BMW

逆風を味方につけて性能向上を果たす。AKRAPOVIC(アクラポヴィッチ)

スロベニアという小国だからこそ最初から世界を見据え、瞬く間に急成長し世界最高峰のエキゾーストメーカーとなったアクラポヴィッチ。同社は生い立ちや時流がいかにネガティブであっても、まるでその逆風を味方につけるかのように躍進を続ける。今度の逆風は「内燃機関が存続の危機を迎えている」ということ。しかし彼らはそれさえも追い風に変えて、新しい世界を切り拓く。

今年の東京オートサロンでアクラポヴィッチのBMW M2は、日本でインポーターを務める橋本コーポレーションのブースに展示された。彼らが親日家なのは、インポーター側との強い結びつきがあるためでもある。今後、全国各地で走行型イベントを実施する予定だという。

創業者イゴール・アクラポヴィッチはもともとオートバイレーサーで、己の欲するエキゾーストシステムを自分でつくったところから、栄光のストーリーは始まった。アクラポヴィッチは、今では世界最高峰のエキゾーストメーカーとなり、大手自動車メーカーや一流のレーシングチームにも率先して採用されるようになった。

 

G80/G82型M3/M4用に続いて登場したG87型M2用のカーボンリアウイング。軽量化を含めた性能向上という意味ではエキゾーストもエアロダイナミクスパーツも同じ方向を向いている。カーボン製造やチタン成型など、エキゾーストで培った技術が活かされた。

そんなアクラポヴィッチは誰もが親日家で、日本のカーカルチャーにリスペクトを持って接している。毎年、東京オートサロンには首脳陣が訪れて、情報収集をすることも忘れない。だからこそ、日本のトレンドやニーズをいち早く反映させたような製品拡充を続けているのが印象的だ。

今年の東京オートサロンでは、これから日本のカーカルチャーを賑わせそうな注目作がデビューした。G87型BMW M2だ。エキゾーストシステム(スリップオンライン+エボリューションリンクパイプ)に加え、リアディフューザーやリアウイングといったボディパーツが揃ったのだ。それはアクラポヴィッチが、エキゾーストメーカーという範疇を超えてきたことを意味する。それが排気ガスであれボディに流れる空気であれ、「流体と向き合う」という意味ではエキゾーストシステムもボディパーツも変わらない。逆風を味方につけて性能向上を果たすという課題に向き合った結果だ。

エキゾーストシステムのエンド部分を置き換えるスリップオンライン。フルチタン製であり、カーボン製のテールパイプの装着が前提となる。さらにオプションパーツとしてカーボン製のリアディフューザーがある。さらに出力を追い求めるのならエボリューションリンクパイプセットやダウンパイプなども存在する。

アクラポヴィッチはエキゾーストシステムに用いるチタン技術のほか、同じく自社設計・生産を貫くカーボン成型技術を持っている。このふたつの技術は、そのままエアロダイナミクスパーツに転用できる。このM2用リアウイングは、美しく軽量性能に秀でるカーボン製であり、そこにはチタン製の補強材が組み込まれている。ウイングはCNC加工されたアルミ製のスワンネックブラケットで固定され、ウイングとブラケットとをつなぐボルトもすべてチタン製だ。カーボンばかりかチタンを筆頭とする金属加工技術もまたボディパーツに役立てられた格好である。これなら高速走行時にへばりつく向かい風にビクともせず、無駄なく強烈なダウンフォースへと変えるだろう。それだけの形状や耐荷重性能を持っている。

理想のエキゾーストシステムを追い求めるために究めた技術が、結果として新たな製品を生み出したのが興味深い。いかに内燃機関の存続が危ぶまれようとも、アクラポヴィッチは少しも悲観などしていない理由がわかる。エキゾーストメーカーという立ち位置であらためて内燃機関の魅力を訴えつつ、持ち前の技術力でどん欲に新境地を見出しているからだ。もし、アクラポヴィッチ製ボディパーツの普及が進めば、たとえ世の中がBEV一辺倒になったとしても、栄光のストーリーは続くだろう。

そんな映えある未来を感じさせる布石にして象徴的存在こそが、東京オートサロンにあったM2かもしれない。ともあれ、究極的なエンジニアリングと製造技術を持って生み出されたその後ろ姿は、どこか絶妙な色気をたたえていて、つい見惚れてしまった。

【インタビュー】AKRAPOVIC Area Sales Manager・David Brecelj「マーケットの声こそが、我々の未来の道しるべ」

AKRAPOVIC Area Sales Manager/David Brecelj

「コロナ禍が過ぎて、ようやくファンの皆さんに直接会う機会をたくさん作れるようになりました。今年はぜひ、日本の皆さんにアクラポビッチを五感で体感する機会をつくりたいと考えています」と、彼は開口一番嬉しそうに話してくれた。「辛い時期もありましたが、我々は歩みを止めることなく前進してきました。次々に生み出す新たな製品に対するマーケットの好意的な反応を見ると、我々のやってきたことは決して間違っていなかったと確信できます。2023年12月には、3Dプリンターを用いた992型911GT3 RS用チタンエキゾーストを50本限定で販売しましたが、瞬く間に完売しました。これはセラミックメタルコンポジットという素材を使った、より軽量で高温耐性の優れたテールパイプを実現しています。我々の原点であるオートバイ用エキゾーストはもちろんのこと、OEMとして求められる要件の高まるスーパーカー用エキゾーストも数多く作り続けています」

今年はDavid Brecelj氏のみだったが、昨年(2023年)の東京オートサロンには社長を含め4人の首脳陣が来日。「日本のトレンドはいつも良いヒントをくれる」と高く評価した。

エキゾースト以外の製品はどうなのだろうか。
「BMW用リアウイングは我々の予想以上に好評でした。これからさらに伸び代があると考えます。ポルシェなど他の車種に向けたリアウイングをつくれるかもしれません。さらにエアロキットにディフューザー、インテリアまでを含めたアクラポヴィッチ・コンプリートパッケージをつくることを視野に入れています。“ぜひ作ってほしい”というファンの声が多く届き、それに応えたいので真剣に考え始めました。まだ詳細はお伝えできませんが、新たなニュースだって近々お届けする予定です。ぜひ期待していてください」
彼らの歩みは加速度的に進んでいきそうだ。

2万5000平方メートルもの広大な敷地にある本社には1750名ほどのスタッフが在籍。いまや国を代表する立派な企業で、2輪4輪問わず世界最高品質のエキゾーストを送り出している。

問い合わせ先=橋本コーポレーション TEL075-761-7351 https://www.h-c.co.jp

 

リポート=中三川大地、上之園真以 フォト=ディーノ・ダッレ・カルボナーレ/アクラポヴィッチ、中島仁菜
CARSMEET web編集部

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