マクラーレン

「マクラーレンにとって電動化は向かい風なのか追い風なのか、あるいは無風なのか?」マイケル・ライターズCEOインタビュー

現時点でスーパースポーツにハイブリッドという選択が正しいのはアルトゥーラが証明している

モータースポーツにおける確固たる実績を背景に、スーパースポーツカーブランドとしては異例のスピードでビジネスを拡大し続けるマクラーレン。ここでは昨年7月に同社の新CEOに就任したマイケル・ライターズ氏の初来日を機に、今後のビジネス展開や考えについて話を伺った。

マイケル・ライターズ氏と会うのはこれが2度目だった。前回は彼の元職場であるマラネロで。マクラーレン・オートモーティブCEOとして会うのは今回が初めてである。常にエンジニアリングの観点から、冷静かつ客観的に物事を見つめるその姿勢は健在だった。

「日本は我々にとってとても重要なマーケットで、ここ最近のセールスもきわめて堅調です。今回の初来日には、そんな実状を自分の目でじかに見てみたかったという目的があります。同時に、日本のマーケットにはもっとポテンシャルがあるだろうとも感じています。そのポテンシャルを引き出すために、今後どのような投資や戦略が必要か、そんなことも考えていくつもりです。

実際、今回はディーラーの皆さまとも直接お話をする機会がありました。今夜はお客様にもお会いする予定です。日本のお客様はいわゆるスーパーカーに対してとても熱い想いを抱いていらっしゃるので、その熱量を感じることも楽しみにしています。

日本人はとてもインテリジェントで、エンジニアリングに関する知識も豊富ですね。マクラーレンとほかのスポーツカーの性能や個性の違いを正確に読み取る力を備えていらっしゃると思っています。マクラーレンは(スポーツカーにとって重要な)軽量化を実現し、ドライバーとクルマが対話できる操縦性を体現している点が、評価されていると考えています」

【写真8枚】グローバルな問題である「電動化」、重要なのは「バランス」 

電動化の波はスポーツカーメーカーにも容赦なく押し寄せ、生きづらい環境になっているようにも見えるが、マクラーレンにとって電動化は向かい風なのか追い風なのか、あるいは無風なのか。

「無風です。電動化はグローバルな問題であり、規制や法律に対応するのは場合によって難しい側面もあるものの、見方を変えるとイノベーションを促す良いきっかけになり得ます。そのために、さまざまな可能性を探るスペース(=時間的/人的余裕)を持っておく必要があるでしょう。いまは電動化が台頭していますが、ひょっとするとほかに方法があるかもしれない。そういう考えを巡らす余裕を持っておくべきだという意味です。

電動化で重要なのはバランスです。走行可能距離とバッテリー容量は比例します。スポーツカーならそんなに長い距離を走ることはないかもしれませんが、ではそれを何キロぐらいに設定しバッテリー容量をどれくらいにするのか。この答えはひとつではありません。マクラーレンはいま、ハイブリッドという選択をしていて、これは正しいと考えています。モーター駆動によりパワーアップやレスポンスの向上が図れる。これはプラス面です。いっぽうで、重くなるというマイナス面もありますが、これはエンジニアの努力のおかげもあり、アルトゥーラはその成果を示す一例です。

もしBEVのスーパーカーを作ろうとしても、現時点ではエンジニアリング面でまだ成熟していないと見ています。スーパーカーはエモーショナルでなくてはなりません。お客様はスーパーカーに非日常を期待し、これまでそれをエンジン音やシフトチェンジなどから感じてきました。エンジン音やシフトチェンジが存在しないBEVでは、それに変わる何かが必要です。そうでないと成功しないと考えています」

マクラーレンは、これまで基本的に2シーター/ミッドシップのモデルを作ってきた。今後もそのコンセプトは継続していくつもりなのだろうか。

「お客様がマクラーレンに期待する商品をきちんとお届けすること。これは不変的なものです。同時に、自動車メーカーとしてのコアビジネスは、お客様の期待に応えながらきちんと利益を出すことです。もし今後、マクラーレンが違うセグメントに参入するようなことがあったとしたら、現状のプロダクトとのカニバリズムは絶対に避けなければなりません。

2シーターでミッドシップというのは、スポーツカーとして理想的だと思っています。重いとか軽いはもちろん無視できないですが、重いものをどこへ配置するのかのほうが重要です。重い物はなるべく重心に寄せてかつ低い位置に置く。これは慣性モーメントを低減するためであり、ミッドシップのパッケージは最適なのです。マクラーレンはそのベンチマークになっているでしょう。

軽量化に関してはあまり詳しくは言えませんが、CFRPをはじめ様々な素材やコンポーネントの活用を検討しています。その点、マクラーレンはレーシングカーからの技術的フィードバックもあるので、今後も優位に進められると信じています」

相変わらず余計な言葉が少なく、本意を明確に示してくれるインタビューだった。最後に、まだマクラーレンを運転したことがない日本人のスーパーカーファンへメッセージを頂戴した。

「本物のスーパーカーを経験したい、クルマと濃密な対話をしてみたいと願うお客様には、1度でいいのでマクラーレンを試していただきたいです。我々のレーシングスピリットなどもきっと感じてもらえるでしょう。ぜひディーラーに足を運んでご試乗いただき、そのついでにサインを頂戴できれば幸いです(笑)」

グローバルで2店舗目となるマクラーレンの認定中古車店がオープン!
「マクラーレン クオリファイド 大阪」
名神高速・豊中ICからクルマで2分という好立地にマクラーレン・クオリファイド大阪がオープンした。認定中古車を取り巻くインフラの拡充により、国内のマクラーレン文化がさらに盛り上がること必至だ。

マクラーレンが日本導入されて約12年が経った。国内に生息する台数は約1,700台とみられ、年内には2,000台に増えると試算される。だからこそマクラーレン・オートモーティブは、保証制度やアフターサービスの拡充に尽力し、同時に認定中古車システム(マクラーレン・クオリファイド)の構築と普及を進めている。

2019年には世界初となる認定中古車センター「マクラーレン クオリファイド東京」を誕生させたが、2拠点目もここ日本で芽生えた。もともとアジアの新車ディーラー(マクラーレン大阪)を立ち上げた八光自動車が、今度は認定中古車ショールームとサービスセンターを併設した「マクラーレン クオリファイド大阪」をオープンさせたのだ。

マクラーレン文化を育む縁の下の力持ち。
それは延べ床面積1950.16平米もの広さを持つ4階建ての施設で、20台が展示可能。ショールームは最新のCIで統一されていて、ビッグスクリーンには本社工場での生産過程がリアルタイムで映し出される。サービスセンターも最新鋭で、マクラーレン固有の高い走行性能を末長く維持する設備と技術が整えられている。母体となる八光自動車の技術が認められ、板金塗装まで自社でまかなうことができるという。

認定中古車システムの構築およびセンターの拡充は、新たなユーザー層へマクラーレンの魅力を訴えることになるばかりか、新車を購入する層にとっても残価の安定という意味でメリットは多々ある。マクラーレンは他のハイブランドに比べ、サーキットを含めてガンガン走るユーザーが多いという。その濃密なカーライフは、日本が主導権を握るような格好で勧められるこれらインフラ構築によって、より魅力を帯びたものになることは間違いない。

インタビュー=渡辺慎太郎 フォト=マクラーレン・オートモーティブ アジア/リポート=中三川大地

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