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EVの「新型リーフ」はなぜ「e-POWER」と部品を共用? 心臓部「3-in-1パワートレイン」に隠された、日産の戦略

新型日産リーフ登場! EVの草分けが示す次の一手とは【第4回】

4回にわたる新型日産「リーフ」の徹底解説、最終回は走りを支える技術に焦点を当てる。公表された600km以上という航続距離と、EVならではの走行性能は、どのような技術的背景によって実現されたのか。その根底には、日産が「効率至上主義」と呼ぶ開発思想が存在する。巨大なバッテリー搭載に頼るのではなく、車両全体のエネルギー効率を極限まで高めるというアプローチと、そのメカニズムを解説する。

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開発思想「効率至上主義」とは

第3世代リーフの開発において、日産の技術チームが軸として掲げたのは「効率至上主義」という思想だ。これは、航続距離を伸ばすためにバッテリー容量を際限なく増やすのではなく、空力、熱管理、パワートレインといった車両を構成するあらゆる要素の効率を高め、エネルギー損失を最小化することで、実用的な性能を最大化するという考え方である。EV開発が新たなフェーズに入る中で、日産が選択したアプローチと言える。

パワートレイン:新開発「3-in-1」ユニットの狙い

この思想を走りの面で体現するのが、日産として初採用となる「3-in-1電動パワートレイン」だ。これは、従来は別体だったモーター、インバーター、減速機を一つのユニットに統合したもので、第2世代リーフ比で体積を10%削減しつつ、最大トルクは4%向上したという。

このユニット統合の背景には、日産の電動化戦略全体を見据えた狙いがある。それは、同社のもう一つの電動化技術であるe-POWERとの部品共用化だ。将来のe-POWERシステムと、中核部品であるインバーターやモーターのコア部分を共通化する「X-in-1」構想の一環であり、生産における規模の経済を追求することでコストを抑制し、高性能な電動ユニットの普及を目指す。この戦略が、新型リーフの価格競争力にも影響を与える可能性がある。

EVの課題の一つである静粛性についても、新たな対策が講じられている。新パワートレインの高剛性ハウジングに加え、ローター内部の磁石配置をずらす「多段スキュー構造」を採用し、モーターのトルク脈動(振動の源)を抑制。さらに、新設計のモーターマウントにより、車体へ伝わる振動を従来比で75%低減したとしている。

また加速フィールについては、急な突き上げ感を抑え、なめらかさが持続する「スウェルフィール」を追求したとのことだ。

エネルギーマネジメント:熱の統合制御

車両全体のエネルギー効率を左右するのが「熱」の管理だ。新型リーフでは、このエネルギーマネジメントが大きく進化した。

・統合熱マネジメントシステム
従来は個別に制御されていたエアコン、バッテリー、パワートレインの熱回路を、一つのシステムとして統合的に制御することにより、モーターや車載充電器(OBC)から発生する廃熱を、冬場の暖房やバッテリーの加温に再利用することが可能になった。特にエネルギー消費が大きい冬季の航続距離低下を抑制する効果が期待される。

・ナビリンクバッテリーコンディショニング
日産初採用となるこの技術は、ナビゲーションシステムとバッテリーの温度管理を連携させるものだ。目的地までのルート情報(勾配、高速走行の有無など)を先読みし、バッテリーの冷却モードを最適化したり、急速充電器への到着前にバッテリーを最適な温度に調整したりすることで、エネルギー効率と利便性の両立を図る。

AWDモデルが追加される可能性は?

走行性能の土台となるシャシーも改良が加えられた。プラットフォームはアリアと共通の思想を持つCMF-EVをベースとし、リアサスペンションには、乗り心地と操縦安定性で有利とされるマルチリンク式を採用。ボディの横方向の剛性も従来比で66%向上させ、安定した走りを目指している。

そして、将来の展開を占う上で興味深いのが、AWD(4輪駆動)モデルの可能性だ。この点について開発責任者は、
「このプラットフォームはリアへのモーター搭載を想定して設計されており、技術的にはe-4ORCEを搭載可能」
との見解を示している。FFのみだった従来モデルに対し、プラットフォームレベルでAWD化への道筋が用意されていることは、今後の高性能モデルや降雪地向けモデルの登場を期待させる。

EV市場におけるリーフの新たな役割

第3世代の日産リーフは、EVのパイオニアとして蓄積してきた知見を基に、「効率」という軸で再構築されたモデルである。航続距離や充電といったEVの基本的な課題に正面から向き合うと同時に、デザイン、ユーティリティ、そして走りにおいても、内燃機関車からの乗り換えを促すための様々な工夫が凝らされている。競争が激化するEV市場において、この新型リーフがどのような評価を受け、どのような役割を果たしていくのか、その真価が問われるのはこれからだ。

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LE VOLANT web編集部

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