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古い、古すぎる!ICM製プラモ「フォード・モデルT」で味わう”真鍮時代”のアンティーク・カー【モデルカーズ】

現代の自動車文化の基礎を築いた偉大な存在

自動車を特権階級の贅沢品から庶民の道具へとシフトさせたフォード・モデルT、所謂T型フォード。その圧倒的普及の要因は構造の単純さと扱い易さ、そして何より低価格だった。

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1908年の発売時点でその価格は850ドル、同等の内容を持つ他車は1000ドル以上していた中にあって、T型は年々値下げを続け、最盛期には290ドルまで下がった。これを可能としたのは、T型のもうひとつの特徴、流れ作業による大量生産の実現である。

T型といえば思い出されるのがベルトコンベア式の大量生産だが、もちろんそれを念頭に設計されてはいたものの、完全化されたのは1913年頃のことだった。これは熟練工からの生産技術の解放でもあり、雇用の増大と生活の安定を生み、そしてフォードの工場労働者自身がフォードを購入するという好循環にも繋がった。

T型の構造は梯子型フレームに四気筒エンジン(排気量176.7-cid=2895.5㏄)を搭載、遊星歯車による変速機とプロペラシャフトを介して後輪を駆動、前後サスペンションは横置きリーフスプリングというもの。スロットルはハンドル下のレバーであるなど、運転法は全く独自のものながら、非常に簡便であった。

ボディは5人乗り・幌がけのツーリングを基本に、2人乗り・幌がけのクーペレットや同・ハードトップタイプのクーペなどを展開。オーソドックスな6窓の4ドア・セダンは1923年型からの後期型で登場したもので、それ以前のセダンは、前後の席への乗降をひとつのドアで受け持つセンタードア方式だった。生産の単純化とコストダウンのため、ボディカラーは1914年から黒一色に限定されていた。

しかし、追々これがフォードから商品性を奪うこととなる。ライバルであるシボレーが、見栄えの良さを武器にユーザーを奪い始めたからだ。創業者ヘンリー・フォードは、完全な製品なら買い替えも不要という信念を持っていたらしく、後継車モデルAは、息子エドセルの主導で開発された。A型は1927年末に発売されたが、ヘンリーの念頭にモデルチェンジの概念がなかったことが災いし、5月のT型生産終了後、何とフォードの工場は7ヶ月間、開店休業状態だったという。

自動車の、そしてスケールモデルの原点を実感!
「ティン・リジー」といった愛称で親しまれ、ホットロッドなどのカスタム文化でも大きな役割を示すT型だけに、プラモデル化は少なくないが、ここでお目にかけているのはアメリカのメーカーによるものではなく、ウクライナのICMにるキットを完成させたものである。同社ではまず1/35のミリタリーモデルの一環としてモデルTをキット化、その後1/24でも製品化を進めてきた。ウクライナは今なお大変な状況にあるが、ICMは変わらずに製品リリースを続けている。

ICMの1/24モデルTはまずロードスターから始まり、スピードスター、デリバリートラック、ツーリング、消防車とバリエーションを展開、フィギュア付きなども存在する。ここでご覧いただいている作品は、1911年のツーリングのキットを制作したものである。以下、作者・畔蒜氏による解説をお読みいただこう。

「1911年型はT型でも極めて初期のタイプで、大量生産が始まる直前のもの。主流のツーリングやロードスター、ランナバウト、いずれも運転席両側のドアはまだ無かった。ICMのキットはもちろんT型初の本格的モデル。同社は1/35スケールのミリタリーモデルを中心にリリースするだけあって、蓋を開けた時の第一印象はカーモデルのそれではない。

モールドはシャープで繊細だが、少々味気ない感じがする。おそらくデフォルメなど一切なく真面目にスケールダウンしたのだろう。全体的にパーツ分割が多く感じるが、モールドを生かすにはこれがベストだろう。細かいパーツも多く、作業中何ヶ所か破損してしまった。取扱いには注意が必要である。

ボディ中央部は6個のパーツから組み上げる。接着後は歪みが出ないように、水平な板の上にテープでしばらく固定しておくと良い。アンダーパネルと前後のフェンダーは一体成型で、裏側にシャシーフレームが一体でモールドされているが、これは別体にして欲しかったところ。エンジンは4気筒で、アメリカ車恒例のV8とは違って新鮮だ。足周りも必要充分なパーツ構成である。

幌の表面はスムーズ過ぎて布張りの感じが薄いので、モーターツールで表面を荒らし、幌骨を浮き立たせるように削った。ヘリも薄くするとリアルになる。ゴールドのメッキパーツも綺麗過ぎて、やや違和感がある。ランプやタンクは貼り合わせ式で、そのままでは継ぎ目が目立つ。問題はラジエターグリル側面のパーティングラインが、非常に見苦しいこと。メッキを剥がして下処理をした後、塗装することにした。綺麗にレストアされた実車では真鍮はピカピカだが、ややヤレた真鍮色でも悪くないだろう。

全体的にパーツの精度は高く、仮組みなしでもスムーズに組み立てられる。完成してみると非常に端正な趣に仕上がった。真面目に作られたキットを丁寧に作る。スケールモデルとはこういうことなのか。このT型フォードに、模型作りの原点を再確認した次第だ」

作例制作=畔蒜幸雄/フォト=服部佳洋 modelcars vol.248より再構成のうえ転載

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