アストン・マーティン・ヴァンキッシュの国際試乗会がイタリアのサルデーニャ島で開かれた。新開発のV12エンジンを搭載する新たなフラッグシップは、アストンらしい上品さと動的性能を備えていた!
V12でしか得られないアストン・マーティンらしさ
アストンマーティンの新しいフラッグシップモデル“ヴァンキッシュ”が新開発のV12エンジンとともにデビューした。
排ガス規制が厳しくなるいっぽうの昨今、莫大な開発費をかけて新しいV12エンジンを作り出すことは、自動車メーカーにとって勇気の要る決断。そこにあえて踏み切ったことは、アストン・マーティンというブランドを支えるうえでV12エンジンが必要不可欠と判断した結果だろう。
ちなみにアストン・マーティンの新V12エンジンは社内のパワートレイン部門が開発し、生産はイギリス国内のサードパーティが受け持つ「純英国製」がウリとされる。また、この新型V12エンジンは年間で1000台ほどしか生産されないヴァンキッシュのためだけに作られるというから、なんとも贅沢な話だ。
その最高出力が835ps、最大トルクは1000Nmと聞くと、やや心が怯みそうになるが、サルディーニャ島の一般道を走り始めてみれば、800psオーバーというスペックからは想像もつかないほど扱い易いキャラクターであることに気づく。その最大の理由はスロットルレスポンスが良好で出力特性のリニアリティが高いことにある。おかげでパワーの湧きだし方が予想しやすく、いつでも期待どおりの加速感が簡単に手に入る。これが安心感に結びつくのは当然のこと。人は最高出力の絶対値に恐怖を抱くのではない。自分がコントロールできないパワーに怯えるのである。
内に秘めたポテンシャルとは裏腹な印象を与えるという意味でいえばシャシーもまったく同じ。タウンスピードではサスペンションがしなやかにストロークし、路面からの衝撃を軽やかに受けとめる快適性は、先にデビューしたDB12と共通するもの。しかし、ワインディングロードでステアリングを切り込めば、ドライバーの心を知り尽くしているかのような正確さと素早さでノーズが反応。しかも、ステアリングの応答もリニアリティが高いため、ひとつめのコーナーから自信をもってアプローチできる。コーナリングの絶対的なパフォーマンスが舌を巻くほど高いことはいうまでもないが、それ以上に優れた安心感を伝えてくれるハンドリングなのだ。
だからといってヴァンキッシュを、ただ出来がいいだけの退屈なハイパフォーマンスカーと捉えるのは大きな間違い。たとえば、高速道路での追い越し加速でスロットルペダルを深々と踏み込めば、それまで無音に近かったV12エンジンは徐々に存在感を示し始め、4500rpmを越えたあたりからは「クォーン」という快音を響かせるようになる。しかも、回転数の上昇につれてパワーが炸裂。高速道路では周囲のクルマをあっさりと置き去りにするほど圧倒的な加速感を示すのである。
もっとも、肌触りのいいレザーで包まれた快適なシートに腰掛けていると、ヴァンキッシュのパフォーマンスをフルに引き出すのは必要に迫られたときだけで、そうでなければできるだけ穏やかに走りたいと思うはず。そして、ステアリングやシートから伝わるほどよいロードインフォメーションや、V12エンジンの発する緻密で正確なビート感を味わいながらクルージングしているとき、ヴァンキッシュでなければ経験できない深い喜びを知ることだろう。
エクステリアデザインは、古典的ともいえるロングノーズ・ショートデッキのプロポーションを基本としながら、ていねいに磨き上げられた曲面と品のいいアクセントで現代的なグランドツアラーの姿を描き出した新型ヴァンキッシュ。ひたすらパフォーマンスを追い求めるスーパースポーツカーとは別物の落ち着いた味わいこそ、その真骨頂というべきである。
【SPECIFICATION】アストン・マーティン・ヴァンキッシュ
■全長×全幅×全高=4850×2044×1290mm
■ホイールベース=2885mm
■トレッド=前:1680、後;1670mm
■車両重量=1910kg
■エンジン形式/種類=V12DOHC48V+ツインターボ
■総排気量=5200cc
■最高出力=835ps(614kW)/6500rpm
■最大トルク Nm(kg-m)/rpm 1000(102.0)/2500-5000
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:275/35ZR21、後:325/30ZR21
問い合わせ先=アストンマーティン ジャパン リミテッド TEL03-5797-7281