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【Tipo】“珍車”で片づけるにはもったいない!! たった1000台の宝物『アルファ ロメオ・ジュリアGTC』

たった1000台の宝物

1965年のジュネーブショーで、あのGTA1600と共にデビューを飾ったジュリア・スプリントGTC。それが“時代のあだ花”と片付けるにはあまりに惜しい一台だったのだと、その登場から50年以上過ぎた今にして初めて知ったのだから、クルマとは本当に面白い工業製品である。

当時のアルファ・ロメオといえばセダンであるジュリアTIを基軸にクーペ版であるGTスプリントが1963年に登場し、ヨーロッパツーリングカー選手権でロータス・コルチナを打ち倒す役目をジュリアTIスーパーから前述したGTAに移行させようとしていた時期。ここからアルファの黄金伝説は始まるわけだが市販車のラインナップはまだ、ジュリアシリーズでの真の統一がなされていなかった。というのも3種の神器を埋める最後のピースであるオープンモデルは未だできあがっておらず、ジュリエッタ時代の101系ボディに1600ccのアルファ・ツインカムを搭載したスパイダーがジュリアを名乗っていたのだ。そして1966年に1600スパイダー“デュエット”が登場するまでの時間を埋めるべく、クーペのルーフを切り取ったこのGTCが登場したのである。

デュエットから始まった105系スパイダーの美しいシルエットが、あまりに強烈なインパクトを放っていたからだろう。正直ジュリア・クーペに慣れ親しんだ自分には、このGTCがその場しのぎな存在にしか思えなかった。4座オープンの優雅さは知りつつも、あれだけ大きな開口部を持つボディにジュリアにおける美点のひとつであるボディ剛性などはとても求められないと考えていたし、“珍車”以上のイメージが湧かず「生きているうちにひと目でも見られたらラッキー」くらいにしか考えていなかったのだ。

それがどうだ。このGTカブリオレは、まんまジュリアの動きでボクを楽しませてくれた。それも、何度もいうが53年の歳月を乗り越えてである。

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その要となったのは、3重構造のサイドシルを持つ105系ボディのフロア剛性の高さだと思う。もちろんオープン化に合わせ、そのスプリングレートやダンパー減衰力をクーペよりも弱めて同調させているとは思う。よってクーペと一緒に走らせればボディのねじれ領域に入ると同時にそのドライバビリティは失われて行くのかもしれないのだが、普通に走っている限りはやや操舵に対する反応がおっとりとしている以外は、ジュリアの文法通りにそのボディを動かすことができたのだ。

油圧の遊びシロを踏み抜いた時点からリニアになるブレーキペダルをさらに踏み込み、適度なノーズダイブを与えてステアリングを切り込む。するとフランス車にも負けないしなやかで腰のあるサスペンションは、減速Gを上手に横方向へと回しながら、外側2輪に荷重を掛けた後、グッと粘る。

あぁ~、失敗した! なんで俺はこの試乗依頼を聞いてドライビンググローブを持ってこなかったんだろう。手の平側がソフトレザーで、甲側がメッシュの、いわゆる“カッコつけグローブ”が、タンスの肥やしになっていたはずなのに。

35度を超える猛暑日に、オープンとはいえクーラーなどないジュリアの運転席で、貴重なGTCを運転するその手の平は汗でびっしょりだった。細身のヘレボーレ、表面を樹脂でコートしたウッドステアリングを滑らさないよう手の平を押しつけながら回すノンパワステのハンドルはやっかいで、ジュリアの良さをスポイルしそうだった。

それでも横Gが最大になる寸前に合わせ込んでアクセルを開けて行くと、段々とステアリングが軽くなって、リアに重心が移って行くのがわかる。

それと共に、“グボボボボボッ……”と燃料を多めに吹いていたウェーバー40DCOEのトーンが揃いだし、野太い音色でツインカムが吠える。それは“カーン!”じゃなくて、“グーン!”と力強い立体的なサウンドだった。

ターンインでうまくノーズを入れたら、あとはアクセルを踏み込んで行くだけ。それがわかってからは、まるでダンスを踊るようにコーナーを駆け抜けることができた。別に全開でブッ飛ばすんじゃない。でもそこには確実に基本に忠実な運転操作が必要で、それが全て快楽のドライビングになった。

オープンエアと共に流れ込んで来るツインカムの作動音。いま半円球ヘッドの中で濃いめの混合気が爆発しているのかと思うと、かなり萌える。

この個体はシンクロの状態もよいのだろう。エンジン直後につながれた5速ミッションは気持ち良いダイレクト感を手の平に伝え、ヒール&トゥが決まればスッと吸い込まれて行く。

しっかりとしたフロアとは対照的に、ルーフのないボディは軽さを演出していた。あとから車検証を確認すると、その車重は1020kgと、NDロードスターとタメを張る軽さ。そうだった、エンジンルームには“SUPER Leggera”とあったじゃないか!

そう、このGTCを作ったのはカロッツェリア・ツーリングだったのだ。4座オープンとしてクォーターウインドーをもレギュレターハンドルで格納し、タイヤハウスの丸みを削ってアームレストまで作ったきめ細やかな造り。それもさることながら、ボディを補強しつつもオープンボディの軽さを武器とすることができたのは、これを作り上げたのが彼らだったからなのだろう。

ベルトーネとツーリングという、今考えれば恐ろしく豪華なダブルネームによって作られたGTCは、たったの3年で約1000台が作られ、その役目を終えた。そんな奇跡の一台にベストコンディションで乗ることができたことを、ボクは一生の宝物にしたい。これは紛れもない、ジュリアGTカブリオレなのである。

【SPECIFICATION】アルファ ロメオ・ジュリアGTC
■全長:4080mm
■全幅:1580mm
■全高:1315mm
■ホイールベース:2350mm
■トレッド(F/R):1310/1270mm
■乾燥重量:1020kg
■エンジン:直列4気筒DOHC
■排気量:1570cc,
■最高出力:106PS/6000rpm
■最大トルク 14.2kg-m/3000rpm
■サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/トレーリングリンク
■ブレーキ(F&R):ディスク
■タイヤ(F&R):155SR15

写真:内藤敬仁 ティーポ352号より転載

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