国内試乗

【国内試乗】初の右ハンドル仕様にミッドシップ化。アメリカンスポーツの魂ともいえるクルマだ「シボレー・コルベット」

世のクルマ好きを騒然とさせた8世代目のコルベット。現行型はフロント・エンジン後輪駆動のFRからミッドシップへと大変貌を遂げた。リア・ミッドに鎮座する伝統の大排気量V8 OHVエンジンが渡辺敏史氏のツボでもあるという。

歴代最速のために初のミッドシップ化

コルベットは70年以上に渡り作り続けられている、世界で最も長い歴史を持つスポーツカーにしてアメリカンスポーツの魂ともいえるクルマだ。GMにとっても意地のみせどころであり採算度外視的な側面があるかと思いきや、年間3万台程度のセールスを淡々と維持する票田を持っている。992世代が絶好調のポルシェ911は昨年、5万台を記録したが、あちらに比べると商圏は小さく、ローカル色は俄然強い。アメリカのクルマ好きの層の厚さが垣間見える。

そんなコルベットがMR=リアミッドシップ化されたのは2020年、C8と呼ばれる現8代目のことだ。実はコルベットは機あるごとにコンセプトカーの開発などを通じてMRへの模索を重ねてきた。1950年代、GMがその先進性を示すべく移動型モーターショーとして企画されたモトラマを通じて多くのスタディが生まれたが、中には明らかにそれを示すものがある。

シボレー・コルベット クーペ3LT

これはパフォーマンスでコルベットの地位を押し上げるという開発責任者の意地でもあったわけだが、当時はF1でさえMR化への端境期だったわけで、技術的にも費用対効果的にも厳しい夢だった。結果的にコルベットはFRの道を選ぶことになる。が、程なくフォードGT40が欧州勢を押さえてル・マンの常勝組へと登り詰め、GMの幹部はそのマーケティング的な効果を目の当たりにすることになったわけだ。

1990年代後半、コルベットはFIAーGTカテゴリーでのレース活動を再開する。最大の狙いは1960年代に傍らで見ることになったル・マンでの勝利による知名度の向上だ。現にC5、C6世代ではエンジン本体や個性的な足回りからなる低重心ぶりを活かし、思惑通りの勝利を重ねていった。この活躍によりコルベットの米国外での年版は1万台に達したという話もある。

2LTおよび3LTともにエンジンはLT2と呼ばれるシボレーの6.2LスモールブロックV8自然吸気エンジンを搭載する。

が、C7世代になるとその伝統的なエンジニアリングに綻びが生じ始めた。勝つために求められるパワーに対してFRではトラクション的な限界がみえてきたわけだ。
その経過を身をもって実感していた開発チームは、遂にコルベットのMR化の承認をとりつける。結果、現行のC8コルベットはレーシングカーと完全並行という開発プロセスを歩むことになった。その過程で生まれたのが型式名称LT6、DOHCヘッドのフラットプレーンV8だ。今日びのエンジンとしては極端なビッグボア&ショートストロークにして、8500rpm超を回し切る5.5Lの自然吸気ユニットは、GTEやGT3で用いられるそれと基本的には同じものだ。

インテリアはドライバーオリエンテッドなデザイン。試乗車の3LTに採用されるスポーツシートは、サーキット走行にも対応するほどサイドサポート性に優れている。4種類のドライブモードは、センターコンソールに配置。

新開発ユニットのLT6型、伝統のOHVのLT2型

このカミソリのようなエンジンを搭載するZ06に対して、C8コルベットには伝統のOHV・V8を搭載したグレードもある。型式名称LT2は、これまた70年近くに渡るスモールブロックの系譜を忠実にトレースするユニットだ。この、LT2を積んだベースモデルとLT6を積んだZ06との違いは、それこそ911になぞらえればカレラとGT3の関係に近い。

シボレー・コルベット クーペ3LT

同じフラット6という骨格ながら、GT3のユニットは瞬きひとつの間に吹けきらんばかりのレスポンスと共に、超高回転域まできっちりパワーを乗せていく。カレラの側は過給器の特性を巧く操り、日常域でもトルクフルだけど平板にはならないよう、高回転域まで軽快に回りきるフィーリングを実現している。言い換えればカレラはフラット6の柔軟性を巧く使っているということになるだろうか。

シボレー・コルベット クーペ3LT

同様に、コルベットのベースモデルも伝統のOHV・V8が持つ中低回転域でのまろやかな回転フィールや心安らぐサウンドといった個性をそのままに、高回転域までスッキリと回し切ろうというエンジンの多面性が印象に強く残る。

対するZ06はいかにも精緻に組み上げられた機械が持つヒリヒリするような摺動感が特徴だ。パワーの乗り方は明快に高回転型で、芯を食っていくと吸い込まれるように高回転域に誘われる、そんな傾向がある。排気量的な余力で低回転域でもそれなりのレスポンスはあるが、やはりレーシング直系の出自は隠せない。

前後のデュアルトランクにより、357Lの荷室容量を確保。

このエンジンに引っ張られるかたちで、同じコルベットであってもそのタッチは大きく異なっている。パワーに負けない極太タイヤを履くZ06の側は操舵などを介して伝わり来るものにやはりマッシブな格闘感がある。ベースモデルの側は全般にしなやかで操舵ゲインの立ち上がりも丸く、軽く手を添えていればずっと真っすぐ走り続けるのも苦にならないという鷹揚さがある。MRにして、従来からのコルベットの美点をしっかり継承しようと思案していることが伝わってくる仕上がりだ。

日本仕様はZ51パフォーマンスパッケージが採用されており、ブレンボ製ブレーキやパフォーマンスエキゾースト、電子制御LSD、ミシュランのスポーツタイヤを標準装備。

魅力の継承という点でいえば、C8コルベットは実用性の高さも疎かにはしていない。フロントトランクとリムーバブルルーフを格納できるリアトランクとを合わせた荷室容量はベースモデルで357L。車内に手荷物置き場がないのは残念だが、素材や形状は選ぶも旅行にもきちんと対応するだけの積載力を備えている。サイズ的にはさすがに日本では大きいが、リフターや視界補助のカメラを標準で備えるなど、デイリースポーツカーであり続けようという努力の跡もみてとれる。ちなみに右ハンドル化によるドラポジの影響も無視できるレベルだ。

Z06でポルシェやフェラーリだけではない究極の内燃機体験を味わうもよし。ベースモデルでコルベットのある生活を気軽に楽しむもよし。価格は発売当初より上がったものの、ライバルに対する利は金銭的だけでなく心持ちの面でも充分に堪能できるだろう。

コルベット伝統のデタッチャブルトップは「C8」と呼ばれる8代目でも採用。エクステリアデザインは、最新のジェット戦闘機にインスパイアされたもの。ボディは軽量で高剛性なアルミスペースを採用し、たわみを排除。

【渡辺敏史の推しポイント】OHV V8の存在感は唯一無二

渡辺敏史/本国ではZ06のみならず、そのさらに上を行くZR1の存在が明らかになったが、コルベットのイズムを最も濃く感じるのはOHVのV8だと思う。動力性能的にも不満はまったくない上、回した時の存在感は唯一無二だ。

【SPECIFICATION】シボレー・コルベット クーペ3LT
■車両本体価格(税込)=16,500,000円
■全長×全幅×全高=4630×1940×1225mm
■ホイールベース=2725mm
■トレッド=前:1635、後:1570mm
■車両重量=1670kg
■エンジン形式/種類=LT2/V8OHV16V
■内径×行程=103.2×92.0mm
■総排気量=6156cc
■最高出力=502ps(369kW)/6450rpm
■最大トルク=637Nm(65.0kg-m)/5150rpm
■燃料タンク容量=70L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前後:Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後=Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:245/35ZR19、後:305/30ZR20

問い合わせ先=ゼネラルモーターズ・ジャパン TEL0120-711-276

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2024年6月号より転載

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