国内試乗

駆けぬけるダイナマイト・コンパクト、秘めたるポテンシャルは想像以上!待望の新型「BMW M2クーペ」を試乗

究極の駆けぬける歓びを実現

待望の新型M2が上陸し、日本の路上を走らせる機会を得た。2世代目となる新型M2は、いうまでもなく最もコンパクトなBMWのMモデルでもあり、セグメント唯一の後輪駆動を採用し、究極の「駆けぬける歓び」を実現。ここでは、その実力を検証すべく、ATとMTモデルをワインディングに連れ出し、それぞれの魅力を解き明かしてみたい。

【画像15枚】やっぱりM3や2002ターボの子孫だった!新型M2クーペの詳細を見る

正常に上級移行したことが果たして吉と出るのか?

2016年に登場した初代M2は「これぞE30型Mや02ターボの直系の子孫」と直感させるモデルで往年のファンをざわつかせた。M3およびM4はボディサイズや車両重量、パフォーマンスが上級移行し、ストリートで手の内に収められる感覚が薄れたのだが、そこをM2が絶妙なバランスで埋めてくれたからだ。刺激的だが速すぎず、手に余らないコンパクトなボディは、コーナーの連続でじっくりクルマと対話できる素晴らしい体験ができた。

Mアダプティブサスペンションの標準装備により、スポーツドライビングのみならず、街中での乗り心地向上も実現している。

そのM2がフルモデルチェンジを受けた。事前にスペックを見てみると、ボディサイズはひと回り大きく、全長4575mmは初代よりも114mm長く、M4に比べると219mm短い。車両重量は残念ながら150kgほど重くなっている。それでもエンジンはM3/M4と同様の最新世代で460ps。初代の370ps(M2コンペティションは410ps)から大幅にスープアップされ、重さをものともしないパフォーマンスを発揮するはずだ。

2シリーズクーペをベースとしながらも、大きく左右に張り出した四角型基調のエアインテークや横バーを採用したフレームレスのキドニーグリルなどで存在感を強調。

とはいえ正常に上級移行したことが、果たして吉と出るのか否か、心配になってしまう。それでもMモデルの末っ子であり、MTもしっかり用意していることには胸が躍るのは間違いなく、このM4のショートホイールベースバージョンとも言える新型M2との初対面には期待をもって望んだのだった。

スタイリングは、スタンダードな2シリーズクーペに対して60mmも全幅が拡げられていることで異様な迫力がある。それでいてグリルが大きすぎるなど悪目立ちがなく、冷却性や空力を向上させる戦闘的な出で立ちでありながら面構成はシンプルであるなど、好感が持てる仕上がりだ。ルックスはひとまず合格点。

インテリアには、iドライブコントローラー、タッチ操作が可能な視認性に優れたカーブドディスプレイなど、上級モデルのM3、M4と共通のコンポーネントを多く採用。

インテリアは、最新世代のBMWに共通する横長のカーブドディスプレイが奢られているから、初代のプリミティブな雰囲気とはちょっと違って上級志向だが、ステアリングやシートなどは紛れもなくMモデル。今回はMTとATの2台が用意されていたが、前者はMレーストラックパッケージが選択され、Mカーボンバケットシートを装備していた。標準のMスポーツシートに比べて10kgの軽量化を果たすそれに腰かけてみるとクッションが薄くてカッチリとしている。

先代のM2に搭載の直6エンジンをさらに進化させたM3、M4にも搭載される高効率な3L直6エンジンを搭載。

はやる気持ちを抑えられず、そのまま走り始めてみると、まず感じられたのが、とてつもないボディの剛性感だった。ベースモデルに対してアルミ製サブフレームの採用、フロント周りのブレースの追加、ラゲッジ周りのフロアやCピラー周りの強化などで剛性が引き上げられている。

カーボンルーフはオプションのMレーストラックパッケージで装着可能。

引き締まったサスペンションと前19インチ/後20インチの大径タイヤによって路面の凹凸を直に伝えてくるが、ボディ剛性が高いので乗り心地が粗いという印象にはならない。速度を高めていくとサスペンションがしっかりとストロークし始めて、むしろしなやかに感じるようになっていく。単純に速さを増しただけではなく、クルマ全体のレベルが底上げされたようだ。

やはり直系の子孫であり続けていた

アクセルを踏み込んでみると7000rpmまでシャープに淀みなく回る。M4に比べるとわずかにパワーウエイトレシオは下だが、加速感はほとんどかわらない。つまり相当な速さの持ち主であり、公道で全開にできるのは瞬間的で、ちょっとばかり手に余るというのが正直なところだ。サウンドは迫力があるが、音量が大きすぎず洗練された印象もある。

ドライバーの意のままに操れる6速MT。

MTのフィーリングは昔ながらのBMWのように、エンゲージするとき一瞬の抵抗感がありながらスコッと入っていく類だが、最新世代らしくカチッとしていて気持ちがいい。

ATはZF製のトルクコンバーター式だがDCT並みの切れ味があってMモデルにとっても不足はなく、MTよりも確実に速い。Mスポーツシートはタッチがソフトになり、低速域でのゴツゴツ感を抑えてくれるので日常使いに向いているだろう。ただし、スポーツドライビング中のクルマとの一体感は、ピタリとフィットしてわずかながらもヒップポイントが下がるMカーボンバケットシートのほうに軍配が上がる。

こちらはドライブロジック付きの8速MステップトロニックAT。

M4に近い加速力がありながら、ショートホイールベースとなったハンドリングは見事にバランスがとられていた。コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいくと、フロント周りのたっぷりとした剛性感とともに正確にインへ切れ込んでいく。俊敏だが曲がりすぎることもない。トレッドが拡がっているので、フロントタイヤの性能をじっくりと引き出していける感覚がある。フロントに対してリアは相対的にしなやかに感じられ、タイヤを路面にビタリと貼り付かせる。有り余るパワーをかけていっても、わずかに腰を落とすような姿勢でグッと粘り、安定してコーナーを駆け抜けていけるのだ。

初代はもっとキュンッと曲がって、アクセルのコントロールで遊べる余白みたいな領域があったのだが、460psにも至る新型はさすがにそれでは危ういので、大人っぽい落ち着いた挙動になるよう仕向けられているのだ。大幅なパワーアップ、M4よりも短いホイールベースに合わせ、じつに的確なセットアップだと言える。ただそれは、初代のちょっとヤンチャで絶妙なバランスとは違うのは確かで、好みが分かれるところだろう。

自分も最初は初代の味が薄れてしまったと感じたのだが、乗り込んでいくうちに、その懐の深さに心酔していった。これだけのパワーをFRで受け止めてくれるシャシーのレベルの高さと正確無比な動きがドライバーに自信を与えてくれるからだ。とくに、路面が荒れていて滑りやすいところなどでもアクセルを踏んでいけることに嬉しくなった。

さらに、基本的にはスタビリティ重視方向に行ってしまい遊び心が薄れたことに対する回答として、Mトラクションコントロールが10段階調整式になっていることがあげられる。DSCをオフにしてトラクションコントロールの効きを弱めていけば、アクセルコントロールの自由度は増していく。クローズドコースなどで思いっきり楽しむときには活用できるだろう。

結論として、新型M2は初代に比べると大幅にパフォーマンスアップされ、公道で気兼ねなく楽しめる範囲は少し減った。それでも純粋なエンジニアリングとしてはレベルが高く、そこには素直に感心させられる。圧倒的なパワーがありながら一体感が高くて乗りやすいのだ。そして何より、あえて4WDを用意しないでFRにこだわり、MTを選択できるようにしておいてくれたことに感謝したい。

特性は少しばかりかわったが、あいかわらずE30型M3や02ターボなどの直系の子孫ではあり続けているのだ。

【Specification】BMW M2クーペ(AT/MT)
■全長×全幅×全高=4580×1885×1410mm
■ホイールベース=2745mm
■トレッド(前/後)=1615/1605mm
■車両重量=1730kg/1710kg
■乗車定員=4名
■エンジン=直6DOHC24V+ツインターボ
■総排気量=3456cc
■最高出力=460㎰(338kw)/6250rpm
■最大トルク=550Nm(56.1kg-m)/2650-5870rpm
■燃料タンク容量=52L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=10.1/9.9km/L
■トランスミッショッン形式=8速AT/6速MT
■サスペンション形式(前)=ストラット+コイル
■サスペンション形式(後)=マルチリンク+コイル
■ブレーキ(前・後)=Vディスク・Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前275/35R19・後285/30R20
■車両本体価格 税込 ¥9,580,000

【問い合わせ】BMWジャパンTel.0120-269-437

リポート=石井昌道 フォト=郡 大二郎 ルボラン2023年8月号より転載
CARSMEET web編集部

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