国内試乗

ドライバーを虜にしてしまうほどの巧みな旋回性能を披露!「マクラーレン750Sスパイダー」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

ピュアな内燃エンジン・スーパーカーとして完成の域に達している

マクラーレンの中核を成す720Sが新たに750Sへと進化を果たし、ついに上陸を果たした。通常なら電動化する前のビッグマイナーチェンジ程度だろうと受け止めてしまいそうだが、実のところ車名に記されたパワーアップ値はアピールするためのきっかけ程度で、その中身は単なるブラッシュアップには収まらないことが今回の試乗で判明。これはタダモノではないと痛感してしまった。

走り始めて最初に実感するのは、その軽快感と機敏さ。720Sも十分にその台詞が当てはまったが、750Sの場合は意外にも車両がひと回り小型化されたかのような身のこなしを感じさせる。実際にマクラーレンは、前モデルから30%のコンポーネントを刷新し、カーボンモノコック自体も見直すことで30kgの軽量化を実施、しかも競合モデルよりも193kgも軽く仕上がっていると豪語するだけあり、その姿勢は相変わらずの徹底ぶりだ。

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例えば、フロントウインドウで1.6kg、インストゥルメント・ディスプレイをアルトゥーラと同様のものに変更したことで1.8kg軽減、さらにカーボン製のレーシングシートでは720Sの標準シートよりも17.5kgも削減するなど、軽量化への執念すら見え隠れするから実にレーシングコンストラクターらしいアプローチが見て取れる。ただ、いくら30kg軽量化されたとはいえ、乗った印象がここまで違うのは、これだけではないからなのは明らかだった。

グレーとブラックのカラーでコーディネートされたシックなコクピット。アルカンターラとレザーのコンビネーションとされたシートはホールド性も抜群だ。試乗車には、透過率の可変ができるエレクトロクロミックガラスが装備されていた。

その決め手となっているのが、サスペンション・ジオメトリーの変更と、電動油圧式ステアリングの見直し、さらにローギアード化された絶妙な相乗効果である。まず、足まわりはフロントのトレッドを6mm拡大したことに加え、フロントのバネレートを3%柔らかくした一方、リアは4%硬く設定。ステアリング・ギアレシオはクイック化され、パワーアシストポンプまで見直した結果、車両との一体感は720Sをはるかに上回る印象になった。

ルーフの開閉はセンターコンソール上のスイッチで操作する仕組みで、11秒未満もの早さで完了し、50km/hまでなら走行中でも動作が可能となっている。

特にタイトコーナーが連続するようなワインディングでは、ライトウエイトスポーツにも通ずる身のこなしが味わえ、まさに人馬一体感が得られる。ましてやローギアード化されたことで俊敏性が高まり、ノーズの入りの良さと相まって思った以上の安定した旋回性能を見せるからドライバーを虜にしてしまう。実に巧みな仕上がりだ! スーパースポーツモデルを乗り継いできた裕福なカスタマーなら、その動きに感銘を受けることは間違いないと思う。

もちろん、パワーアップしたV8ツインターボエンジンも磨きがかかったのは確かだ。ブースト圧は引き上げられ、シリンダーの内圧が高まったことからハイフローの燃料ポンプを追加し高い効率性を狙ったことで、最高出力750ps、最大トルクは800Nmを出力するが、それよりもいくらかピックアップレスポンスが向上しているように感じられたのは予想外だった。

最高出力750ps、最大トルク800Nmを発生する4Lツインターボ V8ユニットを搭載。0→100km/h加速2.8秒、最高速332km/hのパフォーマンスはクーペと同等だ。

トランスミッションはファイナルをローギアード化しただけでなく、ファイナルドライブ内のピニオンとクランクホイールにフォーミュラワン譲りの高性能なニッケルクロム合金まで奢られているというから驚くばかり。2.2kg軽量化されたエキゾーストシステムのサウンドも向上し、その高揚感は抜群! ターボエンジンを積む“跳ね馬”にも匹敵するほどの快感が味わえる。

湾曲したデザインの5ツインスポークホイールには、ピレリPゼロが組み合わされる。

そういう意味では、ドライブモードにも変化が見られ、特にトラックモードにおけるコーナリング性能には目を見張るものがある。ハンドリングの切れ味の鋭さもさることながら、旋回中の微妙なコントロールもしやすくなっていたのは驚いた。それでいて乗り心地が悪くないから恐れ入る。ハーシュネスも抑えられていることも重なって快適性まで向上しているのは明白だ。

フロント部分の荷室は150Lの容量が確保されている。

これなら走りにこだわるクーペ派でもスパイダーをお薦めできる。クーペ比で49kgほど重量は増加してしまうものの、それを帳消しにするほど優れた俊敏性が味わえたのは何よりの朗報だろう。フロントバンパーとスプリッター、ヘッドライト周りをアレンジし、サイドエアインテークの形状まで変更したことに加え、リアウイングの面積を20%拡大した結果、5%ほどダウンフォース量が増加しているというところも実にマクラーレンらしい抜かりない進化だ。

上方に開くディヘドラルドアは、スーパースポーツであるマクラーレンの特徴のひとつ。クーペでも乗降時の利便性は高いが、オープン状態であれば格段に上がるはずだ。

それにしても、スーパースポーツモデルに限ったことではないが、昨今の多段化に慣れてしまったにも関わらず、マクラーレンの7速DCTにまったくと言っていいほど不満がないのはある意味で驚異かもしれない。実際に攻めてみても秀逸、むしろ“これがイイ!”とまで思わせてくれたのだから文句のつけようもない。ピュアな内燃エンジン・スーパーカーとして、完成されているのは間違いないと思う。

フォト:篠原晃一/KShinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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