
アウディのフラッグシップSUVであるQ8シリーズがマイナーチェンジを受けた。昨今電動化を推し進めているアウディだが、このQ8系ではBEVに加えてガソリン&ディーゼルモデルもラインナップ。その洗練された魅力を再確認することができた。
どっしりとした重厚感が魅力のQ8 TDI
アウディのSUVラインにおけるフラッグシップモデル「Q8」が、内燃機関モデルとEVでほぼ同時期にマイナーチェンジ。そしてこれらを前者は3L V6ディーゼルを搭載する「Q8 50 TDIクワトロ Sライン」、後者は「SQ8スポーツバックe-tron」で走らせ、それぞれが持つ魅力を確かめてみた。
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Q8 50 TSIクワトロSSライン(以下Q8 TDI)を走らせてまず驚かされたのは、その圧倒的な質感の高さだった。というのも筆者はエンジンを始動させたとき、そのあまりの滑らかなアイドリングに、最初はこれがディーゼルターボだと実感できなかったのだ。そしてアイドリングが落ち着き、外から微かなディーゼル音が聞こえるようになって初めて、これがディーゼルターボであることを実感した。ちなみにQ8には、3L V6直噴ガソリンターボ(340㎰/500Nm)もラインナップされている。

基本的な意匠はSQ8 e-tronと同様だが、ダッシュボードサイドまわりの造形が独自のデザインとなっているQ8のコクピット。SUVならではの高いポイントからの視認性の良さも美点のひとつだ。特徴的なのは後席周りの広さで、足元および頭上はゆったりとしたスペースが確保されている。
そんなQ8 TDIの乗り味は、どっしりとした重厚感が特徴的だ。ここ数年のアウディはそのライドフィールを快適方向に振ってきた印象がある。高い運動性能を発揮しながらも操作系は軽やかで、そこにエグゼクティブを表現してきた感があったが、新型Q8 TDIには、ワインで言えばフルボディのような“重味”を感じた。
その威厳に満ちた味わいを作り出す要因はまず、物理的にボディが2190kgと重たいからだろう。ゆえにクルマ全体がガッシリとしているのだが、その角がきれいに面取りされていて、まったく乗り心地を損なっていないのが素晴らしい。そして電動パワステの操舵感や、ショックアブソーバーのダンピング、エアサスのコンプレッション具合がここにトーンを揃え
る。その滑らかだけれど座りの効いた操舵感や路面からの入力の受け止め方には、単なるラグジュアリーを越えた、古典的なクルマ好きに好まれるフィーリングが練り込まれていると感じた。

3ℓV6のディーゼルターボのTDIモデルは最高出力272ps、最大トルク600Nmを発生。他に345ps/500Nmの3L V6TFSIのガソリンターボと、507ps/770Nmの4L V8ツインターボモデルのSQ8もラインナップされている。
3LのV6ディーゼルターボは、全域でそつがない。むしろ驚くべきは1750rpmという低回転領域から発揮される600Nmの最大トルクを、いっさいギクシャクさせることなくゼロ発進から捌き切るエンジン及びトランスミッションのマネージメントだ。最近はEVの台頭で内燃機関のトルクを過小評価しがちだが、ベアリング性能もかなりのものなのだろうがアクセルの踏み出しからQ8 TDIのタイヤはよく転がり、踏み込むほどにV型6気筒の心地良い回転上昇感と共に、その速度を高めて行く。加速度を高める際に“グッ”と僅かに掛かるタメ感、Gが背中を押すフィーリングがなんとも心地良くて贅沢だ。

ラゲッジスペースは標準状態で605ℓと十分な容量。ホイールは22インチの大径で、タイヤはコンチネンタルのスポーツコンタクト6が装着される。
そしてスピードの上昇に合わせてステアリングが重たさを増し、サスペンションが大地に根を下ろす。その矢のように突き進む直進性には、かつてのアウディを思い出して嬉しくなった。これこそがクワトロのイメージだ。またそこからステアリングを切り込めば、絶妙なダイアゴナルロールと共にコーナーをクリアする。その際手の平にはタイヤのグリップ感が、ありありと伝わってくる。そこには多分にオールホイールステアリングの助けもあるはずだが、全てが自然で、かつダイナミックである。
このディーゼルターボは、回して官能的とは言えない。またエミッションの関係もあるだろう8速ティプトロニックのレスポンスは、特にダウンシフト側が緩慢だ。そういう意味ではこの先にスパイスを求めるならガソリン仕様の3L V6ターボ、もっといえばSQ8の4L V8ツインターボ(507㎰/770Nm)を狙うべきかもしれない。しかしこの3L V6ディーゼルターボがもたらすトルクとそのマネージメントは、日常での走りを豊かにする。そして上質な時間を与えてくれる。内燃機関の楽しさだって、少しある。
リニアなハンドリングが美点のSQ8 e-tron
ここまでQ8 TDIが優れたトータルパフォーマンスを示すと、まだまだピュアEVへの移行は、アーリーアダプターじゃない限り必要ないのではないか? 確かにその優れた重量バランス、114kWhの大容量バッテリーを床下に敷く低重心なシャシーがもたらす走りは素晴らしいだろうが、許されるうちは内燃機関を楽しむべきなのではないか? そう思いながら乗り込んだSQ8スポーツバックe-tronだったが、「S」の称号をまとうだけあって格が違った。通常EVはそのクリーンかつシームレスなキャラクターを前面に押し出すべく、“良い子ちゃん”が多い。しかしSQ8 e-tronのハンドリングは恐ろしく精緻で、むしろQ8 TDIよりもソリッドだった。
アウディがこうしたフットワークを本機に与えたのは、当然ながらその2720kgという車重、そして最大973Nmにも及ぶトルクを受け止めるためだが、SQ8 e-tronはその剛性感を積極的に乗り味に反映させているから、これを常用域で走らせるとそのハンドリングは、極めてリニアだ。
ちなみにかつての「アウディe-tronスポーツバック」からマイナーチェンジするにあたり、バッテリーにはスタッキング方式が採用され、電極を折り重ねるように配置したことで容量が95KWhから114kWhへと増えた。またその後続距離も415kmから482kmへと、67kmも伸びている。

アウディならではのモダンなコクピットは先進的なイメージが特徴。センターコンソールの2分割タッチ式ディスプレイは使い勝手も良く直感的な操作が可能だ。フロントシートは大きめのサイズながらサイドのサポート性も良好でスポーツドライビングにも許容してくれる。スタイリッシュなデザインのシフトレバーも印象的だ。
内燃機関では実現しがたい車体剛性と重量バランスをもったボディを、ダブルウイッシュボーンサスペンションで支えながら切り込むステアフィールには、この巨体を緻密に動かす面白さがある。エアサスと可変ダンパーのしまり具合は洗練されたスポーティさで、タイヤからの入力をしっかり受け止めながらインフォメーションだけドライバーに伝えてくる。
モーターはフロントに1基、リアに2基搭載されているが、リアのグリップが失われたときや、急加速時以外はリア駆動で走るという。コーナーではふたつのモーターをベクタリングさせ旋回性を高めるというが、その走りは制御のロジックすら悟らせることなく自然だ。そしてどこから踏んでも素早く、無駄なくトルクを立ち上げる。

スタイリッシュなデザインの20インチ5スポークホイールにはハンコック製のEV向けタイヤVentus S1 evo3 evが装着。ラゲッジスペースはリアに標準で528ℓの容量のほか、フロントにも収納スペースが備わる。
その車重ゆえ0→100km/h加速は4.5秒と割に平凡だが、それでも間髪入れずに加速態勢へと移る様はEVならではだ。この加速にケチを付けるとしたらそれはやはりモーターの特性で、オールドスクールな筆者にとっては新幹線のような滑らかさよりも、ギアトレインが噛み合って、クラッチを素早く断続させる加速の方がリアルだと感じた。スピードにはリスクが伴うからこそ、ある種の荒っぽさは敢えて必要だと思うのだ。とはいえヒョンデ・アイオニック5Nが先鞭を付けたように、こうした人間の感覚に沿う疑似制御や疑似的なエンジンサウンドも、これからは再現されて行くだろう。
SQ8 e-tronにネガティブがあるとすれば、それは先の読めない大容量バッテリーの減り方と、それをストレスなくチャージできるインフラの不足だろう。アウディのe-tronは現状でもかなり実用度の高いEVだが、それでも航続距離を気にしながら走るストレスからはまだ解放されてはいない。またライバルたちが急速にインフォテイメントを発達させているなか、アウディが巨大スクリーン戦争に参戦できてないところには物足りなさを感じる。見た目の割にまじめかつコンサバなのが、アウディの長所でもあり短所だ。今回は比較試乗ではないが、そういう意味では現状Q8 TDIの完成度を筆者は推す。