転目指してストレスなく回っていく様は、まさにドラマチック。これは1963年発売のS500ですでに実現しており、翌年のS600、1966年のS800へと引き継がれた。

路面に這いつくばるかのごとく低いSの車高は、優れたハンドリングも生み出す。ステアリング操作に対して極めて正確に前輪が動き、リアタイヤにかかる駆動力をお尻で感じながら旋回してくれる。DOHC エンジンの緻密さとともに、ハンドリングの妙が感じられるのだ。では、同じハンドリングが得られるなら排気量が大きなS800がベストモデルかというと、必ずしもそうではない。200ccの差は一般道を走るうえで絶対的なものではない。むしろリアアクスルがチェーンによるトレーリングアームなのか、リジッドなのかが大きな違いに感じられる。

【写真10枚】密な回転フィールを持つDOHCエンジン、ホンダS800Mクーペの詳細を写真で見る

Sシリーズは最初期の500から800の前期まで、リアタイヤを駆動する最終減速にチェーンを用いていた。チェーンケースがトレーリングアームを兼ねる構造で、スタート時にリヤが跳ねるような挙動を示す。それに対して1966年4月以降のS800にはリジッドアクスルが与えられ、一般的な挙動に改められた。さらに1968年5月、前輪ディスクブレーキを標準装備するS800Mへ進化している。

今回の特集はアンダー500万円でさがす趣味車。数年前までは500以外のSシリーズ全般が予算内だったが、近年は相場が上がってしまい選べる幅が狭まった。専門店であるガレージイワサの岩佐三世志社長に尋ねたところ、レストア済みのクルマは600、800ともに500万円を上回ってしまうという。もう買えなくなってしまったのかと嘆いていたら、岩佐社長から「ウチで手直しだけしたクーペなら予算内」と教えられた。それが今回紹介するS800Mクーペだ(取材時)。

以前クーペに乗って”Sシリーズならオープン”という図式が自分の中で崩れ去った。クーペボディの安心感や疲労度の少なさは、オジさんを自認する年齢になるととても魅力的に感じられたからだ。さらには前輪ディスクブレーキを装備する最終型のM。もう非の打ち所がない1台と言える。

現車は過去に専門店でレストアされたもので、ガレージイワサによりエンジンのオーバーホールや細部の手直しが行われている。そのため久しぶりのSだったにも関わらず、特別な気遣いなしに楽しむことができた。エンジンスタートはキーをひねるだけ。クラッチやシフトチェンジに癖はなく、ブレーキも軽量ゆえ必要十分な制動力が得られた。

過去にレストアされたとはいえ、もう10年以上も前のお話。ここまでストレスなく乗れるのは、Sシリーズに携わって40年以上になるガレージイワサゆえの技術力。一生楽しめる買い物になるはずだ。

文:増田 満 写真:内藤敬仁 取材協力:ガレージイワサ カー・マガジン497号より転載
CAR MAGAZINE編集部

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